遊園地は政治の力を活用すべきか ー 遊園地はなぜつぶるのか 番外編3

富士急ハイランド「高飛車」ひねり部

2020年12月9日、衝撃的な記事が公開されました。デイリー新潮が「富士急ハイランド存続危機」との見出しで、富士急行と山梨県とのトラブルの解説記事を書いたのです。

https://www.dailyshincho.jp/article/2020/12090557/

そのトラブルは、11月から報じられてきたもので、住民男性が山梨県を相手取って起こした訴訟に端を発しています。その背景には、富士急行と政治とのつながりがあって、政争に巻き込まれたことが影響しているというのです。

富士急行に限らず、東京ディズニーリゾートも、その他鉄道系遊園地も、大型レジャー施設は政治と切っても切れない関係があります。果たして遊園地が政治の力を活用することで得られるメリットは、政争に巻き込まれるデメリットを上回るのか。いくつかの遊園地を例に取りながら、考えてみたいと思います。

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1. 富士急行と山梨県知事の確執

今回の問題は、山梨県の住民が山梨県を相手取って起こした裁判に端を発しています。富士急は長年、山中湖畔の別荘地を山梨県から借り受けていますが、その賃料が不当に安く設定されているというのです。

実際、賃料は現況の相場から考えると安いものなのですが、そこにはからくりがあります。そもそもこの地域は未開発だったところを、富士急が開発したことによって地価が上昇したのです。賃料相場の上昇は富士急の功によるところが大きいので、山梨県は開発前の相場で富士急に貸している状況なのです。

とはいえ、富士急行と山梨県は、「50年間は賃料据え置き」といった契約を結んでいるわけではありません。また、山梨県や山中湖村による道路整備等、自治体のおかげで土地の価値が変化したという側面も無きにしもあらずでしょう。事情を鑑みて人情を持って判断するなら、賃料を変更すべきではありませんが、法的拘束がなにもないのであれば「取れるものは取っておけ」という住民の主張も理解できなくはありません。

問題は、訴訟を起こした住民というのが、山梨県知事に近い人物だとされていることです。

富士急行の社長の奥さん(堀内詔子氏)は、衆議院議員です。選挙区は社長のお父さん(堀内光雄氏)から受け継いだ、血のつながらない4世議員です。しかも、奥さんは大久保利通や鍋島藩主の血を引く一族。どちらも政治家・経営者一族なのです。

その光雄氏は、現在の山梨県知事(長崎幸太郎氏)と何度も選挙で争います。光雄氏が郵政民営化に反対したことから自民党を離党、刺客として送り込まれた長崎氏に勝利(ただし、長崎氏は比例で復活)。その後、光雄氏が自民党に復帰・公認となったため、長崎氏は離党、無所属に。さらに詔子氏が選挙区を引き継いでからは、無所属ながら長崎氏が2勝。3戦目では、長崎氏が所属する派閥の長、二階氏が勝った方を公認するという方針を打ち出したために両者無所属で勝負、詔子氏勝利に終わります。その後、長崎氏は県政に転身して県知事に。

選挙の際には怪文書が飛び交うなど、骨肉の争いを続けてきた両氏。その恨みもあって、県知事は支援者に支持を出して、今回の訴訟を起こしたのではないか、とされているのです。

しかしながら、後述しますがこの解釈はあまりに短絡的といいますか、偏った見方だと考えています。

2. 遊園地と政治

遊園地の運営会社が政治と深い関わりを持っているのは、何も富士急だけの話ではありません。

例えば東京ディズニーランドの開設にあたっては、県から払い下げられた土地が活用されていますし、現金の不足を補うために、その払い下げられた土地を住宅用地として転売するような、ある種、県から一私企業への利益供与と取られかねないような動きもありました。結果的に、ディズニーランドの存在は県に大きな収益をもたらしているでしょうから、そこまで考えればアクロバティックではあるものの正しい投資だったわけですが、突っ込まれたらアウト(実際、当時そういった新聞報道もされています)なことをやっています。

このあたりのお話は、ディズニーランドっぽいテーマパーク創設時の実話っぽい裏話を描いたフィクション「夢を喰らう」に詳しく書かれていますので、興味をお持ちの方は是非。

3. 政治のコネはメリットかデメリットか

問題は、政治と関係を持つことがメリットになるのかデメリットになるのか、という点です。

県政や国政に対して強い影響力を持つことの最大のメリットは、自社に有利な政策が通りやすくなることです。

一方のデメリットは、今回の富士急の件のように、政敵に刺される恐れがある、ということです。政治は必ずどこかに利益・利権を生みますので、それを巡って対立が生じます。対立のない政治など、まずありえません。ですから、政治家と関係を持てば、その政治家と対立する人物とは対立することになってしまいます。政敵に計略をめぐらされてしまうと、ハマってしまうことがあるのです。なにせ、どこから来るかわからない攻撃を防御するのは至難の業ですから。

 

さて、上記のメリット、は必ずしも政治家と強いコネクションを作らなくても得られるはずです。その時々でキーマンに対してビジョンを説明して共感してもらうことで、動いてもらう。深い関係性は持たずに、その時その時の状況に合わせて接する。平時には政治から距離を取る。

