ローラーコースターはどうやってカーブを曲がるのか ー 遊園地でSTEM+CHEG教育

4輪独立回転式の車台

ローラーコースターは、カーブに差し掛かると車輪がどう動いて、どのように曲がっていくのか、イメージできますか?

実は、ローラーコースターの車輪周りの仕組みは、鉄道とも自動車とも違う、独自の進化を遂げているんです。ローラーコースターの車輪の構造を紐解いていくことで、機械工学の知識だけでなく、図形や歴史、論理的思考力などを身に着けていくことができます。

ローラーコースターの行列に並ばれる際は、是非この記事をご参考に、お子様やご友人とローラーコースターの動きを見ながら車輪がどう動いているのか議論してみてください。

 

 

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1. ただ車輪を付けただけの台車は曲がれない

ローラーコースターのライドは、ただ乗り物に車輪を付けただけ……ではありません。

車輪がついているだけの台車では、カーブを曲がれないのです。

どういうことかといいますと……、下の画像をご覧ください。

シンプルなライド
乗り物に車輪を付けただけのシンプルなライドを下から見た図。

小さなチョロQやミニ四駆のように、2つの車軸(シャフト)があって、その両端に車輪がくっついているシンプルな構造。

こんなライドにカーブのあるレールの上を走らせたらどうなるでしょう。カーブで曲がろうともせず、そのまま真っすぐに落っこちていってしまいます。

 

実は、1884年(日本では明治維新の17年後!)に作られた、現代のローラーコースターの原型となったコースターは、このようなカーブを曲がれないライドを使っていました。なんでこんなライドで良かったのかといいますと、コース中にカーブが無かったのです。行きと帰りで2つのコースがありましたが、その間はマッチョがライドをヨイショと持ち上げて乗せ換えていたのです。もちろん、ちょっとしたレールのブレでライドが脱線しないよう、少しだけ工夫はされていましたが、ほぼ大きいプラレール状態でした。

スイッチバックレールウェイ
アメリカ初のローラーコースター「スイッチバックレールウェイ」。コース中にカーブがありません。

その後、コース中にカーブが作られるようになって、車輪周りの構成が変わっていきます。歴史を追いかけながら、その様子を見ていきましょう。

 

 

2. 鉄道に学んだ初期のローラーコースター

現代のローラーコースターは、そもそも歴史的に鉄道から派生しています。ただし、鉄道とは言っても現代の電車のように、モーターなどの動力を積んではいません。重力で落っこちていく、動力のない列車でした。

立体交差するマウフ・チャンク・スイッチバック・レールウェイ
動力も何もなく、ただ坂を転がり降りていくだけの列車。画像は著作権切れのため転載可、ダウンロード元はwikipedia。

ですから、ローラーコースターにも鉄道の技術が転用されたのは当然のことです。

 

ここで一度、曲がれない車体の問題点を振り返ってみましょう。

1つは、車輪左右に向きを変えられないことです。ですが、車輪が左右に回転できるような機構を付けただけでは、問題は解決しません。

もう1つの問題、それは、車輪がカーブに沿って曲がるような仕組みがないことです。この仕組みを作らない限り、たとえ車輪が左右に向きを変えられても、カーブでは車両がまっすぐそのまま進んでレールから落っこちてしまいます。

後者に対する対策は、現代のローラーコースターには見られなくなったものですが、鉄道では現在も使われている技術です。それは、「車輪にテーパーをつける」というもの。簡単に言うと、車輪とレールとの接地面を斜めにしてしまうのです(鉄道の場合は更に、車輪の内側にL字の「壁」を作って脱線を防ぎます)。

テーパーを付けた車輪
車輪とレールとの接地面を斜めにしたライドを前方から見た断面図。

モノにはそもそも、それまで進んでいた方向に、同じ速さで進み続けようとする性質があります。これを慣性の法則と言います。このため、何も工夫をしなければ、レールが曲がっていても車両はまっすぐに進んでレールから落っこちてしまうのです。

