日本の遊園地が生き残るための3つの道 ー 遊園地はなぜ潰れるのか Part 7

こんにちは、ricebag(@ricebag2)です。
この記事は、なぜ日本の遊園地は次々に潰れていくのか、というお話を経済面、人々からのイメージ、遊園地マニアとしての意見などを交えつつご紹介していくシリーズの第7回。
前回までに、日本の遊園地は新規投資が出来ないほどに余力がないこと、需要に対して供給が多すぎることなどを見てた上で、遊園地が生き残るためにはこれまで来場者が少なかった層も積極的に集客していかなければならない、ということを明らかにしました。
今回は、それでは新たな層を集客していくためにどうすれば良いのか、ということを考えていきます。
売上アップに向けたルールとして、前回までと同様に投資はナシあるいは限りなく低額、値上げはナシという制約を課します。
遊園地の規模は
総アトラクション数: 30
そのうち、
- 大型コースター: 1機
- 中型コースター: 1機
- 50 m級観覧車: 1機
- 大型絶叫マシン: 4機
といった感じで考えています。「東武動物公園」の遊園地部分、「としまえん」、「ひらかたパーク」くらいの規模。
1. 前例に学ぶ

具体策に入る前に、まずは改革によって集客増に成功した前例、成功しそうな例を見ていくことにしましょう。
何も5,000円払って1日中滞在してくれる方だけが遊園地のお客さんではありません。
来園してコースター2つだけ乗って、2,000円落として帰ってくれればそれはそれで立派なお客さん。
もともと1日滞在してくれている方々はそのままに、新たにこうしてちょっとだけ遊んでいってくれる方を呼び込むことができれば、大幅な売上アップに繋げられる可能性があるのです。
実は日本国内でも、こうした方針に舵を切った遊園地があります。
その代表例が「東京ドームシティアトラクションズ」でしょう。そもそもは後楽園ゆうえんちという従来型の遊園地でしたが、一時閉園して全面リニューアル。
その結果、温泉施設とショッピング施設を併設し、入場無料かつショッピング施設直結でアトラクションに乗車できる都市型遊園地が出来上がりました。
ここは丸一日遊園地で遊ぶお客さんよりも、ショッピングなどを楽しみつつ「サンダードルフィン」などの主要アトラクションに1つ2つ乗るお客さんが多いのではないでしょうか。
「1日遊園地で遊ぶぞ」というお客さんだけでなく、ふらっと立ち寄ったお客さんにもお金を落としてもらえる、良い戦略です。
ただし、これは立地が良いからこそなせる業。
一方で、もう1つ、立地が悪いながらも「ちょい遊び」用途に対応しようとしている遊園地があります。
それが「富士急ハイランド」。2018年に入園料無料化で話題となりました。
もともとは丸一日使わないと遊びきれない、大型コースター満載の遊園地なのですが、遊園地だけを求めていくにはアクセスの悪い立地。
その一方で、周辺には富士山・河口湖周辺の観光施設がたくさんあります。
そうした施設に遊びに来たお客さんを、1時間2時間だけでも呼び込み、アトラクションに1つ2つ乗車してもらう。そのための入園無料化でしょう。
遊園地に1日使いたくはないけど、目玉アトラクションだけは乗ってみたい、というお客さんも取り込める戦略です。更に時間節約のために「絶叫優先券」も購入してくれれば、そこそこの客単価も稼げる。これはこれで、しっかりと儲けることを志向した戦略なのです。
2. 戦略1: 近隣から集客する
さて、それではこうした戦略が取りにくい、住宅街近くの遊園地はどうすれば良いのでしょうか。
狙いたいのは、これまでに対象となってこなかったような社会人現役年代~高齢者層。
ベストなのは、平日昼間に高齢者層を取り込み、平日夕方~夜と週末にかけて現役層を取り込むことです。
時間帯や曜日はひとまず置いておいて、ターゲットに合わせた戦略を考えてみましょう。
現役層を取り込むためには、イメージの転換が重要です。
現役層のうち、外出を頻繁にする層は現実にどのようにして余暇を過ごしているのか考えてみましょう。平日であれば例えばジムやヨガ等での運動、英会話や料理教室などの自己啓発等。休日であれば、それこそそれぞれの趣味を中心に過ごしているのではないでしょうか。
