なぜ「ええじゃないか」は最下点で上を向くのか ー 富士急ハイランドのコースター
こんにちは、FUJIYAMAや高飛車なら連続5回乗車位は余裕でも、連続ええじゃないかはちょっとためらうricebag(@ricebag2)です。
「ええじゃないか」はコースを走行しながら、乗客がのっているライドが縦回転もする激しいローラーコースターです。
その縦回転は完全に制御されていて、何度乗車しても全く同じ動きをします。例えば、ファーストドロップ落下時には真下を向いて、顔から地面に向かっていくような動きをします。このまま地面付近を走行すればスリリングなようにも思えるのですが、なぜか地上付近でクルッと反転して、顔を上に向けてしまいます。
今回は、そんな富士急ハイランドの「ええじゃないか」をレビューしがてら、その動きの謎に迫っていきたいと思います。
爽快感: ★★★☆☆
振動の少なさ: ★★★★☆
スリル: ★★★★★
コースレイアウト: ★★★★☆
楽しさ: ★★★★☆
総合得点: 85点
1. ローラーコースターと体の向き
1.1 ローラーコースターはどんな動きでもできるわけじゃない
ローラーコースターというのは、コースの形状さえ工夫してしまえば、どんな動きでもできるように思えます。
確かに、そのコース上をライドが走行するという点では、どんなコース形状であっても不可能ではないと思われます(コースが途切れたり、ライドの最小回転半径よりRの小さいカーブでなければ)。
このように考える際には、1つ抜け落ちてしまっている存在があります。それが、人間です。
変なコース形状のコースターに、ライドが耐えられたとしても、ヒトが耐えられない、ということは十分にあり得ます。ローラーコースターを設計する上で、最大の制約となるのは乗客の安全性なのです。
このことは、ループコースターの歴史からもわかります。
ループという極めてシンプルなコースレイアウトであっても、乗客が耐えられなかったために1900~1910年頃に危険性が明るみになって以降、1975年まで新規にループコースターが制作されることはなくなってしまいました。実に65年もの間、歴史の空白が発生してしまったのです。
決して実現できないであろうレイアウトというのは、簡単に思い浮かべることができます。
例えば、イスに座って乗車する通常タイプのローラーコースターで、ループの上下がひっくり返ったようなエレメント。ループの上部から進入して、最下点で真っ逆さまになって、またループの上に登ってもとに戻る。こんなエレメントを作ってしまうと、乗客は最下部で真っ逆さまになった状態で3~4Gを受けることになります。
血が頭にのぼってレッドアウトしてしまう可能性が高いのはもちろん、肩のハーネスだけで体重の3~4倍の力を支えることになりますので、骨折や脱臼の可能性も出てきます。
1.2 乗車姿勢によってコースレイアウトが制限される
ヒトの体の中で、頑丈なのは背骨周りから足の骨格にかけてです。ただし、足は曲げることができてしまいますので、実質荷重をかけられるのは、背骨だけ。
ですから、ローラーコースターを作る際には、荷重は骨盤か背中で受けるようにすることが基本です。
例えば、立ち乗り型のコースターであっても、骨盤で体重を支えるようにサドル型のパーツが付いています。
うつ伏せに乗車する、フライングタイプのコースター(USJのザ・フライング・ダイナソー、ナガシマスパーランドのアクロバット)でも同様に、お腹や肩でGを受け止めることはできません。
ループで最もGがかかるのは最下点ですから、そこでうつ伏せ状態になるわけにはいきません。そこで、フライングコースターでは回転半径の小さいループの場合、上から進入して、最下点で逆さま(仰向けの状態)になって、上に戻るような、通常のループとは上下反転したループが作られます。
1.3 ええじゃないかは大型化するために座席回転を制御している
ええじゃないかと同じく、座席がレールとは無関係に縦回転するコースターとして、ナガシマスパーランドの「嵐」をあげることができます。
こちらは座席の回転が制御されていない、フリースピンタイプのコースターです。フリースピンタイプということは、落下時やGのかかる際に、ライドがどういう向きを向いているのかがわかりません。
このため、最大荷重を小さくせざるを得ません。つまり、大きなドロップは作れないし、急カーブも作れない、ということになります。
こういった事情が影響して、フリースピンタイプのコースターは、2019年時点ではカーブのない、コンパクトなタイプしか制作されていません。
つまり、座席を縦回転させつつ大型化するには、座席の縦回転をコースに合わせて制御するしかないのです。
