なぜ遊園地のフリーパスは5,000円なのか ー 遊園地はなぜ潰れるのか Part 4

UORユニバーサル・スタジオ・フロリダ「ホグワーツ特急」列車外観

こんにちは、ricebag(@ricebag2)です。

この記事は、なぜ日本の遊園地は次々に潰れていくのか、というお話を経済面、人々からのイメージ、遊園地マニアとしての意見などを交えつつご紹介していくシリーズの第4回。

前回の記事で、日本の遊園地は、新規に遊園地をオープンして安定的に経営をしていくためには料金設定が安すぎるというお話をご紹介しました。

この記事では、日本の遊園地がそのような安すぎる料金設定になっている理由を、歴史的背景とともにご紹介していきます。

 

 

1. アメリカの遊園地は高い!

UORユニバーサル・スタジオ・フロリダ「ホグワーツ特急」列車外観
チケット料金が超高い、ユニバーサル・オーランド・リゾートのホグワーツ特急。

その前に、まずは日本の遊園地が安すぎるということを、経営面だけでなく外国との比較からも見ておくことにしましょう。

比較対象は、遊園地大国アメリカ。

 

例えば、ロサンゼルス近郊にある「シックス・フラッグス・マジック・マウンテン」という大型遊園地。

ここの入場料(アトラクションは乗り放題ですので、日本で言うフリーパス相当です)は、89.99ドル。1ドル110円として、なんと9,900円です。

 

こちらも大型遊園地ではありますが、テネシーのど田舎にある「ドリーウッド」で69.99ドル。7,700円です。

 

もちろん、古い遊園地で新規投資をほとんど行っていないようなところであれば、5,000円前後のところもあるにはありますが、ガンガン投資を仕掛けて集客に力を入れているところであれば、70ドル以上が当たり前の世界。

日本で言えばディズニーやUSJ並の金額を取っているのです。

ちなみに、そのユニバーサル・スタジオの、オーランドにあるパークはなんと170ドル! 19,000円という料金を徴収しています。

 

いやはや、やはりアメリカの遊園地・テーマパークは日本の2倍近い料金設定になっています。

前の記事でも述べました通り、遊園地の経営的にはこれがまっとうな料金設定。

ではなぜ、日本の遊園地は、その価値の半値近い安売りをしてしまっているのか。歴史的背景を踏まえてご紹介していきましょう。

 

 

2. 日本の遊園地は稼ぐことが目的ではない

グリーンランド「観覧車」

日本の遊園地は、営利企業としては存在できないような、収益を目的としないものがいくつもあります。

なぜそのような遊園地が誕生したのか、少し歴史をさかのぼってみましょう。

 

2.1 有料庭園から発展した遊園地

日本の遊園地の原型となったのは、江戸時代末期から明治時代初期にかけての有料庭園であったと言われています。

それまで、庭園というのは武家などが自邸に、自らが楽しむために設置したものでした。

この発想を転換して、邸宅とは切り離された、孤立した庭園を建設し、広く一般に(有料で)開放したのがはじまりだと言われているのです。

 

これらが次第に見世物小屋等を併設するようになり、さらに時代を経て遊戯機械を設置。こうして遊園地へと発展していきます。

その代表例が、浅草の老舗「花やしき」。その歴史はなんと嘉永六年(1853年)まで遡ることができます。

 

その後、戦前まで続く遊園地の開業。これらは今も昔も、営利目的の施設です。

しかしながら、これらの施設には他にはない圧倒的な強みがあります。それが、「初期投資が必要ない」こと。

開業から50年、場合によっては100年以上が経過し、下手をすれば「減価償却」なんて概念がない時代に初期投資の回収は終わっています。

あとはアトラクションの更新のみで営業ができるわけですから、後発施設と比べて安い料金を設定できるのです。

 

いずれも手狭な敷地等が災いして大型施設を導入できないこともあって、現代では競争力を失い、閉園も相次いでいるのですが、それでも「花やしき」や「生駒山上遊園地」など現在でも比較的安い価格で楽しめる遊園地が残っています。

1926年開園の「としまえん」もその部類ではあるのですが、後に西武グループに編入され、後述する鉄道会社運営の遊園地としての歴史をたどりますので、少々趣が異なっています。

 

2.2 総合レジャー施設の発展

戦後、高度経済成長期も相まって「レジャー」という概念が浸透していきます。

そんな中で登場してきたのが、ゴルフ場やテニスコートなどのスポーツ施設と遊園地などを併設した総合レジャー施設。

 

1960年台から1970年台にかけて多数オープンしています。

例えば、1955年オープン後楽園球場(現・東京ドーム)横の「後楽園ゆうえんち(現・東京ドームシティアトラクションズとラクーア)」や、やはり球場併設の1964年「よみうりランド」はその代表例。

この2園はともに読売グループという共通点もあります。

さらには、温泉併設の1966年「ナガシマスパーランド」、スケート場併設の1964年「富士急ハイランド」、ゴルフ場等併設の1966年「(三井)グリーンランド」など、この時代の遊園地には今も元気なところが多いです。

