遊園地はいずれ全てアウトレットになる!? ー 遊園地はなぜ潰れるのか Part 10
こんにちは、ricebag(@ricebag2)です。
日本の遊園地はなぜ次々に潰れてしまうのか、どううれば潰れずにすむのか、といったことを具体的な数値データや推計をベースに論じてきたこのシリーズ。
最後に、禁断の話題に触れておかなければなりません。
それは、遊園地が黒字であろうと赤字であろうと、それより儲かる施設のアイデアがあるなら、それに置き換えられてしまうのではないか、ということ。
実際に国内ではアウトレットモール、ショッピングモールに置き換えられた例は多数ありますし、これからもそういったことは起き得ると思われます。それは一体なぜなのか、遊園地とショッピング施設ではどちらが儲かるのか、具体的に検証していきます。
1. 過去の例を検証してみる
まずはいくつか、遊園地跡地の活用例を見てみましょう。
1.1 御殿場
遊園地がショッピング施設に置き換えられた代表例といえば、やはり「小田急御殿場ファミリーランド」でしょう。
この表現ではピンとこない方もいらっしゃるかもしれませんが、現在の「御殿場プレミアム・アウトレット」だといえば伝わるのではないでしょうか。
御殿場プレミアムアウトレットといえば、押しも押されもせぬ日本一のアウトレット。日本のアウトレットのパイオニアとして確固たる地位を築いた、国内ダントツ一位の売上金額を誇る施設です。
開業当時の御殿場プレミアム・アウトレットには、ファミリーランド時代の一部アトラクションが残存していたため、元遊園地だったことをご存知の方も多いかと思います。
アウトレットがどれだけスゴイのか、ということを数字で示しておきましょう。
遊園地の売上規模は、年間入場者数100万人で50億円前後です。
これに対して、御殿場プレミアムアウトレットの施設売上高は2018年3月期で910億円。
文字通り、「桁が違う」のです。そりゃ、遊園地潰しますよね。
ただし、御殿場はいろいろと事情が特殊です。
まず、遊園地時代の経営母体。「日本の遊園地はなぜ安いのか」という内容をご紹介した記事でも述べましたが、鉄道会社経営の遊園地というのは、それ単体で利益を上げる目的ではない場合があります。「近くに遊園地がある」という魅力で沿線価値を向上させて、その沿線に住民を呼び込む手段として使われるのです。ですから、利益が少なくても潰れない遊園地というのは意外に多いのです。
御殿場ファミリーランドも小田急電鉄系列でしたから、沿線の魅力向上が目的なのかと言えば、実はそうではありません。最寄り駅の御殿場駅は、JR御殿場線しか通っていないのです。
JR御殿場線には小田急の「特急あさぎり」が乗り入れているとか、小田急新松田から便が良いとか、小田急の別荘地が近くにあるといった事情ももちろんあったのでしょうが、それだけならもっと別の候補地があったはずなのです。さらには、小田急沿線には「向ヶ丘遊園」という遊園地がありました(2002年閉園)から、御殿場ファミリーランドは沿線の魅力向上にはそれほど寄与しないのです。
にもかかわらず御殿場に遊園地を作ったのは、ファミリーランドは「利益を目的とした遊園地」だったから。東名高速からほど近く、電車も通っていて、箱根や富士山といった観光地が近いために「ついで需要」も狙える。さらには峠を隔てた向こう側には、富士急ハイランドという娯楽+スポーツ施設の成功例もある(富士急ハイランドは1964年、小田急御殿場ファミリーランドは1974年の開園)。
というわけで利益を狙ってオープンしたファミリーランドでしたが、その目論見は見事に外れます。年間入場者数は100万人突破がやっとで、それ以降はジリ貧。利益を目的としているのに利益が出なくなれば、当然閉鎖されます。
アウトレットの売上的にも、御殿場は異常です。
通常のアウトレットは、年間売上高50億円~200億円程度を狙ってきます。それに対して御殿場だけは1,000億円規模。店舗数は2019年1月現在205店舗ですから、1店舗あたり4億円オーバーという驚異の売上です。各店舗が1万円の品を毎日平均100個以上売って、ようやく実現できる金額なのです。
御殿場は、日本の大動脈である東名高速から近く(と言いますか、隣接しています)、箱根や山中湖、富士山、伊豆といった観光地も近い。バスツアーなどを組むには最高の立地ですし、外国人観光客も多く訪れます。子供連れよりも大人が多く訪れる観光地ですから、遊園地よりも高級路線かつ「行く価値のある価格」になっているショッピング施設(=アウトレットモール)が最適。
これだけ立地の良い土地は他にありません。御殿場は、ショッピング施設になるべくしてなった例なのです。
1.2 エキスポランド
もう1つ、遊園地からショッピング施設へと変貌した土地といえば、大阪のエキスポランド跡地が有名でしょう。
ローラーコースター「風神雷神Ⅱ」の事故を機に業績が低迷し、閉園になってしまった施設です。
こちらは三井不動産系のららぽーとが入居しています。
同じ三井系の「三井アウトレットパーク大阪鶴見」が近くにありますので、アウトレットにはなりませんでしたが、ショッピング施設をメインに据えて、体験型教育施設なども併設する構成。
ここもやはり、立地条件は御殿場に似ています。名神高速と中国自動車道という2つの大動脈に隣接し、モノレールの駅前。大阪と京都を結ぶ線上にありますので、観光の移動中に立ち寄れる立地。
こんな土地を、不動産会社が放っておくわけがありません。
1.3 スペースワールド
こちらは現時点で未オープンですが、北九州市のスペースワールドは2017年の閉園後、イオン系のショッピング施設へと変貌する予定です。
ただし、以前の記事でご紹介しましたとおり、そもそもスペースワールド閉園はいろいろといわくつき。
