人はなぜ外出するのか - 遊園地はなぜ潰れるのか Part 8
こんにちは、ricebag(@ricebag2)です。
遊園地の運営にかかるコストと、それに対応する集客をいかに達成するか、というお話を続けてきましたこのシリーズ。
今回は、人々を遊園地へと呼び込むためにどうすればよいのかということを考える上で、人々が遊園地を訪れる目的はなんなのか、考えてみたいと思います。
1. お出かけ、観光の目的とはなにか
どこかに外出する、観光をするというのは誰しもが経験したことのある娯楽なのではないかと思います。
これだけ広くくくってしまうと、おそらくあらゆる娯楽の中で最もポピュラーだと思われる、『外出・観光』という娯楽。
これがどういった目的のもとで行われているのかわかってくれば、必然的に人々が遊園地に対して求めることがわかってきそうです。
皆さんは、外出や旅行・観光へと出かける目的を考えたことはありますでしょうか。
「これを買うための買い物にでかけたい」といった、日常の用事を済ませる外出はもちろん除きます。
普通の方は、特に目的を考えることはなく外出されるのではないかと思います。
実は、このお出かけの目的というのは、そもそも何をしに行くかということに左右されません。
どういうことかと言いますと、なんとなくお出かけする場合であっても、誰かとお出かけしなきゃいけないからなんとかしてお出かけ先を探し出そうとするときであっても、行く土地は決まっていてその中でお出かけ先を選ぶ場合であっても、目的は同じなのです。
人々が外へと出かける目的は、行き先を選ぶプロセスを考えますと、見えてきます。
皆さんはどのような考えで行き先を選びますか?
「行ってみたかったところに行く」という場合、その「行ってみたかったところ」というのはどうして選ばれたのでしょうか。
その行き先でやりたいことがある場合、なぜそれをやってみたいと思ったのでしょうか。
どのような場合であっても、そこに行くことによって「気分が良くなりそうだから」というところに行き着くのではないかと思います。
「楽しそうだから」、「気持ちよさそうだから」、「美味しそうだから」、「キレイだから」。すべて、自分のメンタルが良い方向に動かされそう、ということを意味しています。
どんな場合であれ、「なんとなく気分が良くなりそうだから」というところに結びついていくのです。
まだ行ったことがないところに初めていく場合は、この「なんとなく」という部分が重要です。
逆に行ったことがある場所に再び行く場合には、「以前行って気分が良くなったから」再び行くということになります。
2. 「楽しそう」ってなんだ
「なんとなく楽しそう」と思えることの重要性が最もよく現れているのが、ハワイという観光地です。
今はだいぶ下火ではありますが、かねてから日本人はハワイが大好きでした。
では一体なぜ、皆さんハワイに行きたいと思うのでしょうか。
ハワイ、とくにワイキキのあるオワフ島に何があるのか、他にそれに変わる場所がないのか、ということを考えてみましょう。
- 南国←赤道近辺の国や地域であれば代替可能。場合によっては日本の離島でも
- きれいな海←日本の離島、バリやモルディブなどの有名観光地でも代替可能
- ショッピング←ほとんどのブランド店は日本にもあるし、値段も大差ない。民芸品が欲しければそういうお店も日本にある。大型ショッピングセンターに行きたければ、アメリカ本土などでも代替可能
- ハワイ王国時代の文化←日本でも体験可能。そもそもファイヤーダンスとか本当に見たいですか?
