ローラーコースターでエネルギーの散逸を学ぶ ー 遊園地でSTEM+CHEG教育

力学的エネルギー保存則の概念図

「ローラーコースターは、力学的エネルギー保存則を学ぶ題材として良い」とよく言われますが、力学的エネルギー保存則で終わりにしてしまうには、もったいない題材です。

力学的エネルギー保存則が成り立てば、ローラーコースターは最初の山から落下した後、同じ高さまで戻ってくることができるはずです。が、現実にはそうなっていなくて、1つ目の山より2つ目の山は低く、3つ目は更に低く……とどんどん力学的エネルギーを失っていってしまいます。

力学的エネルギーに限らなければ、全エネルギーは保存しますので、失われた力学的エネルギーはなにか別の形のエネルギーに姿を変えているはずなのです。これを「摩擦」の一言で片付けてしまうのは簡単ですが、実は摩擦というのはエネルギーではありません。

この記事では、力学的エネルギーの復習からはじめて、エネルギーとは何なのか、失われた力学的エネルギーはどこへ行ったのかを、ローラーコースターを題材にしながら解説していきます。遊園地を訪れる際には、この記事をご参考に、是非お子様やご家族・ご友人とエネルギーの変遷・散逸に思いを馳せてみてください。

 

 

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1. ローラーコースターと力学的エネルギー

力学的エネルギー保存則の概念図
ローラーコースターのイメージ。高さhの山から落下して、速度vに至ります。

まずは力学的エネルギー保存則とは何だったのか、簡単に復習をしておきましょう。

ローラーコースターが巻き上げられて、高さh(例えばFUJIYAMAなら79 m)に至ったとします。このとき、車体+乗客の重量をmとおくと、車体+乗客はm×g×hの位置エネルギーを有していることになります。gは重力加速度というもので、ここでは単位換算に必要な値とでも考えておいてください(約9.8 m/s2で一定です)。

ここから地面と同じ高さまで落下してきたときに、速度vに至ったとします。このときに車体+乗客が持っている運動エネルギーを、1/2×m×v2と表します。

 

このとき、mgh=1/2 mv2 となります。

より正確には、ある高さh1のところで速度v1だったとして、別の地点で高さh2, 速度v2だったとすると、それぞれの位置エネルギーと運動エネルギーの和は等しくなります。つまり、

mgh1 + 1/2 mv12 = mgh2 + 1/2 mv22

となるのです。これを力学的エネルギー保存則と言います。

 

これに従うと、最初の山を登った時点で車両+乗客が持っていた位置エネルギーは、最初の谷ですべて運動エネルギーに変換されます。さらにその運動エネルギーは、再び山を登って速度がほぼ0まで落ちると、全て位置エネルギーに変換されます。

つまり、最初の山と同じ高さまで登ることができるはずなのです。が、実際にはそうなっていません。ローラーコースターは走行するにしたがって徐々に速度を失っていきますし、登ることができる山の高さも低くなってしまいます。

これはおかしい。そもそも力学的エネルギー保存則が崩壊してしまっています。なんでこんなことになったのか、原理に立ち返って考えてみましょう。

 

 

2. そもそもエネルギーってなんだ!?

そもそもエネルギーとは何なのか、順を追って考えてみましょう。

まず、力学的エネルギー保存則というのは、運動方程式(ニュートンの第2法則)の両辺に速度をかけて、時間で積分して得られるものです。

なぜそんな式変形をするのかというと、単に時間変化しない式を導き出したかったからに過ぎません。すなわち、「エネルギー」というものに実態も何もなくて、単に「すべてを足し合わせると、その値が時間によって変化しないもの」として人間が勝手に作り出した概念に過ぎないのです。

