VRに遊園地の未来はない ー 遊園地はなぜ潰れるのか 番外編1 兼エヴァンゲリオンXRライドレポ

2018年11月18日



こんにちは、ricebag(@ricebag2)です。

この記事では、近年騒がれている遊園地におけるVR活用の未来と、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)の「エヴァンゲリオンXRライド」乗車レポートをお届けしていきます。

遊園地のシビアなお金事情と、地場遊園地の生き残り戦略を議論している「遊園地はなぜ潰れるのか」シリーズ。

これまであえて、VRを生き残り戦略の選択肢としてあげてこなかったのですが、その理由をお金の面からご紹介していきたいと思います。

 

 

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1. VRって難しい

2016年は「VR元年」とも呼ばれ、VR関連機器が多数発売されました。

それに伴って、「遊園地はVRと相性が良い」「遊園地のアトラクションはすべてVRになる」とまで言われることがありました。

しかしながら現実には、そうなることはあり得ません。

なぜそこまではっきり言い切れるのかと言いますと、VRのソフト開発にかかるコストは遊園地の市場規模に全く合わないからなんです。

 

念のために説明しておきますと、VRというのはVirtual Reality, 仮想現実の略称です。

もともとは3DCG系のもの全般を指していたのですが、最近は専用ゴーグルをかけて、そこに映し出される映像が顔の向きに合わせて変わる、全方位を見ることができるシステムを指すようになっています。

一方、現実に見える世界に対して映像をかぶせるようにする、透明ゴーグルやガラススクリーンなどを使うシステムを拡張現実、ARと言います。

 

さて、VRコンテンツの開発というのは極めて難しいものです。

いえ、厳密に言えば、「ただVRコンテンツを作る」だけなら決して難しくはありません

ここのところをキチンと理解していただくために、3DCGの作り方をご紹介しておきましょう。

3DCG、いわゆるCGというのは、ある空間の中に立体図形のお絵かきをしていきます。2次元で表示する際には、この立体図形に対して、ある位置に「カメラ」を配置して、そのカメラで撮影をするのです。こうして写真のように、3次元の立体を2次元の画像として表示します。

VRでも作り方は全く同じで、3DCGのお絵描きをしたうえで、その中に全周囲を見られるカメラを置けば良いだけなのです。ですから、ただ作るだけであれば、手間は3DCGを描くのと全く変わりません。

最近のゲームであれば、キャラクターの回りをあらゆる方向から見ることを前提に作られていますから、VR化することのハードルは低いのです。

 

というわけで、クオリティの低い3DCGであれば簡単にVR化することはできます。

なのですが、皆さんがVRに求めるものって、クオリティの低い3DCGの空間内を全方位見渡すことではないですよね。

VRに求められているのは、現実には体験できないようなことを、リアルに体験しているかのように感じられる「没入感」なのです

3DCGにも相応のクオリティが求められます。ポリゴン丸出しの初代プレイステーションレベルではダメなのです。

現実と見紛うような、細部まで作り込んだCGでなければならないとなると、一気にハードルが上がります。難易度ではなく、かかるお金の面で。

 

 

2. VRと遊園地の関係

そんなお金の話をする前に、遊園地におけるVRと活用の歴史をたどっておきましょう。歴史の中に、コストに関するヒントが眠っていそうです。

 

遊園地形式の施設で、はじめてVRを導入したのは、おそらく横浜ジョイポリス。なんと1994年に、その名も「VR-1」というアトラクションを導入しています。

ヘッドマウントディスプレイを被って揺れるライドに乗り込み、空を飛んでいる映像の中で周囲の敵を撃墜していくアトラクション。

VR映像+映像に同期して揺れるライド+ゲーム

という、まさにVRの真髄とでも言うべきアトラクションだったのです。さすがSEGA。映像こそショボめですが、どうしても乗ってみたくなる魅力がありました。

しかもなんと、ソフトは入れ替え可能。当初は全国各地の大型ゲームセンター等に設置する計画だったのではないかと思います。

しかしながら、結果的に開発されたソフトは1本だけ。汎用機として開発しておきながら、首都圏3箇所のジョイポリスのうち、設置されたのが横浜だけという状況からも、コストパフォーマンスの悪さが伺えます。

 

続いて設置されたのは、おそらく1996年ナムコ・ナンジャタウンの「ファイヤーブル」。

こちらはヘリコプター型のライドに乗り込み、やはりヘッドマウントディスプレイを装着して周囲の敵を撃墜していくアトラクション。

システム的にはナムコ・ワンダーエッグの「ファイターキャンプ」を進化・短縮したものだったと思うのですが、イマイチ記憶がはっきりしません。それくらいのクオリティだったということです…。

こちらは後年、姫路セントラルパークに移設されましたが、現在では撤去されています。

 