- 料理←パンケーキとかなら日本でも。伝統料理は美味しくない。アメリカ混じりの料理は日本でも
- アクティビティ←大半は海のあるリゾート地ならできる
他にもあるかもしれませんが、ザックリこれだけあげた主要なものだけみても、ハワイに行く理由を他の人が納得できるように説明できる方はいないのではないかと思います。
結局、ハワイに行くのは「なんとなく楽しそうだから」であって、何か明確な理由があるわけではないのです。
たとえその場所に固有の、人を引きつける明確な理由がなかったとしても、「他の場所にもある魅力」をいくつも組み合わせて備えることによって、唯一無二の選択肢になりえるのです。
遊園地の世界でこうしたブランディングに成功しているのがディズニーです。あのショーを見たいとか、あのアトラクションに乗りたいといった明確な理由1つで東京ディズニーリゾートへと出かける方は、フリークでない限りは少ないのではないでしょうか。
様々な魅力が組み合わさった結果として「なんとなく楽しそう」だから出かけるわけです。
3. 複合的な魅力を人々に伝える
それでは、どういう魅力を組み合わせれば、人に「楽しそう」と思ってもらうことができるのでしょうか。
その要素というのは以下の2つがあるのではないかと思います。
- 感情が大きく動かされること(美味しい、きれい、気持ち良い、あるいは怖いなど)
- 日常とは大きく異なる環境であること(主に視覚を中心とする感覚で)
前者はあくまで、体験者の絶対評価です。ですから、他と比べて優れている必要は必ずしもなくて、その人にとって感情を動かされるかどうか、というのが重要です。
後者は見た目をきれいに整えることはもちろん、人工的な施設であれば聴覚や嗅覚なども利用して楽しさを演出することが大切です。
そして何より、これらの要素を備えたたくさんの魅力があることを、多くの人に正しく知ってもらうことが必要になります。
知らなければ「行こう」という考えにつながることはありませんからね。
この点は、なかなか戦略の難しいところです。単純な広告媒体では、複合的かつ言葉に出来ないような魅力を伝えていくことは難しいので、どうしてもイメージ広告的にならざるを得ません。
テレビであれば、10分以上の特集を組んでもらわないと、なかなか正しく印象を伝えるのは難しいと思われます。
やはり単独のアピールではなく、何度も何度も繰り返し「現在のウリ」を伝えていくことによって、複合的な魅力があることを理解してもらうしかありません。
その「ウリ」は、どう消費者に伝えていくのか、ということもふまえて設計していかなければなりません。
例えばテレビCMや雑誌・新聞広告など古典的な広告媒体を使うのであれば、重要なのは「スペック」です。ローラーコースターであれば高さとか速度とか、あるいは「世界初のこんな要素があります」とか。人々が魅力に感じるであろうことを、言葉で表現できることが重要。
対してソーシャルメディアや口コミで伝えていくのであれば、スペックよりも「実際体験してみて楽しいかどうか、感動するかどうか」が重要です。ローラーコースターの世界では、インタミンやB&Mなどがスペックを重視しない滑らかな動きのコースターを製作していますが、こうした乗ってはじめてわかる楽しさであったとしても口コミ経由なら「ウリ」になり得るのです。
両方を兼ね備えている例をあげますと、例えばUSJのハリー・ポッター・アンド・ザ・フォービドゥン・ジャーニーがあります。この場合は「世界最高ライド」というのがスペック。短時間広告ではこれを訴求していました。一方で、内容はロボットアーム+ドームスクリーン+ダークライドという、遊園地のアトラクションに詳しい人でもなければどんなアトラクションなのか想像もできないような代物。本当の凄さは口コミで広がっていった部分があります。
このように広告媒体によってウリになる部分を使い分ける、あるいはターゲットの広告媒体を絞ってウリを設計する、ということが重要になります。
4. リピーター獲得のために
すでに訪れたことのある方に魅力を伝えるのは比較的簡単です。
「楽しかった」と思ってもらえばよいのですから。
ただし、ここで1つ大切な注意点があります。
それは、ネガティブな感情を残さないこと。
何かしら失態を起こして、負の感情を持たれてしまうと、その感情は増幅しやすいですし、長く記憶にもとどまってしまいます。どうしてもその印象だけが残ってしまうので、再び来てもらうためには新規顧客を獲得するより多くの労力が必要となってしまいます。
遊園地におけるネガティブな感情の要素というのはあちこちに転がっています。
例えば飲食店が美味しくなくて高いとか、アトラクションのオペレーションが悪くて待ち時間が長いとか、ゴミが落ちているとか、草が生い茂っているところがあるとか、ペンキの剥がれたところがあるとか。
ほんのちょっとしたことで「あれ?」と思ってしまうと、それが強く印象に残ってしまうのです。
たとえ遊園地が様々な魅力を兼ね備えていたとしても、こうしたことで人々の印象は簡単に悪化して、一見客になってしまいます。
リピーター客を獲得するためには、その目標数に合わせた「ネガティブ要素つぶし」が必要になってきます。
5. 結論: 顧客獲得のために取るべき戦略とは
ここまでに述べてきたことから、顧客獲得のために取るべき戦略が見えてきます。
人の感情を大きく動かす体験が多くあり、日常とは異なる環境であること。
そしてそれが正しく多くの人々に伝わっていること。
さらに、それらの体験を阻害するようなネガティブ要素が少ないこと。
できるだけこのような状態に近づけていくことで、遊園地が獲得できる顧客数は増えていくと思われます。
ただ、これだけではあまりにも漠然としたお話になってしまっていますので、どうすればよいのか、具体的な話を次回にしていきたいと思います。
6. 次に読むのにオススメの記事
「遊園地はなぜ潰れるのか」シリーズを含む、遊園地関係の評論・オピニオン記事は以下のページにまとめています。
国内外の遊園地に関する記事、ローラーコースターに関する記事は以下のページにまとめています。
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