日本には遊園地が多すぎる!? ー 遊園地はなぜ潰れるのか Part 5
こんにちは、ricebag(@ricebag2)です。
この記事は、なぜ日本の遊園地は次々に潰れていくのか、というお話を経済面、人々からのイメージ、遊園地マニアとしての意見などを交えつつご紹介していくシリーズの第5回。
前回までは、遊園地をオープンするのに必要な投資や、遊園地を運営するのに必要な金額、そしてそれらをもとに一体いくらが適正価格なのか、日本の遊園地はなぜ適正価格以下で安売りをしているのかをご紹介してきました。
今回は、遊園地側の論理を離れて、需要と供給という観点から見たときに、需給バランスがどうなっているのかをご紹介していきたいと思います。
1. 需要: 遊園地を他の娯楽と比較してみる
遊園地を他のレジャーや娯楽と比較してみながら、どのくらいの需要・潜在的需要があるのか考えてみましょう。
1.1 遊園地の市場規模を考える
皆さん、年に何回くらい遊園地に行きますか?
年に数十回、某テーマパークに行かれる方もいれば、年に1回も行かない、という方もいらっしゃるかと思います。
ちなみに僕はコレクタータイプなので、旅先であちこちにでかけますが、ホームグラウンドに年何回も通うということはしません。ですので、年間10回くらい。
日本の遊園地の年間入場者数は、どこまでを遊園地・テーマパークに含めるかによりますが、合わせて大体8,000万人くらい(各遊園地・テーマパークの公式・非公式情報を足し合わせたものです。ショッピング施設を併設する場合にはその分を除いています。経産省の特定サービス産業実態調査でもおなじような数字なので、おおよそ正しいかと)。
しかしながら、そのうち4,500万人は某2大テーマパークの入場分。ハウステンボスを始めとして、アトラクション内容的に遊園地とは呼び難いパークを除けば、実は日本の遊園地は3,000万人程度の規模しか無いのです。
全国民が4年に1回行くくらい。
その他のレジャーを見てみますと(いずれも延べ数で、参加人口ではありません)、
- 映画(映画館): 2億人弱
- 音楽ライブ: 4,500万人前後
- 音楽以外のステージ関係(演劇・寄席等): 2,500万人前後
- スキー・スノーボード: 2,000万人前後(人口は600万人弱)
- 海外旅行: 2,000万人弱
- 動物園・水族館: 1,500万人前後
- スポーツ観戦: 1,500万人前後
- ゴルフ: 750万人前後
といったところ。
遊園地は音楽ライブ以下、演劇等と同規模ということになります。
かなり少ないですよね。日本の遊園地は「求められていない存在」なのかもしれません。
1.2 遊園地の価格を考える
大型遊園地のフリーパスは、大体4,000円~6,000円の範囲にあります。
1日遊んでこの価格というのは、レジャー市場的にはどうなんでしょうか。
例えば映画は、大人1,800円。ただし、2時間前後の上映時間ですから、1日潰そうと思うと5,000円~7,000円ほど(連続して4本も映画を観たいかどうかは置いておいて)。
動物園は遊園地以上に価格破壊がひどくて、税金が大量に投入されていますので、1,000円以下が当たり前の世界。
音楽ライブはピンきりですが、2,000円~1万円前後が一般的な価格ではないでしょうか。大規模ライブ・商業性の強いライブでは5,000円以上が当たり前です。
演劇等も同様にピンきりですが、やはりこちらも同等の金額。大手・有名所の演劇やお笑いなどでは5,000円~1万円程度。
スキー・スノーボードはリフト券が3,000円~6,000円ほど。用具をレンタルすると1万円以上になることもしばしば。
スポーツ観戦もピンきりですが、1,000円~1万円ほどかと。
ゴルフは近年料金の低下が著しくて、1ラウンド5,000円前後のところも増えています。
こうしてみると、遊園地はライバルに対して同等の価格帯と見ることができます。
しかしながら、ここで気をつけなければならないのは、遊園地の客層です。
「遊園地に行きたい」と思う年代って、ゴルフ場利用者とは重なりませんよね。そこを比較しても意味がありません。
遊園地のメインターゲットは、子供連れと20代までの若年層。
ターゲットが重なっているのは、映画と動物園です。
映画は1,800円で見ることができますが、3時間以内には終わってしまうレジャー。ですが、ウィンドウショッピングを組み合わせたり、300円追加してチェーンのカフェで感想を語り合うといった過ごし方をすれば、1日潰せてしまいます。
動物園は単体で十分に1日潰すことができるレジャー。なのに、「教育目的」という印籠を振りかざして大量の税金が投入され、1,000円以下という極端に安い価格になってしまっています。飼育種数が日本最大級の上野動物園は、なんと600円! 遊園地の1/10近い価格です。
これは苦しい……。
1.3 遊園地の価値を考える
その一方で、遊園地の「価値」を考えてみると、料金の妥当性が見えてくるかもしれません。
例えばローラーコースター(ジェットコースター)と比較対象になるのは、高速でスリルを味わえるような体験。
