よみうりランド大規模プロジェクトの投資利益率を考察してみる

2019年5月1日



こんにちは、ricebag(@ricebag2)です。

2008年には年間入園者数60万人しかいなかったよみうりランドですが、2016年には200万人弱まで回復。

その復活の秘訣は以前の記事でご紹介しました。この記事では、よみうりランドはどれだけの投資に対してどれだけのリターンを得ることができたのか、結果を検証しつつ不足している施策があるのかどうか、あるとするならどういったものなのか、というところまで考察していきたいと思います。

「投資利益率」という言葉を使ってはいますが、厳密な意味合いではありません。投資に対するリターンを、ザックリ計算しているだけですので、悪しからず。

 

 

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1. ジュエルミネーションの投資利益率

以前の記事でご紹介しましたとおり、よみうりランドは2段階の成長を組み合わせて60万人→200万人の急成長を達成しました。

その1段階目がイルミネーションイベント「ジュエルミネーション」。

2008年時点で60万人だった年間入園者数は、2009年の「よるランド」を経て2010年「ジュエルミネーション」スタートにより、一気に100万人まで回復。その後も回復を続け、2014年には140万人ほどに達します。

まずは、ここで言う投資利益率という概念を理解するため、ザックリとした計算をしてみましょう。

投資額と、そこから得られた利益を求めて、利益を投資額で割った値が投資利益率となります。ですので、まずは投資額と利益をそれぞれ求めていきます。

 

1.1 投資額を概算する

まずは投資額。ザックリテキトーに試算してみます。

ジュエルミネーションに関しては投資額が明らかになっていないので、利益率を計算するのは少々難しいのですが、ここでは他のイルミネーションイベントを参考に算出してみましょう。

LED電球の導入タイミングによっても金額が変わってくるので、徐々に規模を拡大したジュエルミネーションの費用算出はなかなか難しいところ。ここではザックリ初期投資10億円と置いてしまいます。

(2014年時点で200万球という球数、特設会場ではなく常設の遊園地の装飾であるという点などを勘案して算出しています)

営業時間を延長することにより発生する費用と、毎年の設営費用を合わせて5,000万円とカウントします。(営業時間に対して必要になる費用はこちらの記事をご参照ください)

2014年以後は年間投資が別途1億円を想定(年間100万球ペースで規模を拡大しています)。

 

1.2 利益を予想する

続いて、利益を予想していきます。

カウントするのは、2009年~2014年の期間。2015年のシーズンは、2016年3月のグッジョバ!!オープンという別要素が入ってきてしまうためです。

この期間の遊園地部門の売上は、以下の表の通り。

よみうりランドの売上
よみうりランドの売上。株式会社よみうりランドの有価証券報告書から作成しました。単位はいずれも百万円です。

遊園地部門というのは、よみうりランドに加えて温浴施設(丘の湯など)、ゴルフの練習場、キドキド、あそびのせかいなどを含んでいる点に注意が必要です(各施設ごとの売上は経営上重要な情報なので、上場会社であっても隠そうとします)。

ただ、2014年までの範囲であれば、キドキド等の効果は比較的薄いと考えられますので、売上増加分はほぼすべて遊園地由来と考えてしまいます。

 

2008年以前の遊園地部門の売上をベースラインとして考えます。今回のざっくりした計算では、あまり有効数字を大きくとっても意味がありませんので、ベースラインは220億円くらいに引いておきましょう。

そこからの増加分を考えるのですが、増加分をすべてジュエルミネーション起因にしてしまうとおかしくなってしまいます。

そこで、入場者数を勘案してみましょう。

よみうりランドの入園者数
よみうりランドの入園者数推移。低迷期から、2009年を境に一気に上昇基調となります。

 

前年と比べて増加した売上高を、増加した入園客数で割ってやると、増えたお客さん1人あたりの客単価を概算することができます。その結果は、

  • 2009年: 4,000円
  • 2010年: 3,000円
  • 2011年: 1,900円
  • 2012年: 2,000円
  • 2013年: 2,000円
  • 2014年: 3,000円

といったところです。ジュエルミネーションの効果がメインとなる2011年~2013年期間の客単価が低いことがわかります。

これは、ジュエルミネーションを「単なるイルミネーション」として使う入園者数が発生したため。こうした人々は、夕方入園してイルミネーションだけを楽しむために従来の遊園地客より客単価が低いのです。

従来の遊園地だけでは呼び込めなかった客層に訴求できたという意味で、これはスゴいことなのですが、ちょっと話がそれますので本筋に戻りましょう。

ジュエルミネーションによって直接的な要因で増えたお客さんは、客単価が低いので、客単価が低い層の売上を抽出してあげる必要があります。

 

