旅行代理店破産トラブルはてるみくらぶ”だけ”が悪いのか ― 旅行代理店業界にはどうしようもない問題がある
こんにちは、ricebag(@ricebag2)です。
てるみくらぶ破産のニュースが連日世間を賑わせています。
旅行会社の破綻としては、リーマンショック以降で最大の規模。
しかも、海外渡航中に航空券が使えなくなって、自腹で40万円以上払わないと帰れなくなった方もいたりと、突然の破産による影響が極めて大きい事件です。
てるみくらぶ側の事後対応が悪かったこともあって、世間では「てるみくらぶ=悪」とするような批評ばかりが流れています。
実際、このブログでも以前にてるみくらぶの悪評に関する記事を書いています。
そもそもてるみくらぶは対応が悪いことで有名でしたからこのような記事を書いたのですが、しかしながら今回のような旅行会社の破産において、一旅行会社だけを悪とする意見には賛同しかねます。
といいますのも、破産すると旅行に行けない上に返金もされないといった問題は旅行業界の仕組みに起因するものだからなんです。
「先払い」ありきで会計を回している旅行業界特有の問題を解決しない限り、こうしたトラブルは後を絶ちません。さらに、てるみくらぶという会社側の事後対応は、それまでに提供していたサービスと比較して同じくらい、あるいはむしろ良いくらいです。
てるみくらぶ側は、「価格に見合ったサービス」というこれまでの立場を貫き通したに過ぎないわけですし、破産までの対応において変に臨時職員を雇ったりしないあたりに、むしろ債権者である消費者と社員に対する誠実さを感じます。
これまでにも格安旅行会社が潰れて旅行に行けず、返金も受けられないという問題は頻繁にありましたから、こうしたトラブルが旅行業界の仕組みに起因している以上、消費者側もこうした問題に対して危機感と知識を持って対策を考えなければなりません。
この記事では、なぜ「てるみくらぶ=悪」という図式ではいけないのか、どうすればこうした格安旅行会社の倒産によるトラブルを避けられるのか、といったことを書いていこうと思います。
1. 先払いは「預け金」だということを認識すべき
1.1 会社が倒産すれば、先払いしたお金は戻ってこない
商品を受け取る前に、あらかじめ払っておくお金は「先払い」などと呼ばれます。
旅行の場合、商品というのは「旅行に行って帰ってくること」までを指しますから、旅行に行くという商品を受け取る前に支払うお金は、すべて先払い金です。
本来、お金の取引は商品の受け渡しと同時に行われるべきです。
コンビニで物を買うとき、お金を支払うのと商品を受け取るのはほぼ同時ですよね。
お金は商品の対価であって、ある意味「お金」というものと「商品」というものの物々交換をしているようなものですから、商品とお金を同時に受け渡すというのが本来あるべき姿です。
商品を受け取らずにお金だけを支払った場合、「お金」も「商品」も一時的に相手方にあることになります。
これって、お金を渡したのに商品を受け取っていないわけですから、あなたの立場から見ると「お金」を貸し付けていることになりますよね?
