遊園地は安すぎる!? 遊園地の利益と経営状態を徹底解剖ー 遊園地はなぜ潰れるのか Part 3
こんにちは、ricebag(@ricebag2)です。
この記事は、なぜ日本の遊園地は次々に潰れていくのか、というお話を経済面、人々からのイメージ、遊園地マニアとしての意見などを交えつつご紹介していくシリーズの第3回。
これまで、遊園地の建設費や運営にかかる費用をご紹介してきました。
今回は、遊園地を営業することで得られる収益を考えることで、遊園地運営で得られる利益や運営会社の経営状態などを探っていこうと思います。
4人家族で遊びに行けば、1日で2万円以上が吹っ飛ぶ遊園地も、コストから考えると実は安すぎるくらいだ、ということが見えてきますよ。
なお、この記事ではいかにして遊園地に人を集めるか、集客するか、という観点は無視しています。
そのあたりのお話は、本シリーズでも後の記事でご紹介していきますが、以下の本もオススメです。
テーマパークの元「中の人」、経営の中枢に関わっていた方が、集客を大幅アップするために何をしたのか、というお話が紹介されています。
1. 遊園地の売上
まずは、チケット販売や食品販売、お土産販売などによって得られる遊園地の売上を考えていきましょう。
なお、今回考えている遊園地の規模は、前回と同様
総アトラクション数: 30
そのうち、
- 大型コースター: 1機
- 中型コースター: 1機
- 50 m級観覧車: 1機
- 大型絶叫マシン: 4機
という規模です。「東武動物公園」の遊園地部分、「としまえん」、「ひらかたパーク」くらいの規模を想定しています。
1.1 チケットの売上
遊園地の規模を考えますと、首都圏や大阪圏などの大都市圏近郊という好立地にあったとして、入場者数は年間100万人前後だと思われます。
実際に上記3遊園地がその程度(ただし、としまえんとひらかたパークは大型プール、東武動物公園はプールに加えて動物園を併設していますので、そちらの集客力も影響しています)です。
今回も年間100万人の集客を見込みましょう。
これらの遊園地の料金は、
ひらかたパーク
パスポート
- 中学生以上: 4,400円
- 小学生: 3,800円
- 2歳以上小学生未満: 2,200円
入園料のみ
- 中学生以上: 1,400円
- 2歳以上小学生以下: 800円
としまえん
フリーパス
- 中学生以上: 4,200円
- 3歳以上小学生以下: 3,200円
入園のみ
- 中学生以上: 1,000円
- 3歳以上小学生以下: 500円
東武動物公園
フリーパス
- 中学生以上: 4,800円
- 3歳以上小学生以下及び60歳以上: 3,700円
入園のみ(動物園含)
- 中学生以上: 1,700円
- 3歳以上小学生以下: 700円
- 60歳以上: 1,000円
といった感じ。
東武動物公園は動物園と遊園地が融合しているため、やや高めの料金設定。
としまえんはひらかたパークに比べると、小さい子のフリーパスの料金が高めですが、子供向けのアトラクションにのみ乗車できるタイプのフリーパスを廉価で販売するという救済措置をとっています。
アトラクションに力を入れていて、それ以外の楽しみ方が少ないとしまえんとひらかたパークについては、大部分のお客さんがフリーパスを購入すると見て間違いないでしょう。
前売りや旅行会社に卸す割引チケット、様々な形での割引等も考えると、客単価はチケットの定価と比べて低下します(笑えない話の多いこの記事唯一の笑いどころです)。
さらに、一部のお客さんが入園料のみで入園し、2,3個のアトラクションを個別料金で体験して帰る、というパターンまで考慮しますと、チケット販売の平均客単価は3,500~4,000円程度まで落ちるのではないでしょうか。
ここでは、チケット販売の平均客単価を3,700円に設定しますと、年間の売上は
3,700 円/人 × 1,000,000 人 = 3,700,000,000 円
つまり、37億円となります。
1.2 食品の売上
続いて、遊園地の売上において重要な役割を果たす食品の売り上げを考えてみましょう。
基本的には夜間営業が無いことを想定していますので、来園者の大半が昼食のみを食べる、という前提で行きたいと思います。
一部はスナック等を食べる可能性がある一方で、一部の方は午後からの来園で食事を取らない可能性もあります。
遊園地の食事は比較的高価で、1食1,000円オーバーが当たり前の世界。
上述しました様々な客単価の変動を見越して、全来園者の平均客単価を1,000円に設定しておきましょう。
そうしますと、1,000円×100万人で、売上は10億円となります。
ちなみに、前の記事で遊園地の運営コストを計算しました際に、あえて食事の仕入れ費を除いていました。
人件費等はすでに計算してありますので、上で計算した売上から食材の仕入れ費を引いた金額を計算しておく必要があります。
一般に、外食店の原価目標は3割と言われています。遊園地の場合は味にこだわらない分、より原価率は低い可能性がありますが、その一方で品切れが許されませんので、廃棄ロスも多いと思われます。
したがいまして、ここでもやはり原価率は3割と考え、食材仕入れ費を除いた売上は7億円となります。
1.3 お土産の売上
最後に、その他の販売品の売上を計算しておきましょう。
実はお土産品だけではなく、遊園地では輪投げや射的のようなゲームの売上もありますし、ビデオゲームのコーナー等で売上が発生する場合もあります。
まず、お土産品を考えてみましょう。
といっても、100万人クラスの遊園地は、商圏が電車で30分~1時間程度。
わざわざ旅行で訪れる人は少ないのが実情です。そうすると、どうしてもお土産品の販売は少なくなりがち。
「電車で30分のところに遊びに行ってきました」と言ってお土産を渡す人は少ないですからね。
よほど上手な商品開発をしなければ、全来園者の平均客単価は100円にも満たないでしょう。
続いてゲーム等の売上。
こちらもよほど魅力的なゲームを揃えない限り、やはり平均客単価は100円に満たないと予想されます。
すでに1人5,000円近い金額を使っていて、しかも追加料金を払ってゲームをしなくても、魅力的なアトラクションを楽しむことができるわけです。
お客さんの財布の紐は硬いですよね。
というわけで、合計客単価を150円に設定しますと、売上は1.5億円。
こちらも仕入れ費用を計算していませんでしたので、その分を引くと1億円以下になると思われます。
2. 遊園地は儲からない
2.1 遊園地は利益が出るまで30年かかる!?
