後ろ向きに走るコースターなんて珍しくない! ー ハリウッド・ドリーム・ザ・ライド~バックドロップ~
こんにちは、ricebag(@ricebag2)です。
この記事では、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)のローラーコースター「ハリウッド・ドリーム・ザ・ライド」と、その後ろ向き走行版「~バックドロップ~」をご紹介しつつ、実は後ろ向きに走るコースターなんて珍しくないということを古いコースターの紹介も交えつつ述べていきます。
結構昔から、後ろ向きに走るコースターってあるんですよ。
1. 後ろ向きに走るコースター
ハリウッド・ドリーム・ザ・ライド~バックドロップ~の特徴は、そもそも前向き走行用に作られたローラーコースターに、後ろ向き走行用の車体をあとから作って走らせてしまったことです。
これが受けてUSJとしては、一大ヒットアトラクションになりました。
しかしながら、前向き走行用のコースターに後ろ向き車両をあとから追加することは、決して珍しいことではないのです。
まずはそのことを、いくつかのコースターを振り返りながら確認していきましょう。
1.1 後づけ後ろ向きコースター
時代は1955年までさかのぼります。浅草花やしきの「ローラーコースター」が1953年、日本初の常設コースターが1952年ですから、日本のローラーコースター黎明期のことです。
1955年に設置されたのが、後楽園ゆうえんち(現・東京ドームシティアトラクションズ)の「ジェットコースター」です。日本ではじめて「ジェットコースター」という名前を使ったコースター。これが大ヒットした結果、日本中でジェットコースターという言葉が広く使われるようになります。
製造は、国内現存機の少ない明和。このメーカーに関しては、ナガシマスパーランド「ジェットコースター」の記事で詳しくご紹介していますので、あわせて御覧ください。
このコースターは、そもそも前向き走行のコースターとして製作されています。1500 mという走行距離、最高時速55 km/hというスケールは、1955年という時代を考えるとかなり大規模。しかしながら、後発の大型コースターができるに連れてスペックも陳腐化してしまいます。
改造された厳密な年代はわからないのですが、手元に資料がある範囲で、少なくとも1995年時点では全4両編成のうち、前方2両は前向き、後方2両は後ろ向きという編成に改造されています。
これにあわせて、名前も「2WAYジェットコースター」へと変わっています。ちなみに、このライドを製作したのは、おそらくトーゴ。富士急ハイランド「FUJIYAMA」などでおなじみのメーカーです。
通常のコースターに後ろ向き車両を乗っける、というのは日本最古級のコースターのリニューアルでも行われていたんです。
このコースターは後楽園ゆうえんちの閉園・リニューアルに合わせて2000年に撤去されています。
もう少し最近まで残っていたもので言うと、スペースワールドにあった「ブギウギスペースコースター」があります。
そもそもは、スペースワールドの開園と同時、1990年に「スペースコースター」としてオープンしています。メーカーは泉陽興業。コースター的にはあまり面白いところはなくて、大きめの子供向けコースター的な内容。
泉陽らしく1両に横2人×3列を詰め込み、5両編成で30人乗りという規模の割には乗車人数の多いコースターでした。
あまりにも内容が単調だったからか、1994年にタイタン、1996年にヴィーナスという大型コースターが次々にオープンしていたからか、こちらは1996年に全5両のうち後方2両が後ろ向きに変更されます。
このように、車両の一部を後ろ向きにつなぎ替えるようなリニューアルは、単調なコースターへのテコ入れ策として普通に行われてきたことだったのです。
1.2 車両を入れ替えなくても後ろ向きに走る
車両の入れ替えという奇抜なテコ入れ策を待つまでもなく、ローラーコースターには後ろ向きに走行するものが普通に存在していました。
その代表例が、シュワルツコフ社の「シャトルループ」型。1977年に1号機が開業したマシンで、国内でも横浜ドリームランド、としまえん、小山ゆうえんち、ナガシマスパーランドに導入されました。
同時期にArrows社が開発した「ブーメラン」型は後楽園ゆうえんちに設置されました。
これらのタイプの特徴は、「往復型」であること。一度前向きに走ったコースを、後ろ向きに進んできて元の位置に戻るのです。
その後も、ほぼ同じコースレイアウトでスタート時に急加速ではなく巻き上げを行う、明昌の「ループコースター」「シャトルループ」系や、泉陽の「アトミックコースター」系など、国内10機以上の類似コースターが導入されています。
さらには後楽園ゆうえんち「リニアゲイル」や、富士急ハイランド「ムーンサルト・スクランブル」、2018年4月にオープンした白樺リゾート池の平ファミリーランドの「白樺ウッドコースター」など変形版も多数。
世界中探せば、移設されたコースターを移設前と移設後でそれぞれカウントすれば、延べ350機以上が導入されています。
後ろ向き「にも」走るコースターというのは、かなりメジャーな存在なのです。
2. ハリウッド・ドリーム・ザ・ライド~バックドロップ~の特徴ってなんだ??