逆に会社側から見れば、あなたからお金を受け取ってその対価を渡していない、いわば「担保のない借金」という状態になっているわけです。
借金に相当するお金を貸すということは、相手に返済能力がなくなったとき、そのお金は返ってこなくなるということです。
例えば、個人であれば借金を返済することができなくなると「自己破産」をして免債してもらいますよね。
会社の場合は、それが「破産」と呼ばれるわけです。
先払いをしたお金というのは、担保を受け取らずにお金を貸し付けていることとほとんど同じことですから、会社が破産してしまえばほとんど返ってこないのです。
クレジットカードでお買い物をすると、お金を後払いにすることができますから、これは消費者がクレジットカード会社に借金をしていることになりますよね。
こうした考え方は広く一般に認識されているのに、「先払いがお金の貸付である」ということがあまり広く理解されていないのは、なんとも不思議な事です。
1.2 会社が個人にものを売る場合、先払いが一般的
会社が作った商品を個人に売る場合、先に個人が支払いをする「先払い」形式が一般的です。
例えば、ネット通販では先にお金を支払ってから商品が発送されますよね。
これは、物を送ったのにお金を支払ってくれないという事態を避けるためです。
一方で、会社が会社に対してものを売る場合、先に商品を送ってあとで精算をする「売掛払い」方式もよく使われます。
「ものを受け取っていないのに、支払いの処理をすることはできない」というお客さんの会社に対応するためですね。
ただし、売掛払いをするにあたって、ものを売る側の会社は、買う側の会社にしっかりとした支払い能力があるかどうかをあらかじめ調べておきます。
そうしないと、物を送ったのに相手方の会社が倒産してしまってお金を支払ってもらえないなんてことになりかねませんからね。
こうして「信用」を担保とすることで、商品を一時的に貸し付けているのです。
個人の場合には「信用」がありませんから、どうしても先払いになってしまいます。
商品を販売している会社に対してお金を貸し付けることになるわけですから、私たち消費者も、しっかりと会社の「信用」を調査すべきですし、信用を調べることがリスクを避ける最大の自衛策です。
しかしながら、なかなか会社が倒産しそうかどうかといったことを個人で調べるのは難しいですよね。幸い、旅行会社の場合には信用度を調べる基準がある程度あります。どう判断すればよいのか、ということについては4節で詳しくご紹介していきますね。
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2. 旅行会社のしくみはかなり危険
2.1 製造業の会社のしくみ
旅行会社のしくみについて考える前に、普通の会社はどういう会計の体制を取っているのか考えてみましょう。
製造業の会社であれば、ある程度しっかりとした資本金を用意し、資本金や資産などを担保に銀行などからお金を借りていきます。
そのお金をもとに工場を建て、原料を購入して製品を作製するわけです。
できあがったものを販売してはじめてお金が入ってきますので、次にそうして入ってきたお金を作って商品を売り…といったサイクルを繰り返すことになります。
これは一般的なサービス業でも一緒です。資本金などを使ってサービスを行う基盤を整え、サービスを行ってはじめて対価を受け取り、それを原資にサービスを提供し、対価を受け取ります。
2.2 旅行会社は根本的に自転車操業
これに対して、旅行会社のしくみはちょっと違います。
旅行会社というのは航空券やホテル宿泊の権利といった、旅行商材を購入してきて消費者に販売する、「取次店」あるいは「卸」に似た業態です。
そうした中間業者の中でも、旅行会社は新規参入が容易ですので価格競争が厳しい世界です。
価格競争の激しい世界では、どうしても薄利多売にならざるを得ませんので、大量に仕入れて大量に売りさばくことが大前提となってきます。
そのためには、資本金や借入金だけで仕入れを行っていたのでは到底足りないわけです。従業員を雇うための十分な資金を確保するためにも、会社の規模からは考えられないほどの額の旅行商材を仕入れ、大量に販売していく必要があります。
そこで、特に格安旅行会社はお客さんから事前に支払われた代金にも手を付けます。その結果、小・中規模の格安旅行会社では、大量に受け付ける旅行の申込みに対して、それを遂行するための現金が不足する事態というのが常態化しています。
普通の会社は資本金や借入金などの「会社のお金」だけでお客さんに提供する商品を作っているのに対して、旅行会社はそもそもお客さんからの支払いがなければ商品を仕入れることすらできないんです。
そんな「ちょっとでも予約数が減ると資金繰りに困る」ような自転車操業の中で営業しているにも関わらず、お客さんには早めの支払いを促していきます。
会計が火の車になっていることが当たり前の、こんな旅行会社に対して借金にあたる先払い金を支払ったとして、商品をその通りに受け取れる(旅行に出発できる)あるいはキッチリと返金を受けられることが当然だと言い切れますでしょうか?