慣性の法則に逆らって車両の向きを変えるためには、何か力をかけてやらなければなりません。そのために考えられたのが、車輪にテーパーを付けるという方法です。こうすると、カーブに差し掛かると外側の車輪はレールの上にせり上がっていきます。一方で、車両に働く重力はせり上がりを妨げる方向に作用します。このバランスによって、車両の脱線を防ぐことができるのです。

ちなみに、ローラーコースターの場合は鉄道よりも急なカーブが作られます。急カーブでは車輪のテーパーだけでは対応できませんので、車両の横にも車輪が取り付けられて、それが車両脇のサポートレールにぶつかることで脱線を防いでいました。ミニ四駆のような仕組みですね。このタイプのライドは、今でも例えばデンマーク、チボリ公園の「Rutschebanen」などで体験することができます(チボリ公園のものは車両脇についているのが車輪ではなく、バンパーです)。

サイドフリクションタイプのコースター
脱線防止用の車輪とサポートレールが付いたタイプのライド(サイドフリクション)。

 

車両の横に車輪を付けて脱線を防いでいると、構造がややこしくなりますし、カーブのたびに新たなレールを設置しなければなりませんし、更に車両形状やサイズにも制約を生じてしまいます。

そこで、1920年代になると、メインの車輪と一緒にレールを横や下から挟み込むような車輪が取り付けられるようになります。これはジョン・A・ミラーという人が開発した方法で、100年経った現在でも使われている、完成された形です。

富士急ハイランド「高飛車」裏側
富士急ハイランド「高飛車」の車輪ユニット。上下から挟む車輪と、外側から挟み込む車輪で脱線を防いでいます。

 

 

3. 車輪の向きをどう変えるか

続いては、1つ目の問題点、車輪の向きをどうやって変えるのかについて考えてみましょう。

最もシンプルなのは、車軸自体を回転させてしまう方法です。車軸の中心に回転軸を付けてしまえば、車輪はレールに合わせて自在に回転できるようになります。これは鉄道と同じ仕組み。

車軸中心に回転軸を取り付けた台車
車軸の中心に取り付けた回転軸。回転軸を中心にして、車軸が左右に回転する。

 

この手法にはいくつかのメリットがあります。

  • 機構がシンプル
  • レール間距離が常に一定(どういうことかは後でご紹介します)
富士急ハイランド「FUJIYAMA」の車両下部車軸
富士急ハイランド「FUJIYAMA」の車軸。中央の回転軸を中心に、車軸ごと左右に回転します。レールの内側で固定されているのは、展示車両のため。

一方で、デメリットもあります。

  • ブレーキを車軸より下に取り付けなければならないため、レール下に空間が必要(このため、木製コースターでは採用が難しい)
  • 回転軸が折れると左右輪ともに脱落する(実際には、それを防止するワイヤー等が取り付けられています。そこの設計をミスすると大変なことになります)
  • カーブがきつすぎると、他の車輪と衝突する

最後の問題をもう少し詳しく見ておきましょう。

カーブがキツいと、例えば前後に車輪のあるライドでは、それらの車輪がぶつかってしまいます。

車輪の衝突
カーブ通過中の車両を下から(または上から)見た図。カーブの曲率が小さすぎると、前後の車輪が衝突してしまいます。

あるいは、前輪または後輪しかない車両では、前後の車両の車輪と衝突する恐れがあります。

 

これらのデメリットを解消するため、左右の車輪が独立に回転する軸を持ったコースターも存在します。自動車に近い仕組みです(自動車の場合は前輪のみが回転しますし、左右が連動しています)。

4輪独立回転式の車台
4輪が独立に回転するタイプのライド。

例えば上に示しました富士急ハイランドの「高飛車」なんかはこのタイプです。自動車の構造にならって「アッカーマン・シャントー機構」と呼ばれたりします。ただし、厳密にはその機構は左右輪の連携を取る仕組みですので、左右輪が自由に回転するローラーコースターには当てはまりません。車輪がレールに束縛されていますので、結果的に車輪が描く軌跡がアッカーマン機構と同じになるため、そう呼ばれているに過ぎません。