こうした事情を踏まえて制作されたのが、座席制御超大型4次元コースターであるシックス・フラッグス・マジック・マウンテンの「X」、そしてほぼ同型である富士急ハイランドの「ええじゃないか」なのです(時系列的には、フリースピンタイプより制御型が先に制作されています)。
ドロップ最下点で上を向いてしまうのは、もちろん下を向いたままドロップ最下点を通過すると、ハーネスを介して肩やお腹に大きな力がかかってしまうためです(Xやええじゃないかのハーネスは、万が一に備えてなのか、かなり圧力を分散できる形状になってはいますが)。
このXを作ったのが、1975年にナッツベリー・ファーム「コークスクリュー」でループコースターを復活させたArrow Dynamics社というのも興味深いところ。
少し話はそれますが、X制作後にArrow Dynamics社はS&S社に買収されましたので、ええじゃないかはS&S社の設計、製造。ただし、レールの敷設は日本のサノヤス・ヒシノ明昌(現サノヤス・ライド)が担当しています。その一方で、S&S社はサノヤスのライバル会社である三精輸送機に買収されて、S&S三精テクノロジーズへと社名を変えています。なんとも不思議な運命です。
1.4 ライドの回転制御はメカニカル
さて、ええじゃないかは、そのライドの縦回転制御にも特徴があります。
ライドの縦回転を制御する方法と言われると、思いつくものはいくつかあります。
例えばフリースピンタイプのナガシマスパーランド「嵐」が、スピンを誘起するのに使っている磁石式。レールに設置された磁石に、ライド側の円盤型磁石が引き付けられて回転するタイプです。
あるいは、レールに設置されたマークをセンサーで読み取り、モーター駆動でライドを回転させる方式も考えられます。
しかしながら、例えば磁石式を使うと、磁石に砂鉄や金属などが付着して磁力が弱まったりした際に、思ったように回転しなくなる恐れがあります。フリースピンタイプなら、回転が弱まるだけで危険性はないのですが、回転制御型では思った姿勢にならないことで、肩に荷重がかかるような危険な動きをしかねません。
モーター駆動方式は、センサーの汚れによる読み落とし、電子制御部の演算遅れによるタイムラグ、モーター故障などのトラブルが考えられますし、何よりどこからか電力を取ってこないといけなくなります。電子制御は、どうしても信頼性や冗長性にかける設計になりがちです。
そんなわけで、ええじゃないかが採用しているのは、機械制御方式。
レールの横に、回転を指示する第3のレールがあって、その上を走行するタイヤにラック(歯車を直線状にしたようなもの)がつながっています。第3のレールの上下動に合わせて、ラックが上下動するのです。
ライドの回転機構にはピニオン(円形の歯車)が取り付けられていて、ラックの動きに連動して座席が回転するようになっているのです。
ええじゃないかのライドには2本のツノが生えていますが、これはラックの収納部だと思われます。
こうすれば、脱輪や歯車の欠損等が起きない限り、ライドの向きは確実に制御され続けるのです。走行抵抗が増加してしまう、機構がデカい、レール敷設費が高いという難点がありますが、それを補ってあまりある安全性を獲得した、賢い機構です。
ちなみに、このような回転方式を採用しているため、ええじゃないかのライドは1回転+α以上同じ方向に回ることができません。
一度回転したら、次の回転は必ず逆方向になるのです。
現実にはそんな制約を感じさせないほど巧妙なコースレイアウトになっていますが、意識しながら乗車してみると面白いかもしれません。
2. ええじゃないかのコースレイアウトと乗車感想
ライドは、レールの両サイドに2席ずつ。座席がレールと同じ高さにある「ウィング型」ライドのため、キューラインから左右それぞれに分かれていきます。
したがって、左右どちらかに乗りたいなら、キューラインの分かれ道で選択する必要があります。
乗車位置の左右が影響するエレメントはほとんどありませんので、どちらがオススメということもありませんが、強いて言うならバンクターンで上側にくる、分かれ道の左側でしょうか。
乗車すると、ライドはそのまま後ろ向きに発車します。
これはファーストドロップ後のインサイドレイヴンターンというエレメントで、頭が前を向くための工夫だと思うのですが、真相は不明です。
出発後すぐに、一瞬座席が回転して頭が下を向きますが、これは回転数の記録を伸ばすためのオマケであって、あまり深い意味は無いと思われます。
後ろ向きのまま180度カーブを曲がり、巻き上げスタート。レールの先が見えない中での巻き上げは、なかなかに恐怖心を煽ります。