ものすごくザックリと、従来の1日滞在型の客単価を4,500円、ジュエルミネーション単体の客単価を1,500円と設定して、売上を割り振ります。

比率は

  • 2009年: 17%
  • 2010年: 50%
  • 2011年: 87%
  • 2012年: 83%
  • 2013年: 83%
  • 2014年: 50%

となります。

 

この比率から、各年のジュエルミネーション起因売上増分を計算すると、

  • 2009年: 5,500万円
  • 2010年: 31,600万円
  • 2011年: 11,600万円
  • 2012年: 42,600万円
  • 2013年: 7,700万円
  • 2014年: 14,400万円

となります。

これが累積されていきますので、各年のジュエルミネーション起因売上は

  • 2009年: 5,500万円
  • 2010年: 37,100万円
  • 2011年: 48,700万円
  • 2012年: 91,400万円
  • 2013年: 99,100万円
  • 2014年: 113,000万円

です。

2012年頃から売上増額が鈍りつつあります。これは、商圏の需要掘り起こしが終わったためだと考えられます。というわけで、今後は毎年グレードアップを積み重ねても、基本的には現状維持。内容のグレードアップを止めると売上下降が予想されます。

ですから、今後のジュエルミネーション起因売上は10億円前後を推移すると思われます。

 

1.3 投資利益率を計算する

それではいよいよ投資利益率を計算してみましょう。

問題は、どれくらいの期間の利益を想定するか。2019年現在、賞味期限は切れていないように思われますので、15年を1つの区切りとして設定しましょう。

2023年までのジュエルミネーション起因売上から、初期投資10億、年間0.5億の運営費、2012年以降は年1億の投資費用を引くと、15年間の利益はなんと117億円!

 

投資額は、初期投資10億円と2012年以降毎年1億円の投資合わせて、22億円。

 

117÷23で、投資利益率はなんと530%となります。

これは驚くべき数値です。「予期せず当たった」レベルで、むしろこんな数値で経営陣に説明をしたら、概算の前提を疑われて即却下をくらってしまうでしょう。

 

ちなみに、今回の計算では

  • ジュエルミネーションがあるから昼間から遊園地で楽しむようになった人
  • ジュエルミネーションをきっかけに遊園地のリピーターになった人

を含めていません。実際の効果はより高いものであったと想像されます。

 

 

2. グッジョバ!!の投資利益率を考える

よみうりランドグッジョバ「UFO」

グッジョバ!!は、投資額が公にされています。なんと100億円。

ジュエルミネーションの利益だけでは、少なくとも建設段階ではカバーしきれない額ですから、明らかに別のところから資金を集めています。

その1つはスポンサー。グッジョバ!!はファクトリーごとにスポンサーが付いていますから、その資本が入っていると思われます。ただし、広告料相当程度だと思われますので、100億円を賄うには明らかに不足です。

もう1つは、以前の記事でもご紹介しましたとおり別の事業からの資金。別事業から遊園地事業へと資金を回すことができるのは、よみうりランドの強みでもあります。

しかしながら、いくら資金があるからといって投資を回収できなければ経営は成り立ちません。一体どの程度の利益率が見込まれるのか、計算してみましょう。

 

今回は投資額は明らかなので、運営経費と利益だけを計算すればOKです。

ですが、グッジョバ!!は2016年オープンの施設。まだ十分な売上データがありませんから、ある程度予測していかなければなりません。

遊園地のアトラクションって、集客力が年数の経過に対してどのように変化するか、ご存知でしょうか。

一般的な遊園地のアトラクションであれば、最初に一気に集客力を発揮して、あとは単調に減少を続けます。

一方、グッジョバ!!のように新しい試みを行い、幅広い層の集客を目指す施設の場合、認知の広がりや評判の広がりに時間がかかるため、集客力のピークが施設設置タイミングより遅れてやってきます。

ただし、よみうりランドの入場者数は2016年にピークを迎えたあと、2017年は減少していますので、グッジョバ!!集客力のピークは2016年度にあったとみて間違いないでしょう。

グラフ
アトラクション導入当初が集客のピークで、あとは単調減少していくタイプ(青)と、アトラクション導入後しばらくしてピークを迎えるタイプ(オレンジ)のイメージ

 

ピークよりあとは単調減少していきますが、ここのカーブをどう描くかで、予測の精度が大きく変わってきます。

ひとまず、グッジョバ!!拡張計画は無視して、現在のグッジョバ!!が単体として存続した場合を予測してみましょう。

メディア露出による広告効果は既に一巡してしまっていると考えられます。その場合、新たにやってくるのはどんな人でしょうか。

  1. 過去のメディア露出を見て、グッジョバ!!に行きたいと思っていたけど、まだ行けていなかった人
  2. 口コミ等を受けて、行きたいと思うようになった人
  3. グッジョバ!!がオープンしたことによって、よみうりランドの魅力が高まっていることを認知している人