もちろん、政治家と強いコネクションを持っていたほうが楽ではありますが、あえて距離をおいておくことで裏を疑われる心配がありませんし、上述のデメリットも回避できます。

現代社会では、政治・行政とはこのように付き合うのが正しいのではないでしょうか。

 

 

4. 富士急は県知事に刺されたのか

これで本稿の本題に対しては結論が出たのですが、1つ気になるポイントが残っています。富士急は県知事に刺されたのかどうか、という問題です。

このような疑問を呈するのには理由があります。それは山梨県と富士急の、相互の依存度の高さです。

山梨県はそもそも平地が少なく、比較的標高の高い盆地ばかりで海もないので、1次産業といえばぶどうやももなどの果物中心。2次産業は、大手企業の母体として本社があるのはファナックくらいのもので、やはり立地と地形が災いして産業が発展していません。

頼みの綱の観光は、ほぼ富士山一本足打法状態です。

 

富士山の観光は、山梨県側、静岡県側を問わず富士急行が牛耳っています。そもそもこの一帯で大型観光バスや路線バスを大量に保有しているのが富士急行くらいのものですので、例えば富士宮口の駐車場から五合目までの登山客輸送は富士急行のバスが担っていますし、路線バスは当然自治体のものを除けば富士急行のみです。イベントごとがあれば、例えば自衛隊の富士総合火力演習の客輸送も富士急バスですし、御殿場プレミアム・アウトレットの混雑時の場外駐車場との送迎バスも富士急主体です(一部西武系の伊豆箱根鉄道がいたりもします)。山梨県側は言わずもがなです。

そんなわけで、このあたりの自治体にとって富士急はなくてはならない存在ですし、逆に富士急側も自治体や地元に大きく依存しています。

 

そんな中、先日、富士登山鉄道に関する山梨県の素案が公開されました。これは長崎幸太郎 山梨県知事の肝いりの事業。吉田口五合目までの富士スバルラインを代替するもので、諸外国の登山鉄道を参考に1~2万円の料金設定とすることで、初年度からの黒字化を目指すドル箱路線。

場所とノウハウを考えれば、富士急の出資なしには成り立たなさそうな事業です。

一方で富士急が別件でヘソを曲げて事業に参画しないことになれば、利便性が大きく低下しかねません。というのも、山麓駅の予定地は富士急ハイランド近く。富士急行の駅からは離れていますので、富士急行線との接続をうまくやらないと、特にできれば富士急ハイランド駅から富士急ハイランドを超えていくような交通手段を用意しないと、鉄道利用者を切り捨てることになってしまいます。

場合によっては、富士急は鉄道とバスを組み合わせて、吉田口よりも須走口を拠点にしてしまっても良いわけです。そうなれば、パッケージ提供や料金設定に勝る富士急に客を取られ、登山鉄道の事業性が怪しくなってしまいます。県知事公約の事業をすすめるためにも、富士急のへそを曲げるわけには行かないのです。もちろん、登山鉄道を他社に任せて富士急から吉田口を取り上げることができれば、富士急には大ダメージですが、それではおそらく県も富士急も共倒れになってしまうのです。

 

さて、そうした視点で今回のトラブルを改めて見直してみると、単に私怨と言えるほどシンプルではなさそうな気がします。

上述のように、富士急の本業ではない部分に嫌がらせをするには、大きな代償があります。県としての発展性を度外視して嫌がらせをしに行くとは考えにくいです。

考えられる可能性の1つは、県の財政のために手を打ったということ。賃料が上がればそれだけ県の収入が増えますので、ちょっとは財政の足しになるはず。そのついでに富士急への嫌がらせもしてみた、というのも考えられなくはありません。ただ、県の予算規模からすれば決して大きくない額の収入増を狙って、わざわざ支援者に県を相手取って裁判を起こさせるような策を巡らすかと言われると、ちょっと腑に落ちないところがあります。

そこでもう1つの可能性を考えてみます。それは、継続しなければならない契約もないのに不当に安い金額で土地を貸していることで、県に損害をもたらしているとしてメディアや市民団体に訴えられる可能性を考慮した、というもの。訴訟内容自体は今回の訴訟と全く同じですが、それを県知事の支持者が起こすか、対立相手が起こすかで意味合いは全く違ってきます。県知事の支持者が起こせば、落とし所も決まった出来レースになりますが、敵対勢力が起こせば泥沼の戦いになってしまいます。そういった動きを事前に察知して、身内で訴訟を起こすことで、争いの芽を摘んでしまったのではないか、ということです。もしそうであれば、県知事はかなりの策士です。一方、富士急側が「寝耳に水」的なコメントを出しているのが気になりますが。。。

 

いずれにしましても、今回の件は低い金額での貸借を行うことについて、予め契約を結んでいなかった県・富士急双方に落ち度があります。おそらくそうした契約を結ばなかったのにも何らかの背景があったんだと思われますが、なあなあの口約束で利益供与なんてことができない社会になってしまった時点で、何らかの手を打っておくべきでした。

こうした中途半端な状況が招いた結果であって、県知事に刺されたわけではない……と信じたいところです。それを踏まえた上でも、やはり遊園地は(といいますか、一般企業全般は)政治とは一定の距離を取るのが、現代社会では正しい振る舞いのように思います。