おなじく屋内型アミューズメント施設の、アメリカ・フロリダ州「ディズニー・クエスト」にも、やはりVRアトラクションがありました。

こちらは2000年台の設置で、アラジンの魔法のじゅうたんに乗って(ライドは動かず固定)アグラバーの街を探索するもの。アトラクション的に面白いものではありませんでしたが、やはり顔の向きに合わせて映像も動くという希少性から、人気を博したアトラクションです。

が、このシステムがディズニーパークへと展開されることはありませんでした。これはおそらく、コスト面よりもハケの悪さ、当時の映像クオリティの限界を反映してのことだと思われます。

 

番外編としては、2005年愛・地球博において、日立グループ館でAR技術が使われていました。

ライドに乗り込み、ジオラマの前を通過すると、自分がかぶっているバイザーに動物の映像が表示され、あたかもその空間に動物がいるように見えるという拡張現実システムです。

こちらもやはりバイザーが顔の向きを認識して映し出す映像を変える、VRにも通じる技術でした。

 

こうしてあちこちの遊園地でVR技術が使われつつも、結局普及するには至りませんでした。

ここで注目していただきたいのは、あのディズニーですら、ライドの動きと映像とを同期したアトラクションは作らなかったという点です。

VR酔いへの懸念もあったのではないかと思われますが、ライドの動きとVR映像とを同期させることの難しさを物語っているように思います。

 

 

3. 需要のあるVR技術にはカネがかかる!

VR映像のクオリティとして求められているのは、しっかりとディテールまで描きこまれて十分な没入感を得ることができる、PS4以上のレベルです。

現在のプレイステーション4レベルであっても、例えば「グランツーリスモスポーツ」という看板タイトルですら、CG感のある非現実的な背景です。

これでも開発費は100億円のオーダー

最近のゲームは開発費がどんどん高騰していますが、その大部分はCG制作にかかる費用です。

 

1ライド数分程度で、かつ自分で操作する自由度を与えないという前提であれば開発費を削ることはできますが、それでも現在のゲームレベルのクオリティで作ろうと思ったら、数千万円のオーダーになるでしょう。

数千万円と言いますと、以前の記事で書きましたとおり小型アトラクションを建設できてしまうレベル。

大型アトラクションでも、建設費の数%~10%という金額です。

しかも、これは映像だけの価格の話です。

 

屋外型遊園地でアトラクション化するのであれば、ライドの動きに映像を合わせる必要が出てきます。

これがまた難しい。既存アトラクションをVR化しようと思ったら、その動きにピッタリと合わせた映像を開発する必要があります。

動きの激しくないアトラクションならまだしも、コースターであれば開発者が実際に乗車しながら合わせこんでいくしかありません。そこが少しでもズレてしまうと、酔いを誘発しますし乗車感覚もイマイチなものになってしまいます。

下手をすれば、乗って楽しいレベルのVR映像を作ろうと思うと、億単位の出費になりかねません

 

もちろん、今後VR映像を簡単に開発するためのエンジンや、「VR映像メーカー」的なお手軽ソフトが開発されてくる可能性は十分にあります。

あるいはCG制作会社が多数の素材を描いていくことで、徐々にVR映像制作の価格が下がってくる可能性もあります。

こうして数百万円のオーダーでハイクオリティなVR映像を用意できるようになる可能性も十分にあるわけです。

しかしながら、そうした手法で作ることができるのは、あくまで汎用的な映像。遊園地での体験に求められる「特別感」を演出するのは、よほどのアイデアが無い限り難しいでしょう。

 

 

4. VRライドに乗りたいですか?

続いて、遊園地でVRアトラクションを開発するのは無理がある、というお話をしておきたいと思います。

 

VRコースターに絞ってみると、2018年11月現在国内にあるのは、

  • ユニバーサル・スタジオ・ジャパンの「スペース・ファンタジー・ザ・ライド」のコースを利用したイベントコースター(2018年はエヴァ、2019年はルパン三世)
  • ラグナシアの「パイレーツブラスト」コースを利用した「VRアドベンチャー」
  • キサラピアの「トゥモローコースターVR」

の3つです(たぶん)。

このうち、キサラピアは遊具メーカー泉陽興業の直営でして、CGのクオリティの低さには定評があります。ひらかたパークや浜名湖パルパルにある「4-Dキング」、ひらパー、グリーンランドの「ぐるり森」、「どろろん」などのアトラクションを体験された方はおわかりの通り、「低コストでそこそこの魅力」を追求したかのようなクオリティなのです。

ラグナシアのVRアドベンチャーも、やはり「VRじゃないほうが良い」と言われるほどのクオリティ。天下のトヨタ自動車の資本が入り、HISの運営ノウハウを導入した遊園地ですらそのレベルなのです。

 