2.3 旅行業界全体としてのセーフティネットを構築すべき
もちろん、お客さんから支払われたお金を使って仕入れを行い、それをお客さんに渡すだけですから、この業務だけを行っている限りは資金繰りに困ることはありません。
ただ、旅行会社は旅行商材の取次によって得られる利益から、従業員の給与と宣伝広告費、事務所の家賃など全てを賄わなければなりません。
1人でやっているような旅行会社であれば、そのあたりの管理もできるのでしょうけれども、会社の規模が拡大してくるとどの金額をどの程度使ってどこの支出に当てているのかという区分けが曖昧になってきて、そもそも商品の販売によって得られる粗利益が十分なのかどうかわからなくなってしまいがちです。
そこら辺の管理が甘い会社だと、とにかく販売数を増やすためにギリギリまで価格を攻めてしまい、結果的に徐々に資金が不足していって破産へと至るわけです。
そんなもの、消費者からの直接的な資金の借り入れによってはじめて仕入れを行うことができる、旅行会社のしくみ自体に問題があると言わざるを得ません。
しかも海外旅行を取り扱うならば、お客さんからの借り入れは数カ月にも及ぶロングスパンになるわけです。消費者にとって見れば、お金を預けている期間が長ければ長いほど、倒産によってお金が返ってこなくなるリスクは上がっていきます。
一般的な商品で、お金を支払った数カ月後にようやく受け取ることができるものなんて、まずありませんよね。
それだけ旅行業界のシステムというのはかなり特殊なんです。
そんな特殊な業界であるからこそ、業界団体はキチンとお客さんのリスクを管理できるセーフティネットを構築すべきです。
現在でも、日本旅行業協会という業界団体が、破産に至った会社の弁済を肩代わりするセーフティネットを運用しています。
しかしながら、今回のてるみくらぶの件ではそのセーフティネットが十分に機能しませんでした。
と言いますのも、そのセーフティネットに対しててるみくらぶが提供していた資金は2,400万円。日本旅行業協会のしくみでは、提供した資金の5倍まで弁済をしてくれますから、1億2,000万円相当の保険になっていたわけです。
それに対しててるみくらぶが販売していて未出発だった旅行商品の総額は、なんと約100億円。セーフティネットがカバーできるのは、そのわずか1%だけなんです。
お客さんに安心して旅行会社を利用してもらうためには、やはり旅行業界全体として、お客さんが支払った金額の半額以上は保証できるようなしくみを構築すべきです。さらには、旅行途中あるいは出発直前の旅行者の旅行については、しくみに参加する各社で引き受けて旅行を継続できるような形が理想的です。
そうしたしくみを、各旅行会社からの出資で作る以上は、破産するリスクが高い旅行会社はそのしくみから排除しなければなりません。現在のように、バンバン旅行会社が潰れるような状況で全てに支払いをしていたら、健全な旅行会社が割を食う事になってしまいますからね。
そしてそのしくみへの参加資格を厳しくすることで、セーフティネットに参加できた旅行会社は「信用」のある旅行会社であると消費者から見てもらうことができるわけです。
今回のてるみくらぶの件を受けて、消費者が旅行会社を見る目は厳しさを増すでしょう。それに耐えるためには、これくらいのことはしなければなりません。
逆に、これまでこういったしくみ作りをしてこなかった旅行業界にも、今回の事件がこれだけ大きな騒ぎになってしまった責任の一端はあるといえます。
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3. てるみくらぶの事後対応は、今まで通りだった
3.1 てるみくらぶはそもそも対応が悪い!
てるみくらぶの事件では、事後の対応や社長の謝罪会見などがクローズアップされ、対応が悪いという問題が提起されています。
しかしながら、てるみくらぶというのはそもそも旅行者へのサポートを最低限、あるいは最低限以下に抑えることで、低価格を実現してきた会社です。
その結果として、サポート窓口に連絡をとってもいつまでも返事が返ってこないとか、なかなかキャンセル処理してくれないとか、そういった問題が頻発していました。
てるみくらぶは普通にはありえないような低価格でツアー商品を販売していましたから、サポートの悪さは低価格によって生じた必然なのです。
3.2 事後対応は今までのサポートより良い?