後ろ向きに走ることが珍しくないのなら、ハリウッド・ドリーム・ザ・ライド~バックドロップ~の特徴って一体何なのでしょうか。
このあたり、当時USJのチーフ・マーケティング・オフィサー(CMO)だった森岡毅氏が、著書でヒントをくれています。
タイトルにもなっている「USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?」というのがまさに~バックドロップ~のことを指しているのですが、なぜ後ろ向きに走ったのかの答えは上の本を読んでいただくことにしまして。
問題なのは、後ろ向きに走ることの何がスゴイのか、ということです。
氏はこの本の中で、USJの技術陣に後ろ向き走行の提案をしたところ、ハリウッド・ドリーム・ザ・ライドは前向き走行を前提としているために後ろ向きでは安全が保証できないという旨の反対を受けたというのです。
つまり、設計的にギリギリのところを攻めた、ということなのでしょうか。
しかしながら、これは実はおかしな話なのです。
後ろ向き走行が危険だというのは、ハリウッド・ドリーム・ザ・ライドのコースターの規模が大きいからなのでしょうか。
ハリウッド・ドリーム・ザ・ライドは、最高時速90 km/h, 最高到達点44 m, 最大荷重3.57Gという中規模のコースターです。
後ろ向き走行するコースターでも大規模なものになると、例えば富士急ハイランドにかつて存在した往復型「ムーンサルト・スクランブル」なんて最高時速105 km/h, 最高到達点70 m, 最大荷重6.5Gというアホみたいなスケールです。しかもいずれの数値も、後ろ向き走行時に記録するもの。
規模的には、後ろ向きに走行しても決しておかしくはないのです。
そもそも、ローラーコースターで体を痛める危険性が高いのは、突然強烈なGがかかるシーン。
これについては、基本的にはレールに垂直な方向、座っているときの背骨に平行な方向にかかりますので、前を向いていようが後ろを向いていようが関係ないのです。
むしろ、万が一、急ブレーキがかかったときに体を襲う衝撃については、衝撃がかかる方向にシートがある後ろ向き走行のほうが安全なくらいです。
そんなわけで、後ろ向き走行は技術側から反対された、というのは「それでもマーケターが正しいと思うことをやり通せ」と言いたいがために森岡氏が盛ったのではないか、というのが当サイトの見解です。さすがに技術側の認識不足だったとは思いたくない。
(ちなみに、森岡氏もテーマパーク好きを自認されていますし、他施設のことも調査されているはずですから、後ろ向きに走るコースターが存在することはご存知だったのではないかと思います。)
それでも~バックドロップ~が超人気アトラクションとなったことは事実です。
なぜそこまで反響があったのか、ということは考察しておかなければなりません。
おおよそ以下のような理由なのではないかと思っています。
- コースターマニア以外から見れば、後ろ向きに走るコースターは目新しい
- ただでさえスリリングなUSJのコースターが後ろ向きに走るんなら面白くないはずはないと捉えられた
- 後ろ向きに急なファーストドロップを落っこちる見た目のインパクト
- 4車両のうち1両しか後ろ向き走行しないというレア感
- 回転が悪いために行列が伸びやすく、異様な待ち時間が話題となってさらに集客につながる好循環
- 期間限定というレア感(現在は常設アトラクションとなっています)
- 実際乗車した方からの口コミ効果
ハリウッド・ドリーム・ザ・ライドのように現代世代の、なめらかな動きでフワフワと浮き上がるような乗り心地のコースターに、後ろ向き車両を投入したというのは非常にレアな例です。
実際に体験してみると、やはりかなりスリリング。単に前が見えないだけでなく、背中から落っこちるという恐怖感があります。こうした見た目でわかるスリルというのも、スリルシーカーに受けたポイントなのでしょう。
3. 乗車レポ
一応、コースターマニア視点からの乗車レポートをお届けしておきます。
爽快感: ★★★★★
振動の少なさ: ★★★★★
スリル: ★★★★☆
コースレイアウト: ★★☆☆☆
楽しさ: ★★★★☆
総合得点: 80点
後ろ向きの場合は、スリルはアップしますが爽快感が低下しますので、点数は変わりません。
さてさて、ハリウッド・ドリーム・ザ・ライドは2007年にオープンした、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン初のコースタータイプのアトラクションです。
メーカーはB&M社。ザ・フライング・ダイナソーと同じメーカーです。
最高部44 m, 最高速度90 km/h, 最大斜度50度という本格的なスペック。全長1,200 mの大型コースターです。
