事故が教える教訓 ー 富士急ハイランド「リサとガスパールのそらたびにっき」

2020年6月4日



こんにちは、あまりネガティブなことは書きたくないけれども、この件を書かずには「リサとガスパールのそらたびにっき」には向き合えないので、真っ向勝負を挑もうとしているricebag(@ricebag2)です。

今でこそ子供向けぶら下がり型コースターのていで運行されている、「リサとガスパールのそらたびにっき」。

もともとは全く別の、大人をターゲットにしたコースターでした。それがとある事故をきっかけに、長期運休、テーマを入れ替えての再始動へと至ります。

その事故の要因は、突き詰めれば富士急側は経験のない会社に作らせてしまったこと、製作会社側は見様見真似で海外製マシンに似たものを作ってしまったことにあると思います。実は、同じようなトラブルは海外企業でも発生していたのに、それを活かせずに怪我へと至ってしまった事例です。

実は富士急側にはほぼ責任のない事故でありながら、遊園地の評判に大きく影響してしまったことから、遊園地の運営者側にとっては非常に示唆に富む事故です。

そのあたりを、事故解析の文献(「遊園地の事故で骨折事故 間違いだらけの設計で疲労を誘発」沢俊行, D&M 586 (2003) p.128-131, 日経BP社、現在は有料で入手可)を参考に考察しつつ、子供向けなのに最高速度50 km/hと妙に過激なアトラクションの秘密に迫っていきたいと思います。

めっちゃ長いので、事故に興味ない方は以下の目次から2番へジャンプ!

高飛車の評価

爽快感:      ★★☆☆☆

振動の少なさ:   ★★★☆☆

スリル:      ★☆☆☆☆

コースレイアウト: ★☆☆☆☆

楽しさ:      ★☆☆☆☆

総合得点:     20点

1. 失敗は繰り返す ー 事故の解析と発生原因

1.1 黎明期のフライングコースター

現在「リサとガスパールのそらたびにっき」として運営されているローラーコースターは、2000年の建設時は「フライングコースター バードメン」という名前でした。

日本ではじめて、腹ばい状態で乗車するコースターで、まるで鳥になったかのような空中滑空を楽しめる、というのがウリのコースターでした。今で言えば、ナガシマスパーランドの「アクロバット」や、USJの「ザ・フライング・ダイナソー」の小型版のようなイメージです。

当時、腹ばい状態で走行するコースターには、オランダVekoma社のフライング・ダッチマンシリーズがあっただけ。これはアクロバットやザ・フライング・ダイナソーに似た、フライングタイプでかつ大型のループコースターです。ただ、これは椅子に座る形で乗車して、椅子がそのまま後ろに倒れて仰向け状態になり、仰向けのまま巻き上げを登ったあとに反転して腹ばいになる形式。かなり特殊と言いますか、変化球のやり方です。乗降性や回転率を重視しているんですね。しかも稼働開始は2000年4月ですから、バードメン設計時にはこのコースターの存在を知らなかったはずです。

厳密に言えば、近現代初のフライングタイプは、1997年イギリスに建設されたSkytrakというもの。こちらは斜めになったライドに腹ばいになって、背中からハーネスをおろしてきて固定して、ライドの足側を持ち上げることで腹ばいになるというもの。ただし、設置されていた施設が閉鎖されたために1998年には廃止、メーカーもこれ1基を作ったのみで、通常のコースターすらも製作例がありません。

ちなみに、バードメン以降では、2002年からZamperla社とB&M社がフライングコースターの製作を開始します。Zamperla社版は日本にはありませんが、B&M社版はアクロバットとザ・フライング・ダイナソーが導入されています。

1.2 バードメンのライドシステム

そんな状況ですから、バードメンはSkytrakタイプのシステムを採用しました。

Skytrakのライドシステムは、基本的にはサスペンデッドタイプ(ぶら下がり型)のコースターと同じです。サスペンデッドと言っても、足ブラブラのタイプではありません。もっと古い、箱型のライドがレールからぶら下がっているタイプです。日本で現存しているのはそらたびにっきの他、グリーンランドの「グランパスジェット」と八木山ベニーランドの「エアロ5」くらいでしょうか。有名所では、東京サマーランドにかつてあった「はやぶさ」がソレです。

グランパスジェットのコースレイアウト。はやぶさと比べれば大分コンパクトです。

サスペンデッドは普通のローラーコースターと違って、ライドが左右にゆらゆら揺れるように作られています。レールに沿って走行する台車から、ライドが振り子のようにぶら下がっているのです。

失敗写真ですみません。グランパスジェットのライド部です。

Skytrakは、このサスペンデッドタイプのライドを箱型からうつ伏せ型に変更したような構造になっているのです。このため、カーブでは左右に大きく振られて、本当に飛んでいるかのような気分を味わえるはずです。これに対して、バードメンではこの振り子構造をなくして、かつ横二人乗りに変更したような構造を採用しました。