ナガシマは名鉄や近鉄等が大株主にはいますが、おそらく独立系。富士急ハイランドは富士急行系列。グリーンランドはもともとは三井の炭鉱跡地で三井系。その後売却されて、現在は西武ガス系と、設立経緯も様々なのが総合レジャー施設の特徴。

 

話はそれますが、「東京ディズニーリゾート」も、その立地にはもともと総合レジャー施設がオープンする予定でした。

京成グループがスポーツ施設を集めた「オリエンタルランド」というレジャー施設をオープンする予定だった場所に、ディズニーを誘致したのです。

このため、東京ディズニーリゾートの運営会社は「株式会社オリエンタルランド」とその名残が残っています。

 

TDRは置いておいて、総合レジャー施設として出発した遊園地たちは開園から40年~50年以上が経過し、こちらもやはり減価の償却は終わっていると思われます。

このため、収入を新規投資に充てることができる状況。

富士急ハイランドやナガシマスパーランドが大型ジェットコースターの新設に積極的なのはご存知のとおりですし、後楽園ゆうえんちはほぼ全アトラクションを刷新して東京ドームシティアトラクションズへ、よみうりランドは2016年に100億円をかけて新エリア「グッジョバ!」をオープンするなど、いずれも投資に積極的です。

 

ここまで述べてきた遊園地はいずれも営利目的ではありますが、開園が古いという利点を生かして、アトラクションを徐々に更新していくことで新規オープンほどの投資をせずとも魅力を保ちつづけることができる状態にあります。

この状態にある遊園地に対して、新規オープンした遊園地は価格面で対抗することが難しい状況。

こうして「安すぎる」価格を実現しているのです。

 

2.3 沿線の魅力向上を目的とした遊園地

遊園地業界は、鉄道事業と切っても切れない関係があります。

鉄道事業というのは、線路や駅を設置するための敷地を獲得し、鉄道を敷設していく不動産事業でもあります。

さらには、乗客を増やすために、自路線のターミナル駅付近には集客できる施設が必要です。

 

その1つの手段として用いられたのが、遊園地。

古くは1926年「近鉄あやめ池遊園地」や、京成電鉄の1925年「谷津遊園」などがその代表例。

これらは、「遊園地に行くために電車に乗ってもらう」ことで利益をあげようとするものです。

 

戦後になると、鉄道会社は沿線の宅地開発を進め、住民の獲得競争を始めます。

というのも、沿線に住んでいる方は否が応でも鉄道を利用せざるを得ず、鉄道会社にとっては安定的かつ大きな収入になるのです。

この沿線住民獲得競争において、遊園地は沿線住宅地の魅力を向上するための手段として使われるようになりました。

週末には自宅から電車に少し乗ると遊園地に遊びに行くことができる、そんな魅力を訴えることで、住民の獲得を図ったのです。

このような経緯で作られたのが、西武鉄道の1950年「西武園ゆうえんち」、東武鉄道の1981年「東武動物公園」等なのです。

さらには、戦前からあった園に近代的な遊具を導入することで遊園地の転換を図った、東急の1922年「二子玉川園(ナムコ・ワンダーエッグ等を経て、現・二子玉川ライズ)」、京阪電鉄の1910年「ひらかたパーク」、小田急の1927年「小田急向ヶ丘遊園(閉園)」もこの分類に入れることができるでしょう。

 

こうした遊園地は、単体で利益を上げることが目的ではありません

あくまで沿線の魅力向上が目的で、それによって住民を獲得し、鉄道事業の安定的な収入を確保することが目的なのです。

ですから、収支はトントンでOK。単体で大きな利益を上げる必要はまったくないのです。

遊園地とはケタの違う、鉄道事業体が事業主ですから、資金面での体力もあります。ある意味での住民サービスとして、価格を安めに設定することすら考えられます。

 

2.4 別荘地のリゾート開発

さらに同じことは、別荘地に開発された遊園地にも言えます。

別荘地やリゾート地の魅力を向上し、別荘の販売を促進するために遊園地を設置することもあるのです。

 

その代表例が、三菱地所系の1969年「那須ハイランドパーク」や、小田急の1974年「小田急御殿場ファミリーランド(現・御殿場プレミアムアウトレット=三菱地所系)」。

これらもやはり、別荘購入誘致のため、あるいはリゾート地としての魅力向上のために作られたもので、直接的な利益を目的としていない可能性があります。

御殿場は小田急以外も入り込んでいますし、小田急沿線でもない(特急の乗り入れはありますが)ので難しいところですが、少なくとも那須ハイランドパークは三菱地所による大規模開発の一環として作られています。

 

こちらもやはり、大企業による資本力と、直接的な利益以外にも収益をもたらし得るという特徴を生かして、高価格を設定する必要のない遊園地なのです。

 