メリットは、

  • 車軸がないので、車台を前後に縦断する形でブレーキや、リニア加速用の磁石等を配置できる
  • どんなにカーブがきつくても、車輪同士がぶつかることはない
富士急ハイランド「ド・ドドンパ」裏面
富士急ハイランド「ド・ドドンパ」のライド裏面。車輪は片輪ずつ独立に回転できるようになっています。

デメリットとして

  • 可動軸が増える(メンテ・コスト的にマイナス)
  • カーブではレール間距離が変わる

という問題があります。

 

ここで、左右輪が独立に回転すると、カーブでレール間の距離が変わるとはどういうことなのか、考えてみましょう。

回転中心から見た位置ずれ
回転中心から見た車輪位置のズレ

上の図で、はじめ①の直線位置にいたとします。このときの左右の車輪の間の距離をdとおくと、このdという値はカーブに差し掛かっても変化しません。車輪の位置はライドに対して固定されていますから、当然ですよね。

さて、カーブに差し掛かって②の位置に移動したとします。このとき、このカーブの回転中心から各車輪に線を引くと、左輪に向かって引いた線と右輪に向かって引いた線がズレることがわかります。これは、カーブでは左輪と右輪が、カーブの異なる位置を走行している、ということを意味します。

カーブの異なる位置を走行しているということは、左右輪の間の距離dはレール間の距離とは一致しません。

レール間の距離
レール間の距離は、各車輪から隣のレールに向かって引いた垂線の長さ

レール間の距離は、上の図のように、各車輪から隣のレールに向かって引いた垂線の長さとなります。2つの平行線があったとき、その間の最も短い線が垂線ですから、車輪間距離dは垂線よりも長い、逆に言うと、レール間距離(垂線)は車輪間距離dよりも短い、ということになります。

つまり、レール間距離は車輪間距離と一緒ではなく、カーブでは短くなってしまう、ということなんです。

 

自動車でも同じことは起きているのですが、自動車の場合はレールがないので特に問題にはなりません。

一方で、ローラーコースターはレールがありますので、レール間距離は大きな問題になります。カーブではいちいち曲率半径に合わせてレール間距離を変えていかなければならないのです。

この面倒くさい作業は、現代ではデジタル設計が主流になったことで解消されています。このため、レール間距離の変化がデメリットではなくなってきました。リニア加速機構などを車両下部につけたいという思惑もあって、現代のコースターでは左右輪が独立に回転するタイプの機構を採用していることが多くなっています。

 

 

4. 左右輪の回転差

カーブでは、内側のレールと外側のレールで長さが違います。内側のレールも外側のレールも、回転の中心は同じ点ですから、その回転中心から近い内側のレールは長さが短く、外側のレールは長さが長くなってしまいます。

ですから、内側のレールを走る車輪と、外側のレールを走る車輪では、走行距離が違ってしまいます。

鉄道の車輪の場合、左右の車輪は軸でつながれてしまっていますから、これは大問題です。軸でつながれている以上、左右の車輪は全く同じ回転数でなければなりませんので、普通に車輪を作ったらカーブを通過できないのです。

ここでも、最初にご紹介したテーパーを付けた車輪が生きます。カーブでは車両は遠心力を受けて、外側の車輪がレールの上にせり上がり、内側の車輪は少し下がります。そうすることで、左右の車輪は直径が異なる場所がレールと接するのです。この直径の差(あるいは円周の差)を利用して、左右輪の走行距離の差を生み出すのです。

 

初期のローラーコースターは鉄道の技術をベースとしていましたので、同じように左右輪の走行距離の差が問題となります。

ですから、初期のコースターではテーパーを付けた車輪が用いられていました。

しかしながら、現代のローラーコースターでは、各車輪に個別のベアリングが設けられていて、それぞれの車輪が独立に回転できるようになっています。このため、左右輪の走行距離の差は、車輪の回転数の差として吸収できるようになっているのです。

したがいまして、現代のローラーコースターではテーパーを付けた車輪が用いられることはなくなっています。

 

 

長々と書き連ねてきましたが、ご理解頂けましたでしょうか。ローラーコースターをご覧になる機会がありましたら、ぜひ曲がるときの車輪の動き、あるいはボギータイプなのか独立回転タイプなのか、といったことに注目してみてください。

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