ちょっとややこしい話ですが、エネルギーというのは

  • 式変形で生み出された「概念」である
  • その総和は時間によらず一定

という2つのポイントだけ覚えておいてください。

コラム: ニュートンと運動方程式(歴史・科学史)
アイザック・ニュートン(Isaac Newton, 1642-1727)といえば、リンゴが木から落ちるのを見て、万有引力の法則を思いついたことで有名です。本当にリンゴ書きから落ちるのを見てそう考えたのかはともかくとしても、この逸話から、彼がどう考えて運動の法則を導き出したのかを理解することができます。
彼は、物体の動きをじーっと見て、一定の力を加え続けると、モノはどんどん加速していくことに気づきました。しかも、そのモノが重ければ重いほど加速は鈍く、加える力が小さければ小さいほど加速が鈍いことに気づきます。これを表しているのが運動方程式です。加速度は、物体にかかっている力を物体の重さで割ったもので表されます。その間に係数は何もいらないのはなんで? と思ってしまいそうですが、それは単に係数がかからないように単位系を選んでいるだけの話です。「力」という言葉に係数を押し込めてしまっている、と表現しても良いかもしれません。力の単位「N(ニュートン)」の定義が、「1kgの質量を持つ物体に1m/s2の加速度を生じさせる力」なんです。
さて、この視点で色んなものが落下する様子を観察すると、落下する物体にも同じようなことが言える、ということがわかってきます。落下する物体は、やはり一定の加速度で加速し続けるのです(空気抵抗を無視すれば)。ですから、落下する物体にもなにか力が働いていると考えられます。しかも、物体の重さによらず加速度は一定です。つまり、物体にかかっている力はその物体自身の重さに比例しているのです。物体自身の重さに比例した力がかかるということは、その力にはその物体自身が関与しているということです。この不思議な現象から見出した答えが、「すべての物体は、他の物体との間にその質量に比例した引力を及ぼし合う」という万有引力の法則だったのです。
厳密にニュートンがどういう順番で考えていたのかはわかりません。俗にニュートンは天体の動きを先に説明して、それをリンゴにも適用する、という順序で考えたとも言われていますが、彼の頭の中では2つの事象は混在していたのではないでしょうか。いずれにせよ、偉人がどう考えたのかを推測してみることで、ちょっとだけ物事の本質に近づくことができます。

 

さてさて、運動方程式というのは、(質量)×(加速度) = (力)で表されます。このうち、物体に働く力が重力しかない場合について、式の両辺に速度をかけて積分したものが力学的エネルギー保存則です。

ですから、物体に重力以外の力が働く場合には、力学的エネルギー保存則は崩れてしまうのです。ですが、結局それらの力も速度をかけて積分すれば、力学的エネルギーと交換できる「エネルギー」となります。

その重力以外の力によるエネルギーや、それを生み出す源になるものもすべて、力学的エネルギーと単位系を揃えてやることで、人類は、全体として保存する「エネルギー」という概念を生み出してしまいました。つまり、宇宙全体、あるいはこの世全体で見れば、全エネルギーは保存します(厳密にはエネルギーが生み出されることもあるのですが、少なくとも我々の世界の感覚、古典力学の世界では保存します)。といいますか、保存するように作られた概念がエネルギーなのです。

例えば、原子と原子の結合に要するエネルギーは「化学エネルギー」と呼ばれて、化石燃料を燃やすことなどによって取り出して、それによって得られる「熱エネルギー」で水を蒸発させて、蒸発した水が上へと上がっていく運動エネルギーに変換、さらにその水の力でタービンを回して物体の運動へと変換することで、力学的エネルギーへと交換することができます。

 

 

3. エネルギーの散逸

エネルギーの変換は、人間の思い通りに自由にできるわけではありません。

自然に任せると、あるところに集まっていたエネルギーは、空間的に散り散りになっていくように移り変わっていきます。これをエネルギーの散逸と言います。

 

例えば、ご家庭のコンロでガスを燃やすと、ガスが持っていた化学エネルギーはほぼ全て熱エネルギーへと変換されます。変換された熱エネルギーは、放っておくといつの間にか空間に広がっていきます。フライパンを熱することはできますが、熱されたフライパンはいつか冷めて、持っていた熱は空気に受け渡されてしまいますよね。さらに空気の熱は空間中に広がっていって、いつの間にかフライパン周辺の気温は周辺の室温と大差ないようになってしまいます。