スカイダイビングやジップラインなどのアクティビティなどが良い比較対象になるのではないでしょうか。
こうしてみると、スカイダイビング体験は万単位、ジップラインは2,000~5,000円ほどするのに比べると、ローラーコースター1回乗車1,000円というのは安いようにも思えます。
しかしながら、遊園地のアトラクションにはこれらのアクティビティのような「特別感」が無い。
おそらく、数多くの方が体験できること、1日に何度も体験できてしまうこと、流れ作業で乗車させられてしまうことなどが、この特別感を毀損している原因ではないかと思います。
言ってみれば、レジャー・アクティビティを高級レストランの料理だとすれば、遊園地のアトラクションはファストフード店の料理のようなものなのです。価格の割に高いクオリティが約束されているけれども、特別感は無い。
遊園地のアトラクションは多数集まってはじめて魅力となり得るものばかりで、単体で集客できるものではないのです。
ですが、30種類ものアトラクションが集まれば、それはそれで魅力的。いずれも日常で体験できるものではなく、非日常を演出してくれるものばかりです。
非日常を「眺める」だけの映画鑑賞や観劇と比べて、非日常を「体感」できる遊園地には特有の魅力があるのです。
この「体感性」こそが遊園地最大の価値。「体感」となれば、そこらの商業施設等では短時間でも1回1,000円、2,000円と取られそうなものが数十個並んでいて、「お好きなだけ体験していってください」状態。
アトラクションの魅力を十分に高めることができれば、1人1万円は十分に出すだけの価値のある施設だと思います。
ちなみに、ディズニーリゾートに関しては、比較的価値を見積もりやすい部分があります。
例えばディズニーで行われる30分のショー。これを2時間分のボリュームに増やして劇場で演じれば、1席5,000円は堅い。
さらに劇場では行えないような大規模なパレード・ショーなども多数。
それに加えて他のどこにもない、手の混んだアトラクションもある。
そう考えますと、あのチケット料金は格安です。
そしてTDRがチケット料金を上げない限り、他の遊園地はチケット料金を上げることができません。TDRと同等あるいはそれより高くなってしまうと、皆さんTDRに行ってしまいますから。
1.4 ニーズを考えてみる
遊園地に行く人々は、何を求めて遊園地に行くのでしょうか。
- スピードや高さなどのスリルを味わいたい
- 機械仕掛けの乗り物が好きだ
- みんなでワイワイ盛り上がりたい
特に上2つは、遊園地でなければなかなか味わえないものです。
遊園地のアトラクションでは、日常生活ではありえないようなスピード、高さ、あるいはメルヘンな空気感など、5感を揺さぶる様々な体験ができます。
日常を忘れ、テンションをぶっ飛ばしてくれる、「ハレの日感」を出すにはうってつけの場所なのです。
日常のストレスから解放され、テンションをぶっ飛ばしてくれるような体験ができる。
こういう施設への要望は、特にストレス社会と言われる現代日本では大きいはず。
全国民が年1回、いや、それ以上訪れるだけの潜在需要はあるのではないでしょうか。
ただし、そうしたニーズが他の施設へと向いてしまっているのが現状。「子供っぽい」「社会人になってからは恥ずかしい」といったイメージを払拭し、あらゆる年代へと訴求することができないと、潜在需要を掘り起こすことは難しいでしょう。
2. 供給: 遊園地が多すぎる??
2.1 各国の人口と遊園地数を比較!
世界各国の人口と遊園地数、人口100万人あたりの遊園地数を比べてみましょう。
しかしながら、遊園地の定義というのはなかなか難しいもの。
例えば、ヨーロッパやアメリカにはローラコースター1つのみ、他のアトラクションは一切なしで運営しているような施設もあったりします。
これを日本の遊園地と同様にカウントしてしまうと、どう考えても数が増えすぎる。
というわけで、今回は現在も営業している遊園地のうち、ローラーコースターが2つ以上あるものをカウントしました(Roller Coaster Databaseで検索してみました)。
日本の場合は東京ドームシティアトラクションズや横浜・八景島シーパラダイス、浅草花やしきなども除外されてしまいますが、その点は他国も同じ条件ですので、1つの参考数値として。
日本
- 人口: 1億2,700万人
- 遊園地数: 44
- 人口100万人あたり遊園地数: 0.35
- ローラーコースター数上位3施設の平均フリーパス料金: 5,100円
中国
- 人口: 13億7,900万人
- 遊園地数: 306
- 人口100万人あたり遊園地数: 0.22
- ローラーコースター数上位3施設の平均フリーパス料金: よくわからず…
韓国
- 人口: 5,100万人
- 遊園地数: 9
- 人口100万人あたり遊園地数: 0.18
- ローラーコースター数上位3施設の平均フリーパス料金: 4,600円
イギリス
- 人口: 6,600万人
- 遊園地数: 39
- 人口100万人あたり遊園地数: 0.59
- ローラーコースター数上位3施設の平均フリーパス料金: 6,300円
フランス
- 人口: 6,700万人