2.5 そして3セクの時代へ

1980年代後半に入ると、悪名高いリゾート法が制定され、さらにバブル景気もあって多数の遊園地が乱立し始めます。

このときに活用されたのが、第3セクターと呼ばれる制度。行政と民間が共同で運営会社を設立し、行政の資金力や権限を活用できつつも、民間の効率的な運営ノウハウも併せ持つ、といえば聞こえは良いのですが、実態はムチャクチャ。

行政が明らかに実現不可能な数値目標を掲げ、地域振興の名のもとに、まったくもって企画や計画が練られていない遊園地の粗製乱造が行われました。

このあたりのお話は、3セクで作ったものの僅か3年で閉鎖された「ネイブルランド」という遊園地の記事にも書いていますので、あわせて御覧ください。

 

さてさて、税金的には明らかにロスでしか無い3セク系遊園地も、遊園地好きにとっては実はありがたい存在でした。

というのも、そもそも絶対に実現不可能な来客数を想定しているわけです。例えば現在年間2,000万人以上が訪れる東京ディズニーリゾートに、もし年間4,000万人が訪れたら、おそらく料金を大幅に値下げしてもやっていけますよね(実際にはTDRの場合はキャパ的に不可能ですが)。

そういう甘々な見積もりをしているので、新規オープンした遊園地としては驚くほど安い料金設定になっていたんです。

例えば、先程述べた「ネイブルランド」という遊園地では、大型コースターが500円、その他ライドはほぼ200円~300円という価格設定でした。これは、ここまでに述べてきた先行者利益を持つ遊園地に対して同等か2割以上も安い価格帯。

新規オープンしてこんな価格設定、行政じゃなきゃできません。

 

 

3. 結論: 日本独自の歴史と鉄道網と政策が原因!

ここまでに述べてきたことから、日本の遊園地が安すぎる原因が見えてきました。

  1. 古い遊園地は遊具の減価償却が終わってから「レジャーの時代」に突入した
  2. 鉄道事業体が運営する遊園地は、儲ける必要がない
  3. 第3セクター運営の遊園地は見積もりが甘すぎる

 

日本には古くから遊園地文化が根付き、競うように多数の遊園地が作られてきました。

古い遊園地は、古い遊具への投資はすでに回収し終わっていて、その分をチケット価格に転嫁する必要がありません。

運営に必要な経費と利益、あとはアトラクション更新分だけを足し合わた額がチケット価格になるのです。

 

鉄道会社運営の遊園地は、すでに減価償却が終わっているであろう遊園地も多いですし、住民サービス、住民誘致策として利益を削ることができます。

下手をすると、古い遊園地よりもさらに安い価格に設定できてしまいます。

 

第3セクターは、本来は投資額を回収しなければいけませんが、投資額回収のために立てる計画、特に来場者数があまりにも多すぎる見積もりになっていますので、その分チケット料金が安くなります。

 

さらに大事なことがもう一つ。

エキスポランド「風神雷神Ⅱ」の事故以降、ジェットコースターのメンテナンスに必要な金額が増加したことで、その捻出に困窮する中小の遊園地が出てきました。

ということはつまり、これらの遊園地は新規アトラクションの設置はおろか、メンテナンス費用もカツカツの状態で料金設定をしていたことになります。

日本の遊園地は、年間来場者数100万人クラスまでは、近年ほとんど新規の大規模アトラクション設置を行いません。と言いますか、おそらくできないんだと思われます。

彼らはこれまでのアトラクション設置分の投資は回収し終わった上で、新規投資はしないことを前提に料金設定をしているのです。

 

こうして、3種類の格安遊園地がしのぎを削り、さらに新規投資できないほどにまでチケット価格を抑えた結果、フリーパスが5,000円以下という激安価格を実現しているのです。

ここまで価格競争が激しくなってしまうと、新規遊園地は太刀打ちできません。こうした理由で、日本では新規遊園地が建設されなくなってしまっているのです。

投資額に基づくなら、年間来場者数100万人規模の遊園地は、前の記事でも述べた通りフリーパス7,000円前後が適正価格だと考えています。

「価格が内容と比べて高すぎる」と批判されたレゴランド・ジャパンも、投資額から見ればある意味「正しい値付け」だったのかもしれません。市場価値には基づいていませんけどね。

 

本記事でご紹介しました日本の遊園地の歴史は、橋爪紳也著「日本の遊園地」を参考にしています。

日本の遊園地関係の本は絶版、中古も入手困難なものが多い中で、比較的中古で入手しやすい本です。

なお、2.3節以降および価格に関する考察は本記事独自の推論です。

 

 

さてさて、今回まで4回かけて、遊園地の投資額と必要経費からチケット価格を考察してきました。

しかしながら、これは遊園地を経営する企業側の論理です。実際の経済は「需要と供給」によって価格が決まるのが正しい姿。

それでは需要と供給という観点から見ると、遊園地の価格はいくらが適正なのか、次の記事で考えていくことにしましょう。

 

 

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