この現象は「エントロピー」という言葉で説明ができるのですが、話が抽象的になりすぎますので、ここでは触れないことにします。詳しく知りたい方は、熱力学をわかりやすく解説した本を御覧ください。あくまでエネルギーが散り散りになっていくことを式で表現する際に出てくる概念がエントロピーでして、そこからさらに数式をこねくり回す際に便利なので使っているだけですので、エネルギーの散逸を理解するためには、エントロピーを理解する必要はありません。「エネルギーは散逸していく」ことが原理だということだけ、ご理解頂いていれば問題ないのです。

 

同じようなことは、ローラーコースターでも起きます。巻き上げが終わって大きな位置エネルギーを持ったローラーコースターは、落下しながら位置エネルギーを運動エネルギーに変換して速度を増していくとともに、音を出したり、柱を揺らしたり、転がり抵抗を受けたりします。走行している限り、こうしてエネルギーはローラーコースターの外へと散逸していくのです。

音というのは空気の振動です。空気の振動は、広がっていくにしたがって空気中の分子のランダムな運動へと変化してしまいます。空気中の分子のランダムな運動の激しさは「温度」と言い換えることができますので、空気の運動エネルギーは熱へと変換されていきます。

柱の振動は、これもまた柱を構成する鉄原子の振動へと変換されます。これもまた「温度」ですので、柱の運動エネルギーは熱へと変換されます。

転がり抵抗は、車輪がレールに張り付いて剥がれる動作と摩擦によって発生します。どちらも車輪やレールの中の原子の振動、つまり温度へと変わっていきます。こうして走行中に失われる力学的エネルギーは、ほぼ全てが熱エネルギーへと変換されていくのです。

グリーンランド「NIO」車両
グリーンランド「NIO」の車両。柵越しですみません。スポットクーラー(か、ただの送風機)で停車中の車両の車輪を冷却しています。これは、走行中の転がり抵抗等によって車輪が熱を持つために必要になるのです。風によって車輪を冷却することで、車輪が持っていた熱は大気中へと拡散していきます。

熱はもちろん、大気中に広がっていって、いつの間にか気温を検出できないほど僅かに上昇させた状態になってしまいます。そうして上昇した気温は、大半が放射熱などとして宇宙空間へと放出されていくのです。

 

では、その散逸していくエネルギーはどこから来たのでしょうか。ローラーコースターに付与されるエネルギーは、途中に加速エレメント等がなければ最初の巻き上げのみです。巻き上げは、古くは発動機を使っていましたので、化石燃料を燃やして動力を得ていました。これは化学結合のエネルギーを熱エネルギーや気体の運動エネルギーに変換して、それをさらに運動エネルギーへと変換する装置です。

現在では、多くのローラーコースターでモーターによる巻き上げが使われています。モーターは電気エネルギーを運動エネルギーに変換する装置です。電気エネルギーは、日本の場合はほとんどが化石燃料を燃やして作られていますので、やはり化学結合のエネルギーを熱エネルギーへ変換した後、それを気体の運動エネルギーに変換して、タービンの運動エネルギーに移し替え、さらにさらに発電機で電気エネルギーへと変換しています。

現象としては、出発点は化学結合のエネルギーで、それを使ってローラーコースターの位置エネルギーに変換しているという点で共通しています。

 

さて、走行して終わったローラーコースターは、最後にブレーキで停止します。ブレーキは大半で挟み込み式の摩擦を利用した方式が採用されています。したがって、最後の停止時にもやはり運動エネルギーは摩擦を介して熱エネルギーへと変換されて、空気中へと散逸していってしまいます。

エネルギーというのは、その総量は必ず保存するように人間が作り出した概念でした。

しかしながら、エネルギーの変換の向きには制約があって、最初は化学結合という非常に小さなところに大量のエネルギーを詰め込んでいたものが、最後は熱となって大気中に広がっていってしまいます。空間的に広がる方向に変換されていって、一度広がったものを再度集めるのは難しい、という特色があるのです。