こうした方のうち、特定の、いわゆる「意識高い」方へのアプローチになってしまいますが、「メンタルヘルスコントロール」や「アンガーマネジメント」などの手段の1つとして、絶叫マシンなどを訴求していく、という方法が考えられます。要するにストレス発散の言い方を変えただけです。多少の講演会等の実施、広報は必要になってしまいますが。
あるいは「趣味の場」としての遊園地をアピールしていく。乗り物のマニアックな側面をアピールしていく方法です。この点は遊園地が頑張ることでも無いような気もしますので、当ブログが頑張っていきます。
「学びの場」としての活用法もあります。遊園地のアトラクションは物理、特に力学の学びには最適。こうした施設を活用して、「科学を体感」する大人向けガイドツアーの開催なども考えられます。
万単位での集客増には、流行の「ナイトプール」の活用も含めて複合的な施策が不可欠ですが、こうした取り組みを通じて「大人でもあの遊園地に行けば絶対に楽しめる!」というイメージを植え付けていくことが重要です。
課金方法としても、通い安さを演出するために「月額定額制」や「ポイント制」といった手法を導入することも1つの手かもしれません。
では、引退後の高齢層を取り込む戦略はどのように取るべきでしょうか。
この世代は乗り物への本能的な興味は薄れている可能性が高いです。
特定のアトラクション目当てというよりは、むしろ時間を生かしてヘビーに通っていただきたい存在。
キーワードは「収集あるいは成長要素のあるゲーム」「優れた聞き手としてのコミュニケーションツール」「運動や認知症予防などの実用性」だと考えています。
高齢層がハマるものには、例えばパチンコやメダルゲーム、古くは盆栽など単純なルールで長く遊べるものという特徴があります。何度も足を運ぶきっかけになり、かつ他人とコミュニケーションを取りながら進められるという点で、アトラクションを絡めた収集・成長要素のあるゲームというのは1つの集客ツールになると考えられます。
また、多彩な経験があるからこそ、語りたい欲求が強く、その一方で子離れ等により孤独さもかかえています。コールセンターに長時間電話をしたり、かかりつけの先生に世間話をしたり、といったよく聞かれる問題もこうした特性を反映していますよね。こうした語りたい欲求を発散していただくために、優れた聞き手としてのコミュニケーションツールを用意することも集客へとつながると思われます。
最後に、通うことの積極的理由付けができる認知症予防・運動などの実用性。
これらを兼ね備えた、聞き手としての役割が強いAIキャラクターを利用した収集あるいは育成ゲームの要素を持ち、謎解きや園内散歩要素もある。アトラクションにARなどを組み合わせて、一部分リアル要素のある「どうぶつの森」的なゲームを運用するという手が1つのアイデアとして考えられます。
こちらは入場料に関しては月額あるいは年額制、ゲーム内容に関しては都度課金制にするのが最も効率的な方法なのではないでしょうか。
かなりの投資が必要になりそうですので、まずは紙媒体のカードゲームや謎解き的なもの、スタンプラリー等からスタートしていくのもありかもしれません。ただし、あくまでターゲットは近所の高齢層に絞って。
いずれにせよ、大人でも楽しめるというイメージの構築が大切です。
3. 戦略2: 日帰り観光客を集客する
これはまさに、上で述べた富士急ハイランドが取ろうとしている戦略です。
バスツアー等で近隣に来た客に、1つ2つだけアトラクションに乗車してもらい、お金を落としていってもらう。
客単価こそ上がりませんが、それまでに訪れることのなかったお客さんがお金を落としてくれるようになるわけで、売上としてはそのままアップに繋がります。
例えバスツアー客だけ入園料を無料にしたとしても、それまでに訪れなかったお客さんが1日数百人規模で数百円落としてくれれば、僅かながらも売上アップにつながります。
しかも、お客さんを捌くのはほとんどガイドさんがやってくれますし、お客さんが楽しんでくれれば再度訪れてくれて、新規顧客獲得につながる可能性もある。海外からの観光客も取り込むことができれば、多数の集客も期待できます。