乗車中に音楽を聞けるシステムが1つの特徴。全5曲から、それぞれの座席ごとに好きな音楽を選択することができます。中でも、ドリームズ・カム・トゥルーの楽曲はこのアトラクション専用バージョンとして話題になりました。
ライドは横4人乗り×9列。板の上に座席がおいてあるかのような、B&Mらしいシンプルな作り。座席はお尻が太ももよりも下に来る、必然的に背もたれにもたれかからなければならないタイプ。背もたれは頭の上まであります。安全バーは太もものみを抑えるタイプ。
実は、テーマパーク内に屋外型の本格的なローラーコースターを、他の場所から見えるように設置するのは異例。
ユニバーサル・オーランド・リゾートにあるアイランズ・オブ・アドベンチャーや、アナハイムにあるディズニーランド・リゾートのカリフォルニア・アドベンチャーにはありますが、これらはいずれも「遊園地らしさ」がテーマの1つになっています。
それに対して、映画というテーマを主軸に据えていながら、堂々と遊園地っぽいアトラクションを設置してしまったのは、実は新しいこと。
この方式(音楽選択システムを含む)が後に、ユニバーサル・オーランド・リゾートにあるユニバーサル・スタジオ・フロリダに輸出されて「Hollywood Rip, Ride, Rokit!」というコースターが生まれています。
3.1 前向きの乗車レポート
いわゆる通常版、前向きライドはシングルライダー対応、ロイヤルパスを持っていれば何回でもエクスプレスパス扱いで乗車できます。
開放感あふれるライドに乗って、音楽を聞きながら爽やかに駆け抜ける、爽快感抜群のコースターです。
ふわーっと浮き上がるようなファーストドロップから、やはりトップピークで浮き上がるセカンドドロップ。明らかに距離調整のためにねじ込まれた、ねじりながらの少ピークを超えて、バンクターンで180度方向転換。
やはり毎回頂上でふわっと浮き上がるキャメルバックをいくつも超えて、ブロックブレーキを通過すると、今度は540度の水平ループで方向転換。さらに小さなキャメルバックを超えて、ブレーキ。
滑感乗り心地で、ふわりふわりと浮き上がる感覚を楽しめる良質のコースターではあるのですが、やはりコースレイアウトに難あり。
といいますのも、このコースターは、そもそも完成しているパークの上に無理やり作られたもの。
「カスタム版の1点もの」といえば聞こえは良いですが、その実、敷地に合わせて無理やりなコースレイアウトにせざるを得なかったのです。
一般に、設計者の意図を存分に発揮できる量産機(あるいは標準コースレイアウト)のほうが、隙なく楽しめる作りになっている、というのがローラーコースターの常。
このコースターでもやはり、例えばセカンドドロップ後の極小キャメルバック(ひねりあり)は、高速でライドがうねうねと曲がる楽しいエレメントではありますが、キャメルバックに飽きてくる後半に配置すれば良いもの。
キャメルバック以外のエレメントは、バンクターンと水平ループのみで、いずれも直線状になっているコースの両端にあります。つまり、細長~い敷地に配置せざるを得なかったので、その両端での方向転換にしか、アクセントとなるエレメントを配置できなかったということ。
さらには、ほとんどのキャメルバックが直線的で、非常に単調です。
もちろん、乗れば楽しく乗車後は笑顔になる、極めてハイレベルなコースターではあるのですが、B&M社製の大型コースターにしては物足りない。そんな存在なのです。
オススメ乗車位置は真ん中から後ろ。真ん中は設計意図通りの速度で「浮き」感を楽しめますし、後ろよりだと、より強い浮きを楽しむことができます。乗車位置は選べませんが……、後ろ寄りになったらラッキー、ということで。
3.2 ~バックドロップ~乗車レポ
コースレイアウトは全く同じなのですが、後ろ向きになるだけで大きく印象が変わります。
まず、ドロップが怖い。背中から落っこちる感覚は、やはり得も言われぬ怖さがあります。
バンクターンも怖い。高くて見晴らしが良いので楽しいのですが、後ろ向きに走行しつつ横に傾くのは、やはり不安定な怖さがあります。
キャメルバックも山の頂上がどこにあるのかわからないので、浮き上がるタイミングを読むことができませんので、これまた不安定な怖さがあります。
水平ループは速度が落ちていますし、曲率一定で曲がり続けるので、それほど不安感はありません。
結局、体感の怖さ自体は変わらないのですが、精神的な怖さが大幅アップ。おまけに、レールが見えなくて動きが読めない分、酔いやすさもアップ。
酔いやすいアトラクションが多いUSJでこれは痛いのですが、致し方なし。体験される方は覚悟しておきましょう。もちろん、XRライドよりはマシです。
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