それと比べて事後の対応を見れば、すばやく旅行への出発を中止するよう促すメールを送ったり、キチンと企業のトップが会見を開いて謝罪をしたりと、誠意のある対応をしていたように思います。
もちろん、現地でホテルを追い出されてしまった人がいたり、帰国便に乗れなくなった人が発生したりといったトラブルも発生しています。
しかしながら、裁判所から破産宣告を受けてしまった以上、てるみくらぶは会社の資産を使って勝手にこれらの人の支払いをするといったことができなくなってしまいますし、サポートのために誰かを派遣しようにもそのお金も支出できないわけですから、どうにも対応のしようがない事態なんです。
もちろん、破産する前に旅行の新規募集や出発を停止したり、観光庁などの関係省庁と連携を取るなど、いくつか打っておくべき手はあったはずです。
ただ、旅行会社のシステム上、支払いが集中する日というのがありますので、その日に突然破産に至ってしまうのは致し方ないこと。ここにもやはり、旅行会社というシステム自体の問題が顔を出してくるのです。
てるみくらぶの対応をまとめると、できる限りのことはやっているし、ツアーの金額を考えればそれに見合った対応をしているのではないかと思います。
3. 現状で消費者がリスクを避けるために何を考えるべきか
3.1 航空会社は潰れない
旅行出発の数ヶ月前に支払いをしなければならないというお話は、何も旅行代理店に限った話ではなく、航空会社でも同じです。
ですが、航空会社に支払ったお金については比較的安全性が高いです。
と言いますのも、航空会社って完全に潰れることはないからなんです。
旅行会社は観光客だけでなく、ビジネス客や貨物の輸送も担っています。そんな物流インフラを突然ストップさせてしまえば、その国の物流や人的移動が滞り、国の経済に大打撃を与えてしまいかねません。
ですので、国家として航空会社は全力で守ろうとします。
例えば、アメリカの大手航空会社はすべて一度破産しています。が、何事もなかったかのように現在では再建されて、飛行機を普通に運行していますよね。
パンナム(パンアメリカン航空)は消滅しましたが、それも突然潰されたわけではなくて徐々に縮小され、一部路線は他社に移譲するといった形で、混乱の無いように処理されました。
日本の航空会社でも、かつて全日空は国策での支援を受けて経営環境を持ち直したことがありますし、日本航空に至っては一度民事再生法の適用を申請し、国家の手で再建されました。
LCCの場合には個人の利用客が多いこともあって、潰れてしまう可能性というのも大いにあると思いますが、少なくとも大手航空会社であれば、そう簡単に潰れることはありませんし、潰れかけてから潰れるまでには時間がかかりますので、潰れかけの状態になったら避けるようにすれば支払ったお金が何処かに消えてしまうということはありません。
ということで、航空会社に支払う先払い金というのは比較的安全な貸し付けにあたるわけです。言い方を変えれば、大手航空会社の信用は極めて高いということです。
したがいまして、旅行会社を間に挟むリスクを避ける一つの方法は、航空会社やホテルに直接予約をしてしまうことです。
こうした手配の方法を「個人手配」と言います。その方法は、以下の2つの記事で詳しくご紹介していますので、あわせてご覧ください。
3.2 航空会社が潰れないなら、航空会社系旅行代理店も潰れない
航空会社は、自分の航空路線を使った旅行商品を販売するために旅行代理店も営んでいます。
親にあたる大手航空会社が、上に述べたような理由で潰れない以上、航空会社が営む旅行代理店も潰れるリスクは極めて低いです。
実際に、JALが経営に行き詰まって民事再生法の適用を申請したときも、JALが運営するJAL PAKというツアー会社のツアーはなにごともなかったかのように運営されていました。
航空券やホテルを自分で手配してしまうと、現地でのトラブルなどにもすべて自分で対処しなければならないという難点がつきまといますから、旅慣れない方にとって旅行代理店を介するというのは強い味方になります。
そんな方は、航空会社系旅行代理店を使えば破産のリスクを最低限に押さえながら、快適な旅行を実現できるわけです。
日本であればJALのJAL PAKとANAのハローツアーがあります。
このどちらが良いかということになると、僕は断然JAL PAKを推します。
ANAのツアーはビックリするほど高いんです。行き先や日程によっては、JAL PAKの1.5倍くらいお金がかかってしまったりします。
JAL PAKであれば、そこらの旅行会社と大差ないような金額で旅行にいくことができますので、特に好みの航空会社があるということでもなければJAL PAKがオススメです。
JAL PAKは金額の割に添乗員さんやガイドさん、現地スタッフなどの質が極めて高く、旅行者の満足度も高いという、素晴らしい旅行代理店です。
4. 次に読むのにオススメの記事
格安旅行会社が一体どんなしくみで激安のツアー商品を作っているのかというお話は、以下の記事で詳しくご紹介しています。「なんであんなに安いんだろう?」という商品を見たことがある方は、ぜひ読んでみてください!
その他、旅行の準備方法に関する記事は以下のページにまとめています。
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