周辺に少しでも観光資源があるのなら、あるいは観光資源への経路上に遊園地が位置しているなら、この層に手を出さないのはもったいない。
しかしながら、今回考えている遊園地には全国規模で集客できるような、超目玉アトラクションはありません。
ではどうするか。
1つの戦略は、団体向けの食事提供をすることです。
50人規模になるバスツアーの、食事の受け入れ先を探すのはなかなか難しいところ。しかも、味とコストのバランスが取れていて、バスツアーの目玉の1つにできるようなところとなると、そうそう見つかるものではありません。
そこで、メニューは一点突破+α程度でも構わないので、とにかく安くて美味しくて食べ放題の食事を提供するのです。
そうして食事をしてもらい、目玉アトラクションに1つだけでも乗車してもらえば、バスツアー側は満足度が高まるし遊園地側は売上がアップするしでwin-winなのです。
平日に遊んでしまっている施設を活用できますし、安くて美味しい食事の存在はバスツアー以外のお客さんにとっても魅力です。
現状の高くて美味しくない、「海の家」的な食事は遊園地に対する「ガッカリ感」を醸成してしまいますし、持ち込みや、一度外に出て食事をしてからの再入園も助長してしまいます。
むしろ美味しい食事の存在は、それまで遊園地を敬遠してきた層に訴求できる可能性があります。
ただし、何かの後追いではなく、驚きのある美味しさを提供できるかどうかがカギになってきますが。
何を出すべきなのかはグルメ論になってしまいそうなので、また別の機会にでも。
4. 戦略3: 校外学習・修学旅行を狙う
校外学習や修学旅行の行き先というのは、学校側にとってみれば永遠のテーマと言っても良い課題です。
あくまで「学習」「修学」とついていて、学校イベントの一環として行う以上は、何らかの教育的意義を付与したいところ。
それに対して、生徒たちは「学校の外でハジけたい、遊びたい」という主張をしてきます。
遊園地は、こうした両者の主張の着地点を狙うことができるのです。
上にも述べました通り、遊園地は「力学」「電気」など物理の単元の体験的学習にはうってつけの場所です。
「位置エネルギーと運動エネルギーの移り変わりを体感できる場所」なんて、他にはなかなかありません。
学校側も「教育」という名目を欲しているわけですから、極論を言えば各アトラクションに解説パネルを設置するだけで良いのかもしれません。
そうした対応と、「体感型教育施設」としての広報活動を行えば、1校あたり100人~1,000人規模のお客さんを閑散期の平日に取り込むことができる可能性もあるわけです。
あとは何名か講師を雇ってガイドツアーを開催すれば、学校、幼児教育、家庭教育、学び直しなどなど様々な需要を取り込むこともできるかもしれません。
ここまであげた3つの戦略の中では、これが一番の本命だと思っているのですが、いかがでしょうか。
5. 売上がアップしたら、安定的な経営のために積極投資!
まずはほぼ投資が不要な学校を対象とした戦略を取ることを考えます。
近隣の小学校・中学校の校外学習、遠方の中・高からの修学旅行需要を取り込み、教育熱心な家庭や、塾など学校外教育のイベント需要なども的確に押さえていくと、全国区でうまくやれば、1日平均500人くらいの来場者アップは見込めそうです。たとえ教育関係だけではこの数字に届かなくても、他の戦略も含めてチマチマタネを仕込んでいけば達成できそうな数字です。
年間になおすと20万人弱(1学年あたり全国に100万人くらいしかいませんので、一部の子供には毎年のリピートをしてもらう必要がありそうですが)。団体が多いので割引をして1人3,000円に設定しても、6億円規模の売上アップです。
目標の100万人・40億円アップには程遠いのですが、次の手を打つ原資にはなります。
年間5億円以上の余剰資金を手に入れたら、他が追随してくるまでに次の手を打たなければなりません。
さらなる売上アップと安定的な経営を目指すために、
- 集客拡大策
- 老朽施設の入れ替え
を同時に進めていく必要があります。
どこにどう投資していくべきなのか、というお話を次回以降にしていきたいと思います。
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