こちらは業績不振というよりも、いろいろと政治的理由で閉園が決まった施設ですので、ちょっと例外かもしれません。
ここの場合は市街地の中心部に位置する、都市密着型の遊園地。遊園地時代は商圏が広めでしたが、大型ショッピング施設にすると、人工の多い福岡市や福岡以南・以西については鳥栖プレミアム・アウトレットとの競合になります。
このため、イオンは単なるショッピング施設ではなく娯楽と複合型の新業態とする予定の模様。
それでもなお、立地は駅前かつ都市高速の出口横という素晴らしさ。
2. ショッピング施設にならなかった例
ここまで読んでいただいた方にはもうお分かりだと思いますが、遊園地をショッピング施設へと置き換えるためには立地が大切です。しかも、大抵の遊園地はショッピングに適した立地になっていません。
その例をいくつか見ておきましょう。
2.1 大学になった例
遊園地の立地は、大抵は郊外の閑静な地域です。
こういった場所はショッピング施設を始めとする商業施設には向きませんので、大抵は閉園後の跡地利用で揉めます。
跡地利用が難航した場合の最終手段として使われるのが、大学利用。
例えば2001年に閉園した横浜ドリームランド跡地は横浜薬科大学に。
1998年に閉園した、福岡県南部のネイブルランドは帝京大学に無償譲渡(隣接地はイオンモールになっています)。
2009年閉園の多摩テックに至っては、揉めに揉めた挙げ句、未だ大学建設には至らず、現在は明治大学と三菱商事が係争中です。
こんな感じで、近くに高速のインターがなかったり、山間部に作ってしまったり、といった遊園地は閉園後に悲惨な末路をたどることが多いのです。
2.2 商業施設と共存している例
現存する遊園地にも、商業施設と共存することで生き延びている例がいくつかあります。
最も有名なのは、ナガシマスパーランドでしょう。
すぐとなりに三井アウトレットパーク ジャズドリーム長島という国内最大級のアウトレットモールを併設しています。
三重県に位置してはいますが、名古屋市からほど近く、伊勢湾岸道のインターからもすぐというアクセス。さらにはナガシマリゾート自体の観光地としての集客力をあてにした出店。
こういう共存関係は、一度確立してしまえばショッピング施設に乗っ取られる心配がありません。
ちょっと形態は違いますが、那須ハイランドパークも、近くにアウトレットモールができてしまったことで、今後アウトレット化されることはなくなった施設です。
こちらは三菱地所系の別荘地の中核施設であるために、なかなか潰すという選択が難しい施設。しかも東北本線の駅からも、東北自動車道のインターからも遠い高原地域に位置するため、ショッピング施設にするには立地が悪すぎる。
そんな中、東北自動車道のインター至近、東北新幹線の那須塩原駅からも遠くない位置に、ほぼ独立系(現在は外資)の那須ガーデンアウトレットが2008年にオープンしてしまいました。
というわけで、三菱地所系のプレミアムアウトレットは出店するメリットが無い状況。
ハイランドパークはファミリーで楽しめる高原アクティビティ施設などに鞍替えする可能性こそありますが、ショッピング施設に変わることはないでしょう。
ちなみに、業績悪化に伴い、いち早くショッピング施設を誘致して共存しようとしたのがとしまえん。
2000年に一部アトラクションを閉鎖して園を縮小し、トイザらスをオープンさせています。
そのあととしまえん自体は一旦潰れていますので、この施策がうまく言ったかどうかは置いておいて、ある種の先見性を感じます。
3. 今後、遊園地がショッピング施設になる可能性はあるのか
結論から言いますと、今も営業している遊園地を、ショッピング施設に変える目的で閉鎖することはありえません。
と言いますのも、小田急御殿場ファミリーランド並に立地の良い遊園地はもう残っていないのです。
唯一、富士急ハイランドだけは観光立地とインター近くという条件を満たしますが、高速は中央道の支線ですし、鉄道駅も富士急の支線。アウトレットにしてしまうと商圏が御殿場プレミアム・アウトレットともろかぶりになりますので、まずあり得ないでしょう。
ここまで述べてきましたとおり、年間100万人~200万人の集客をするためには、まる1日潰せる大型遊園地であって大都市圏近郊であれば、立地が悪くてもなんとかなりますが、ふらっと立ち寄りたいショッピング施設では立地が重要になるのです。
遊園地を潰して作るだけの大型施設となると、インター至近、駅至近は必須条件。
さらに、近くにあるインターがどういう性質のものかというのが重要になります。大都市間を結ぶ大動脈でなければ、大手のアウトレットモールが動く余地はありません。
例えば、若干立地の悪い仙台泉プレミアムアウトレットですら、ギリギリ仙台市内ですし東北道のインターから10分以内なのです。
むしろ、遊園地好きが警戒すべきは、単純な収益悪化による閉園。
または収益性低下に嫌気がさした運営会社が、低コストで運営可能なアクティビティ施設(ジップラインやアスレチックなど、屋外で楽しめるタイプ)への転向を図ること。
つまりは、年間入園者数150万人~200万人規模を達成できれば、十分な収益は確保できますので、まず潰れることはありません。他に有効活用できないまとまった土地で、わずかながらでも利益が出ているのなら潰す理由がありませんからね。
というわけで安心して遊園地に通いましょう!
4. 次に読むのにオススメの記事
「遊園地はなぜ潰れるのか」シリーズを含む、遊園地関係の評論・オピニオン記事は以下のページにまとめています。
遊園地やコースターの紹介記事は以下のページにまとめています。
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