この中で、上2つはシンプルです。遊園地は多くの人にとって、頻繁に訪れる場所ではないので、一度広告効果が出ると、その息は意外と長いのです。1.は通常のメディア効果と一体に考えてしまうことにしますと、ピーク40万人、ピーク後3年で1/10の4万人まで低下と予想します(ピーク値は既に出ている入場者増加数をベースに割り付けたものです)。ある程度の期間経過後は、旅行雑誌や情報誌、それに類するネットメディア等が主な媒体となります。

2.の口コミ効果は、メディア効果よりも少し遅れてピークがやってきて、息も長くなります。グッジョバ!!の場合は爆発的なほどのSNS広告は仕掛けていませんでしたので、あくまでメディア効果の補完的位置づけ。ピーク15万人、ピーク後5年で1/10の1.5万人まで低下と考えます。

3.のよみうりランドの魅力が高まっていることを認知している人、というのは上2つとは少し毛色が違います。必ずしもグッジョバ!!があるから行きたいと思っていなくても、よみうりランドが魅力的な遊園地になっているから行きたい、と考える人です。こちらはピークこそ高くなりませんが、よみうりランド自体のブランド力向上に寄与しているため、効果は長く持続します。

これらを考え合わせて、下の図のような来場者数変遷を予測(かなり悲観的な予測をした数値です)。

グッジョバ!!入場者増加数の予測
グッジョバ!!が直接的に寄与する入場者増加数の予測。青が本文1., 緑が2., 黃が3., 赤がそれらの和に相当。

入場者数の予想ができましたので、この総和に客単価をかければグッジョバ!!により増加する収入が予想できます。

グッジョバには有料のものづくり体験コーナーなどもあることから、客単価は上昇が見込まれますが、これらはかなりコストが掛かっていて、収益トントンあるいは赤字のものが多そう。スポンサー持ち出しなのか、遊園地側にも持ち出しがあるのか定かではありませんので、ここらの客単価貢献分は一切合切無視してしまいます。

というわけで、客単価は従来と変わらず4,500円と想定。そうしますと、10年間の収入増は約124億円。

 

必要経費として人件費の増分を10年間で14億円(アルバイト約20人工)想定します。これは、ここまでの議論にしたがって、アトラクション増分のみを想定しているためです。

アトラクションのメンテナンス費用は年間5,000万円、10年で5億円。これら運営経費について詳しくは、以前の記事をご参照ください。

 

こうして計算してみますと、必要経費は建設費+運営経費で119億円。収入増は124億円ですから、差し引き5億円の利益投資利益率に直しますと、わずか5%となってしまいます。

実際にはグッジョバ!!新設によってリピーターが増える効果や、飲食店のテナント収入(グッジョバ!!のレストランはロイヤルが運営)なども見込まれますし、試算自体も悲観的な数値ですので、もう少し利益率は良いと思われますが、それにしてもいかに遊園地経営が儲からないか、おわかりいただけたかと思います。

 

 

3. よみうりランドはどうすべきなのか

さて、それではどうしたら投資効果をより高めることができるのか、投資利益率を上げることができるのか。せっかくここまで考察しましたので、ついでに考えてみましょう。

よみうりランドの戦略にケチをつけるわけではなくて、単にここまでの話をベースにもう一歩考えてみる、ってだけのお話です。

 

よみうりランドは2019年に新戦略「飛躍」を発表しました。その中では、グッジョバ!!の拡張、植物園的なエリアの新設、水族館の新設を行うことが明らかにされています。

実は植物園も水族館も、かつてはよみうりランド内にあった施設ですので、運営ノウハウを活かしつつ、従来の遊園地だけでは訴求できない層にも来園してもらうことができる、という意味で非常に強い戦略です。

先程の来園者増加数のグラフで言うなら、ピークの高い戦略ではなくて、右側末端の方のベースラインが高い戦略なのです。

遊園地にとって、この戦略は非常に重要です。従来型のアトラクション新設だけでは、常にピークをいくつもいくつも作って、来園者を途切れさせないような施策になるので、費用対効果が悪い。ベースラインを上げていくような施策を打つことができれば、長い目で見て投資利益率は上がります。

そういった意味で、遊園地の進化方向としては全く間違っていないと思います。

強いて言えば、子供だけで遊ぶことのできる、制限された区画にプレイリダー的な人のいる遊園地エリア+保護者向けリラックス施設の組み合わせや、若者が対戦で盛り上がれるレベルのゲーム性の高いアトラクションなど、平日の集客につながる施策が欲しいところ。

 

その一方で、よみうりランドの強みは「イベント力」にもあります。前述のジュエルミネーションはもちろんのこと、各種コラボイベントも含めて、集客力のあるイベントには定評があります。