最高到達点はなんと76m。79mのFUJIYAMAに匹敵する高さです。この先どうなるかわからないまま、この高さまで来てしまうとホントに怖い。
頂上でホンの少し坂を下って勢いをつけたら、小さなキャメルバックを超えてファーストドロップです。勢いをつけたおかげでフワリと浮かぶような、おそらく0Gに近い状態での突入。
キャメルバックを超えるタイミングで、座席は前向きに180度回転をして、真下を向く状態になります。ライドが坂を下るために90度傾き、それとは反対に座席が180度回転するため、正味前向きに90度回転するだけなのですが、レールの動きに沿わない回転に、この時点で得も言われぬ不安を感じ始めます。
真下を向いたまま、88.5度という垂直に近いファーストドロップを駆け下りていきます。最下点直前で、前に述べたように180度でんぐり返って仰向けに。
このまま、お腹で強烈なGを受けます。これが怖い。
続いて、インサイドレイヴンターン。不思議な名前ですが、4次元コースターにしかないエレメント。ループを半分に切ったような形です。普通のコースターなら上下反転しっぱなしになっちゃうのですが、ええじゃないかならライドを反転させれば通過できてしまいます。
ここを、頭を前にして疾走。
レイヴンターンの頂上付近で、座席は後ろ方向に1回転。フワリと浮くような感覚の中で後ろ回転しますので、高速で走りながらバク宙するような、なんとも不思議な感覚。ちなみに、前述の通り座席は1回転しかできませんので、既に前方に1回転した座席は、ここでは後方回転せざるを得ません。
レイヴンターン通過後は、足から落ちるドロップ。足から落ちるというのも、また不安定感があって怖い。
続いて、キャメルバックを超えながらフルツイスティング&フルフロントフリップ。コースはひねり回転。コークスクリューではなく、レールが直線上で、その周りをライドが振り回されるタイプのひねりです。
ひねり回転に合わせて、座席は前方に1回転。何を言っているのか想像しにくいと思いますが、組み合わせてみると、座席が一旦真横に傾いて、そのままひっくり返ることなく後ろ向きになって水平に戻る。更に同じ動作で前向きに戻る、という複雑怪奇なエレメント。
まさに「ありえない動き」を体感できます。怖いというより、何が起きているのかわからない、不思議感が勝るエレメント。
次に上りに入ってから少し下を向き、ブーメランターン。ここは凝った動きをしないので、周りを眺める余裕もあります。
ターンが終わったら、再びキャメルバックを超えながら、今度はハーフツイスティング&ハーフバックフリップ。先程のハーフバージョンで、前向き走行から後ろ向き走行に切り替わります。
そのまま背中からドロップ。これまた、どうなるか先が読めない中での背面ドロップなのが怖い。
もう一度坂を登ってから、アウトサイドレイヴンターン。先程インサイドレイヴンターンがありましたが、それとは逆にレールがループの外を向いているタイプの半ループ。これを上から下へと走行していきます。
この際、一瞬だけライドは腹ばいに。背中から放り出されるような動きから、突然の腹ばい。
もちろん、最下点ではGを受け止めるために真っ直ぐな姿勢に戻ります。半ループを座席回転なく超えたので、これで前向き走行にスイッチ。
そのまま坂を登りながら、再びハーフツイスティング&ハーフバックフリップ。これで後ろ向きに戻って終了です。
これを読まれてもわけがわからないと思いますが、乗っていると更にわけがわかりません。それくらいに凄まじい複雑さの中で、乗車する人が味わうのは強烈なスピード感とG、そして恐ろしいほどの不安定感。
次に何が起こるかわからない、わかっていても何が起きているのかわからない。そんな中で、内臓は背中側に浮き上がり、喉の方へ浮き上がり、今度はお腹側へ浮きが上がり。。。ありとあらゆる方向にフワッと浮き、その後には強烈なGで押さえつけられる。とにかく強烈なコースターです。
コースターが苦手な方にはオススメしません。強烈過ぎますし、何よりわけがわからなすぎて、コースターの楽しさを理解できずに終わってしまう可能性大です。苦手な方にも、FUJIYAMAやド・ドドンパなどは一度試してみていただきたいという思いはありますが、ええじゃないかだけはやめておいたほうが・・・。
富士急ハイランドの全アトラクション紹介と、アトラクションのスクラップ・アンド・ビルドの歴史については、以下のページに詳しく記載しています。
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