ここまで計算してきました売上を合計しますと、
- チケット: 37億円
- 食品: 7億円
- その他: 1億円
で合計45億円。
前回計算しました、年間の営業に必要な金額が21億円でしたから、遊園地を1年間営業すると、24億円儲かることになります。
それならウハウハじゃん、と思われるかもしれませんが、これだけでは大事なことを忘れています。
そう、初期投資です。
遊園地の建設には、1回目の記事で述べたように500億円規模の出費が必要です。
これをすべて回収しようと思ったら、売上とコストの差分が年間25億円に満たないような状況では、20年以上の年月が必要になるのです。
普通の会社で、初期投資の回収に20年かかるような計画を立てたら、「馬鹿じゃないの!?」と一蹴されてオシマイです。
さらに言えば、上記運営コストは本当にカツカツに切り詰めた状態。
実際には広告宣伝費など、さらに億単位で吹っ飛ぶ出費が必要になります。
建設費用にも土地代を含んでいませんので、用地取得を自ら行う場合には、かなりの額が追加されます。
こうした事情も勘案すると、実際には遊園地の営業では、減価償却費を除いて儲けが出ていれば御の字、といったところなのではないでしょうか。
ちなみに、経産省が発行する特定サービス産業実態調査を見ますと、設備費等の費用は人件費の2倍。今回は人件費を14億円と想定していますから、その場合には設備費等に28億円かかることになってしまいますので、赤字です。
個人が趣味で遊園地を作ろうと思ったら、50年かかってようやく初期投資が回収できるレベル。借入金で遊園地を建設していたら、100年かかっても返せないかもしれません(もちろん、個人や実績のない企業にそんな融資をしてくれるはずもありませんが)。
開園から55年経って、ようやく新しいコースターを設置できるような、そんな状況なのです。もちろん、それまでの間は一切アトラクションの更新をしない前提で。
2.2 遊園地は安すぎる!
遊園地というのは、賞味期限のある施設です。
常に施設を更新し続けなければ、来客数は基本的に漸減傾向になります。
つまり、アトラクションの更新もなく初期投資のみで20年、30年と100万人の入場客数をキープし続けることは不可能に近いのです。
その一方で、減価償却で手一杯の状況では、新しくアトラクションを導入することも難しい状態です。
結局の所、現在の遊園地の料金設定では、新規オープンした遊園地を安定的に経営することは難しいのです。
チケット料金が2倍であれば、話は違ってきます。
チケット料金の増額分がまるごと収益を増やしますので、2倍に上げれば年間の売上から営業に必要な経費を引いた金額は、24億円→61億円へとアップします。
これなら初期投資を10年以内に回収できますので、十分に経営として成り立ちます。
オープンから5年以内に新規アトラクションを導入していく計画を、最初から立てていくこともできるようになるのです。
しかし、残念ながら料金を2倍に上げてしまえば、年間100万人の集客は見込めないでしょう。
あまりにもライバルの遊園地が安すぎるのです。
結論: 日本の遊園地は、遊園地単独で経営をするには料金が安すぎる!
なぜこんな事になっているのか、このような料金設定が一般化してしまっているのかについては、少し遊園地の歴史を紐解いて見る必要があります。
そのあたりは次回の記事でご紹介していくことにしましょう。
3. 次に読むのにオススメの記事
「遊園地はなぜ潰れるのか」シリーズを含む、遊園地関係の評論・オピニオン記事は以下のページにまとめています。
国内外の遊園地に関する記事、ローラーコースターに関する記事は以下のページにまとめています。
こちらからご希望の遊園地やコースターをお選びいただき、個別記事をご覧ください。
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