さて、サスペンデッドタイプのコースターを開発したのは、Arrow Dynamics社。1975年に戦後初のループコースター「コークスクリュー」を開発してノリにノっていた会社が、1981年にキングスアイランドに設置したものが最初です。しかしながら、このコースターはサスペンデッド2号機が1984年に製作されるより早く、1983年に営業を終了してしまいます。

ここで問題となったのが、振り子構造の付け根の軸や、軸と台車とをつなぐ接合部です。振り子のような動きを実現するため、ライドの荷重はすべてこの軸が支えています。やたらと重いブランコのようなイメージです。

これがカーブを通過したりすると、振り子の軸や台車との接合部には凄まじい負荷がかかります。カーブではライド重量の1.5倍~2倍程度の負荷が一本の軸にかかるのです。サスペンデッド1号機では左右に振られる動きを楽しむために、あえてカーブでほぼカント(バンク)を付けなかったため、振り子の揺れを抑えるためのダンパーにも凄まじい負荷がかかったそうです。

しかも、仮にどこかのパーツに亀裂が入ってしまうと、その亀裂には常に広がる方向の力がかかります。通常のローラーコースターですと、例えばカーブでは車体がレールに向かって押し付けられる力がかかりますので、亀裂があってもそれが狭まる方向に力がかかるのですが、吊り下げ式だと逆方向に力がかかってしまうのです。

こうして軸回りのメンテや消耗品の交換を頻繁に行う羽目になって、「いつ動いているのかわからない」「しょっちゅう止まっている」コースターになってしまった上、メンテ費用もかさみました。そうした事情で、わずか2年で営業を休止してしまったのです。

サスペンデッド2号機以降はレールに大きなカントを付けることで、ダンパーが受けるダメージを減らしています。それでも通常のローラーコースターに可動軸を1つ追加していますので、導入されてもメンテ費用がかさんで短命に終わることが多いタイプのコースターです。はやぶさも結局、10数年で破損して、そこから復旧できずに解体されてしまいましたよね(はやぶさの場合は、レール周辺のトラスが外れたのですが)。

1.3 事故の概要と原因

バードメンの場合は、振り子の軸はありません。にもかかわらず、なぜかライドを、一本の軸から吊るしています。このような構造にしたため、ライドを吊っている軸と車軸とを、細い軸でつなぐ必要を生じてしまいます。この構造で振り子軸がないと、コースレイアウトによっては振り子軸がある場合と比べて負荷が増加します。

負荷が大きくなるのは、コースの傾き(カント、バンク)が車両にかかる遠心力と一致しない場合。これはカーブに合わせて徐々にカントを付けていくことができない、設計上あるいは施工上の技術が不足している場合にはよくある構造です。コースが直線のうちにカントを付けてライドを傾け、カーブに備えます。それからカーブに侵入して、カーブを越えたあと直線に戻ってからカントを0に戻すのです。古いローラーコースターにはよくある構造なのですが、バードメンでもこれを採用してしまいました。(技術がなかったというよりは、体を傾けてから進行方向を変化させていく、鳥や飛行機のような飛び方を再現したかったためにこのようなコースレイアウトにしたのかもしれません。) このような構造にすると、ライドを吊っている一本の軸と車軸とをつなぐ軸(ボギー軸)に、軸を曲げる方向の力がかかってしまうのです。

こうして、ボギー軸にかかる負荷は大きいものとなります。その負荷の計算を誤って、走行中に前のボギー軸が破断し、ライドが前向きに傾きます。傾いたライドがブレーキシステムに衝突して急停止。乗客二人は腰椎骨折等の重症を負いました。事故が起きたのは、開業から約1年後の2001年5月のことでした。

事故の直接的な原因は、上述した参考文献に詳しく記されています。

設計時に、ボギー軸にかかる負荷が実際の1/20程度に過小評価されていたこと。その負荷をもとにしたのかどうかわかりませんが、ボギー軸自体が細すぎること、ボギー軸の付け根部分(ボルトを通すフランジ部)からボギー軸にかけてが一体構造となっていて、その付け根からボギー軸にかけて90度の角度をなす部分の曲率半径が小さかったために、応力が集中したこと。更に、結果的には直接の原因とはなりませんでしたが、本来は焼きなました材料を使うべきところ、焼きなましていない材料を使っていたため、設計通りの強度も得られていなかったこと。

このうち、応力集中に関しては今回はそれほど問題ではありません。設計者が応力集中を十分に、あるいは適切に考慮していなかった可能性はありますが、そもそも応力集中部以外の場所にかかる応力も、疲労限界を大きく超えているのです。