唯一まともなクオリティで仕上がっているのが、USJのイベントコースター。

2018年はほぼ丸一年、「エヴァンゲリオンXRライド」バージョンで運営されていました。

こちらは2016年のきゃりーぱみゅぱみゅXRライドから続く、VRイベントコースターのシリーズ。

イベントに大きな投資をできるUSJだけあって、映像のクオリティはそこそこ。

フレームレートが低いからか、CGのクオリティの問題か、「エヴァの世界に入り込んだような感覚」とまではいかないものの、「パチンコエヴァレベルの映像を全身で体感する」くらいのレベルにはなっています

 

しかしながら、これだけお金をかけたVR映像であっても、やはりVRライド特有の問題を生じています。

まず何よりの問題が、VR酔いしやすいこと。ただでさえ酔いやすいVRに、コースターの揺れが追加。

さらにはレールが見えないことにより、コースターの先が読めないことで生じる酔いやすさも加わります。相当乗り物酔いに強い方でない限り、無事ではいられないでしょう

さらにさらに、コースターにVRを組み合わせることの苦しさも見えてきます。レールを走るというアトラクションの特性上、空間内をアップダウンしながら進む映像にしかなり得ません。

しかもコースは簡単には変えられませんから、必然的に動きは決まってきてしまいます。なかなか斬新な内容にはしづらいのです。

実際に、エヴァンゲリオンXRライドも使徒とエヴァとの戦いを避けながらホバークラフトで道路を走行する、という内容。ストーリー性もなければ映像の楽しさもイマイチ。まだエヴァというベースがあるから成り立っていますが、これがオリジナルコンテンツだったらわざわざ乗る必要はないかな、というレベル。

 

さらに、遊園地のアトラクションをVR化しようと思うと、ライドは「VRゴーグルがズレない程度におとなしい」ものに限られてしまいます。

こうした様々な制約がある中で、それでも皆さん、遊園地でVRアトラクションに乗車したいですか?

現状ではVRに物珍しさがありますから、まだ集客効果を見込むことができますが、これが一巡してしまったら厳しくなってくることは間違いありません

 

5. VR専用施設に未来はあるのか

既存アトラクションを利用したVR化はこのような状況にありますが、その一方で新規VRアミューズメント施設を開業する試みも進んでいます。

その代表例が、「JOYPOLIS VR SHIBUYA」でしょう。

先述の、(おそらく)世界初のVRアトラクションを設置したジョイポリスがオープンさせたVR専門施設。

こちらは、内容はほぼゲームベースで、それに専用施設ならではの体感要素を付け加えたような感じ。コントローラーを使う代わりに自分の体を使い、施設内の小物にも触れながらゲームを進めていく、というような内容です(アトラクションによってはコントローラーを使用するものもあります)。

 

こちらは既存施設に内容を制約されるようなことはありませんし、内装の作り込み等はVR映像でカバーできますから低コストで済みます。

これを実際に経営として成り立たせる、普及させていくために壁となるのは、やはりコンテンツ制作のコストでしょう。

専用開発された体験時間15分のアトラクションが2,500円という料金設定からもわかる通り、コンテンツ開発に相当なコストがかかっていると思われます。

 

現状では「物珍しさ」をウリにしていますから「1回体験すれば良い」というような内容でも十分な収益を期待することはできますが、屋内型VRアミューズメントの普及を狙う場合は、このままで良いはずがありません。

例えば、全国各地にラウンドワン並の店舗数で展開することを考えた場合。一見客よりも、いかに多くのリピーターを獲得するかが鍵になってきます。

そうしますと、やはり徐々にクリアしていくようなゲーム性が要求されてきます。こうなってくると、開発にかかるコストは上述の大作ゲームと同じレベル、数十億円規模になりかねないわけです。

現在のVRゴーグルでは、人間が激しい動きをすることはできませんので、スポーツ性を付与することは難しい状況。あくまで落ち着いてゆっくり作業をするゲームとなりますと、VRアトラクションの敵はやはり家庭用ゲーム機です。

敵はソフト1本あたり1万円で数十時間は遊べるゲーム。しかも同時に数百万人に配布できる。

対して、屋内型VRアトラクションは最低15分1,000円は取らないと厳しい。同時にプレイできるのは店舗数×数名。

どう考えたって、家庭用ゲームと同じだけの市場規模になるはずがないのです。ですが、開発にかかる費用は家庭用ゲームと大差ない

こんなもの、そもそも市場として成り立つはずがないのです。

ましてや、単体の遊園地がオリジナル開発のVRアトラクションを設置するなんて不可能に等しい。

 

 

というわけで、かなり長々とVRに否定的なことを書いてきました。

現状では、屋内型VRアトラクションを開発するベンチャーを立ち上げようと思ったら、出資者からボロクソに言われることは間違いない状況です。

しかしながら、そこに何かアイデアを追加することができれば、普及の可能性もゼロではありません。フィットネスクラブ並みの店舗数・会員数を維持し、文化として成立するような形を取れば、十分に市場として成り立つのです(フィットネスクラブの国内市場規模は4,000億円)。

VR施設には、人々が継続的に出費をしたくなるようなコンテンツ開発が求められるところです。

 

 

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