こちらは先程の施設新設とは真逆の戦略。一定期間にやたらと高いピークを持ってきますが、ベースラインはほとんど上がらない手法です。

こういった施策は、いかに低コストでピンポイントに狙いすまして集客をするかがカギ。

よみうりランドにはイベント企画のカンとコツが間違いなく蓄積されているはず。その状況で更に投資効率を高めるためには、精度の高いデータが必須になってきます。

 

どんな層が、どんなきっかけで来園し、どう行動したのか。

イベントを打つ際には、各ターゲットへいかにリーチするかが重要となります。

ターゲット層がよく目にするメディアに広告を掲載したり、記事を掲載したり。あるいは特定のSNSコミュニティに話題を提供したり。

この各ターゲットへのリーチを、限りなく低コストで効率的に行っていく必要がありますから、どんな層がどんなきっかけで来園したのかを知ることは極めて重要です。

この情報を取得するのは、比較的シンプルな手法で済みます。例えば雑誌記事や広告であれば、そこに専用サイトのURLを記載して(単に遷移ページを用意するだけで、そのまま通常サイトに遷移させてしまっても問題なし)、そのページを介せば前売り券が割り引かれることを示しておけば良いのです。

SNS由来のアクセスは、リンク元の解析や検索ワード、検索からのアクセス時間等によって選別できてしまいます。

 

そしてもう一点、それらの人々がどう行動したのか、というのは非常に重要なポイントです。

遊園地はキャパシティが限られていますから、ある程度の集客を確保したら、あとはいかに客単価を上げるかが勝負です。また、リピーターになってもらうためには満足度を上げることも重要。これらを解析するには、行動のデータが重要になるのです。

行動データが重要だという事実を最もよく表しているのは、ウォルト・ディズニー・ワールド(WDW)の例です。WDWでは、マジックバンドというリストバンドに住所、年齢、性別、名前等を含む顧客情報、ファストパス等の取得状況、クレジットカード情報などを紐づけています。

さらにGPSとブルートゥースを組み合わせた位置情報解析システムが入っていると言われていて、アトラクションでどの座席に座ったか、ショーでどの座席に座ったか、いつどこを歩いたのかなど、精密な情報を解析しています。さらにクレジットカード情報からは買い物の金額、タイミング、買ったものなどの情報まで紐付けられてしまいます。これらを組み合わせることで、顧客の行動を全面的にデータ化してしまっているのです。

最近では、富士急ハイランドの「入園無料化」も実は、行動データ取得に関連したものです。入園無料かと同時に導入された「顔認証」システム。従来、フリーパスに顔写真を掲載したりして使い回しを阻止しようとしていた富士急ハイランドが導入したために、一見違和感のないシステムに見えます。

ですが、あれは誰がどのアトラクションを利用したのか顔認証で判定し、どこを歩いていたのか園内カメラ映像から自動判定できる行動データ解析システム。無料入園者も窓口で顔認証することで、窓口でどういうグループがどういう構成でやってきたのか判定した上で、行動データと結び付けられるようになっているのです。おそらく。

 

このようにテーマパーク・遊園地が重要視する行動データ。

一見導入ハードルが高そうですが、簡易なシステムなら意外と簡単に導入できます。

例えば、フリーパスのリストバンドにバーコードを印刷する方法。いくつかの遊園地で導入事例もありますが(これはおそらく不正利用防止)、各アトラクション利用時に読み取れば、アトラクション利用歴を蓄積できます。

更に、入園者全員にリストバンドを付けて、全食事やアトラクションをバーコード読み取りで利用、自動精算機で精算をすることで退園できるようにすれば、各支出データを蓄積できます。あるいは、例えば食事料金を少し値上げして、入場リストバンド提示で50円引き、フリーパス提示で100円引きといったシステムにしても同じ情報が手に入ります。全員値引きになるので少し怪しまれそうですが…。

イベントも入場時にバーコード読み取り、ショーならバーコード読み取りで座席指定券配布といった方式で対応できます。

イベント関連は、退園付近のタイミングで記念シール等と引き換えに、スマホからのアンケート+リストバンドのバーコード番号入力を依頼すれば、満足度も把握することができるのです。

 

ジリ貧を良しとする遊園地でなければ、イベントや新規施設の効果を測定し、その結果を投資の精度アップへと結びつけていくためにも、データ収集は絶対にやっておくべきなのです。

データ収集の重要性についてのお話は、以下の文献を参照しています。

よみうりランドのお話からは少しそれてしまった気もしますが、今回はこのへんで。

 

大半の大型遊園地が100万人規模にとどまる中で、なぜよみうりランドは年間200万人も集客できるのか。その本質に迫る記事もあわせて御覧ください。

 

その他、遊園地の経営状態解析や戦略論などの記事は以下のページからご覧ください。