というわけで問題は、なぜ負荷を過小評価していたのか、というところです。

参考文献では、以下のように考察されています。

疲労亀裂の進展を促進させることになった、ボギー軸のフランジ部から軸部にかけての極めて小さな曲率半径というのは、設計変更の弊害らしい。当初、ボギー軸のフランジ部と軸部は溶接構造にするはずだったが、高強度化を目的に一体構造にするよう設計変更している。おそらくこの際に、曲率半径の支持が十分に伝わらなかったのではないか。溶接構造の設計図面には、曲率半径R=3 mmと記されているからだ。(「遊園地の事故で骨折事故 間違いだらけの設計で疲労を誘発」沢俊行, D&M 586 (2003) p.128-131, 日経BP社)

しかしながら、これだけでは十分に原因を説明しきれていません。この内容だけだと、当初の設計も最終的な設計も、過小評価した負荷を用いて導き出されたもので、構造変更による高強度化によって曲率半径を小さくしただけ、という形にも読み取れるからです。なぜ負荷を過小評価していたのか、というところまで踏み込めていないのです。

そこで、ザックリとですがボギー軸にかかる負荷を見積もってみましょう。

ボギー軸の破断位置から、ライド下面までの距離は、上述の参考文献に乗っている図面を見るとザックリ1,400 mm。ボギー軸の破断位置とライド重心との距離を600 mmと置いてみましょう。ライド重量を170 kgf, 乗客2名の重量を130 kgfと置きますと、ボギー軸破断面にかかる曲げモーメントは、ライドが90°横に傾いた場合で300 kgf × 600 mm = 180,000 kgf・mm。2本のボギー軸が均等にモーメントを受けていれば、1本あたりは90,000kgf・mmとなります。応力集中係数を図面からザックリ見積もると、2.5程度だと思われますので、集中部にかかるのは、225,000 kgf・mm相当程度。

参考文献に書かれている実証実験のひずみゲージ実測値から有限要素法解析を介して求めた値が436,000 kgf・mm, 設計図上の見積もり値は22,500 kgf・mmとのこと。

さて、どうして設計図上の見積もり値がこんなに小さかったのかを理解するため、無理やりこの数字を引きずり出してみましょう。

考えられるのは、乗客がいない空のライドを使った場合。ライド重量170 kgf(これは想像の値で、文献値ではありません)を用いますと、ライドが90°傾いた場合にボギー軸1本が受けるモーメントはおよそ54,000 kgf・mmとなります。ライドの傾きが30°程度であれば、ボギー軸1本が受ける曲げモーメントはおよそ27,000 kgf・mmです。これで設計値と近い値が得られました。

ライドの傾きが30°程度というのは、巻き上げの角度と同等です。というわけで、本来はカーブ中の曲げモーメントを評価すべきはずなのですが、カーブ中は遠心力が働き、遠心力とレールのカントとがバランスして引っ張り応力のみが働くと判断してしまったのではないでしょうか。このため、唯一車両の傾きがそのまま曲げモーメントとして働くと想定した、巻き上げのみを考慮してしまった。

あるいは、私が算出した値と、図面の値とがちょうど一桁の違いになっていますので、もしかしたら単純に桁を間違えたのかもしれません。

それでは、実際にそんなに大きな曲げモーメントが働いたのはなぜなのでしょうか。

参考文献には、"1回の走行当たり4回の大きな繰り返し荷重を受ける"とあります。これはひずみゲージを用いて測定した結果でしょうから、そのまま受け入れることにします。また、亀裂の入り方から判断すると横揺れによって亀裂が入ったと判断できる、とされています。(ちなみに、引っ張り方向の応力も過小評価されていて、疲労強度は不足していたようですが、今回の原因は主に横揺れだったようです)

ということはやはり、カーブかその前後に問題があるということです。カーブの最中は、先述の通り遠心力と重力との合力がかかりますし、それに合わせて車両は斜めになっています。しかもほぼ静的に力がかかりますから、曲げモーメントはどんなに大きくても225,000kgf・mmまでいかないでしょう。

そうすると、カーブの前後に問題があることになります。おそらく、カーブ後の姿勢の戻しが急すぎるのです。車両がカーブで傾いた状態から、直線部に戻って勢いよく真下を向く状態に戻す。その際、真下を向いて横方向の動きが止まったときに、大きな曲げモーメントがボギー軸にかかります。ここがキーでしょう。あるいは、単純にレールのつなぎや曲げ精度が甘く、大きな横揺れが発生したことが原因かもしれません。同じ会社が2020年に製作したバイク型コースターでも、かなりの粗さが見られます。

いずれにせよ、なぜその大きな曲げモーメントを無視して設計してしまったのか。例え負荷の計算を一桁間違えたとしても、設計時あるいは製作時に、軸のあまりの細さに違和感を持ちそうなものです。その違和感を抱けなかったのは、製作会社にはぶら下がりタイプに対する知識がなかったことが原因であると考えられます。