- 遊園地数: 38
- 人口100万人あたり遊園地数: 0.57
- ローラーコースター数上位3施設の平均フリーパス料金: 4,000円
ドイツ
- 人口: 8,300万人
- 遊園地数: 42
- 人口100万人あたり遊園地数: 0.51
- ローラーコースター数上位3施設の平均フリーパス料金: 5,900円
イタリア
- 人口: 6,100万人
- 遊園地数: 18
- 人口100万人あたり遊園地数: 0.30
- ローラーコースター数上位3施設の平均フリーパス料金: 4,300円
スペイン
- 人口: 4,700万人
- 遊園地数: 11
- 人口100万人あたり遊園地数: 0.23
- ローラーコースター数上位3施設の平均フリーパス料金: 5,000円
アメリカ
- 人口: 3億2,500万人
- 遊園地数: 127
- 人口100万人あたり遊園地数: 0.39
- ローラーコースター数上位3施設の平均フリーパス料金: 8,800円
オーストラリア
- 人口: 2,400万人
- 遊園地数: 5
- 人口100万人あたり遊園地数: 0.21
- ローラーコースター数上位3施設の平均フリーパス料金: 6,300円
このように遊園地数を数えてもなお、英仏独の遊園地が群を抜いて多く見えます。
これは、移動遊園地的な形態で、小型のコースターを2つ以上備えるタイプの、日本で言えばあらかわ遊園や南知多ビーチランド級規模の遊園地が多数あるため。
このため単純に比較はできないのですが、少なくとも英仏独を除いて考えても、日本の人口あたりの遊園地数は、遊園地大国アメリカに匹敵するレベルであることがわかります。
日本の遊園地の数は多いのです。
フリーパスの料金を比較してみても、イタリアとフランスの安さはちょっと謎ですが、日本はイギリス、ドイツ、アメリカ、オーストラリアなどと比べて安い料金設定であることがわかります。
2.2 遊園地の商圏と人口を考えてみる
南関東を例に、遊園地の商圏とその中にいる人口を計算することで、日本における遊園地の供給量がどの程度なのか、考えてみましょう。
ただし、南関東には商圏が全国に及ぶ、東京ディズニーリゾートというバケモノがいます。これを含めてしまうとややこしいので、ここでは1都2県、東京、埼玉、神奈川を考えることにします。
ここにある年間集客力(四捨五入して)100万人規模以上の大型遊園地は、
- 東京ドームシティアトラクションズ
- としまえん
- 東京ジョイポリス
- 東武動物公園
- 西武園ゆうえんち
- よみうりランド
- 東京サマーランド
- 横浜・八景島シーパラダイス
- よこはまコスモワールド
- サンリオピューロランド
といったところ。
これらの遊園地の主な集客範囲は、最寄り駅の沿線。乗り換えがある場合には電車で30分程度が1つの目安ではないでしょうか(それ以上行くと、別の遊園地の方が近くなってしまいます)。
基本的には商圏は1都2県内に収まっていると考えるべきです。お台場にある東京ジョイポリス、みなとみらいにあるよこはまコスモワールド、サンリオのブランド力があるサンリオピューロランドについては全国区で集客できる施設ではありますが、旅行の「目的」にはなりにくいので、やはり1都2県が主な集客源になっていると見るべきです。
その一方で、東京、埼玉、神奈川の人口はあわせて約2,900万人。
それを上記10個の遊園地に配分してしまうと、1遊園地あたりの商圏人口は300万人を割り込みます。
全国平均でも、人口100万人あたりの遊園地数は0.35ですから、逆に言えば1遊園地あたりの人口は300万人ちょっとです。
さて、100万人規模の大型遊園地に大型新アトラクションを導入しながら安定的に運営するためには、料金を2倍に上げるか集客数を200万人に伸ばす必要があることは、以前の記事でご紹介したとおりです。
1都2県の遊園地が200万人ずつ集客してしまうと、人口の7割近くが毎年遊園地を訪れる計算になります。
ですが、現実には平均して日本人は4年に1回しか遊園地に行きません。
遊園地を安定的に経営するには、現状では遊園地の数が多すぎるのです!
3. 日本の遊園地が生き残る道は2つ
ここまでのお話を総合すると、日本の遊園地が生き残る道は2つに絞られます。
まず1つは、遊園地を減らすこと。
これによって集客競争を軽減し、1施設あたりの集客数を増やすとともに、料金競争も緩和して値上げがしやすくなります。
ただし、これは営利企業同士で談合をして数を減らす必要がありますので、現実的ではありませんし独禁法に引っかかります。
もう1つは、日本国民の遊園地訪問率を向上させること。
インバウンド客は大型テーマパークに流れてしまいますので、遊園地は国内需要勝負の側面が強いです。
そのためには、平均4年に1回しか遊園地に行かない現状を打破しなければなりません。
一体どうすれば日本人は遊園地に行くようになるのか。どういうアトラクションを揃えれば1人1万円出してくれるのか。そのあたりは、次回の記事以降でご紹介することにします。
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