通常のローラーコースターは、ボギー軸が事故の原因になることはあまりありません。これは以下のような事情があるからです。

  • 通常時は圧縮応力が働いているため、引張による疲労が少ない
  • 車体の裏面が比較的平面になっているため、ボギー軸を太くしやすい
  • 車軸とボギー軸の固定部側との間隔が極めて狭く設計されるため(間隔が広いと車高が高くなって不安定化するため)、弾性変形域内で車軸と固定部側とが接触してしまい、疲労が発生しない可能性が高い(接触するような設計はどうかと思いますが)
  • 仮に亀裂が入ったとしても、車軸と固定部とが接触して異音が発生するため、異常に気づくことができる
  • 1軸のみの可動で済むボギー軸よりも、車輪軸から遠いためにモーメントが大きくかかり、かつ2軸で動かす必要のある連結部のほうが先に壊れる

このため、ぶら下がり型自体が初案件だった製作会社にとっては、ボギー軸にかかる曲げモーメントが重要なものだと認識できていなかった可能性があります。そのため、いい加減な評価で終わらせてしまったのではないかと。

さらにもう1つ、腹ばい型のライドは、乗客が立ったまま乗車できるよう角度を変えることができます。乗車時は大きく傾いていて、出発直後に地面の上にあるレールを使って角度を変えて腹ばい状態にするのです。このため、走行中に動くわけではありませんが、プラットフォーム付近で動く可動軸が1つ増えています。

この機構にはバネも備える必要がありますし、ほぼ同じ動きをするハーネスを別体で設計する必要もあります。ぶら下がり型自体の経験がないにもかかわらず、それにもましてやたらと複雑なライドを設計しなければならなかったため、相対的にボギー軸から注意がそれてしまったというのも、曲げモーメント過小評価の原因の1つとして考えられるのではないでしょうか。

なお、おそらく20~30 km/hからの衝突にも関わらず、腰椎骨折などの重症となったのは、乗車姿勢に問題があるからです。このあたりは「ええじゃないか」の記事にも記載していますが、荷重を肩のハーネスで支えるような形になると、肩周りや腰を怪我してしまうのです。

これが座位のコースターであれば、むち打ち程度の症状で済んだかもしれません(速度が出ていると、頚椎骨折などのより重い怪我に至る可能性もありますが)。人が寝た状態で乗車するコースターというのは、衝突や急停止をすると肩のハーネスですべての衝撃を受ける形になりますから、衝突や急停止が無いよう最大限の注意を払わなければならないのです。

1.4 事故から学ぶ ー 製作会社側

事故などの失敗は、そのほとんどが類型化できる、というのは「失敗学者」中尾政之先生の論です。


バードメンの事故もご多分に漏れず、20年ほど前に似たような原因のトラブルがありました。

Arrow社のサスペンデッド・コースターは、カーブで大きく振り上がったライドが鉛直状態に戻る際、ダンパーや、台車と振り子をつなぐ軸に大きな負荷をかけ、それが原因でメンテナンスコストが嵩んでしまいました。

バードメンには振り子軸はありませんが、カーブではレールを傾けることでライドを振り上げて戻します。この動きがカーブの曲率半径の変化にあっていれば全く問題はないのですが、バードメンは直線上でこの動きを行っていました。このため、振り戻しのときにボギー軸に大きな負荷がかかってしまったのです。しかも、サスペンデッド・コースターは振り子をダンパーで抑えますので、まだ負荷は抑制されていますが、バードメンではそれがないために、レールの動きをダイレクトにボギー軸で支えてしまったのです。

そのことを知らずに、あるいは無視をして設計したがために、大きな事故へと至ってしまいました。

ちなみに、この事故から約10年後に、東京ディズニーランドでもパレードで使われていた装飾が落下するという事故がありました。これもまた、金属疲労が原因です。どうやら、遊園地業界にとって疲労は難敵のようです。

さて、富士急のこの事故から得られる教訓を、製作会社側、遊園地運営者側の2つの視点から見てみましょう。

製作会社側からすると、設計不良による事故を起こすと、遊園地側からの改修費用請求、損害賠償請求が発生する恐れがあるだけでなく、その後の受注にも影響します。

この事故の場合にも、当該メーカーは翌年以降、競争入札が中心と思われる公共団体系遊園地への導入ばかりになってしまいます。2004年には現在のさがみ湖リゾート プレジャーフォレストに導入していますが、こちらも当時の運営は三井物産系ですので、入札に近い形で価格を訴求できたのではないかと思います。余談ですが、このさがみ湖ピクニックランドが後に富士急グループ入りするのは、なんとも皮肉な話です。

現在では、これらの公共団体系遊園地への導入を足がかりに商業系遊園地への導入も進んでいますが、当時は相当苦しかったのではないかと想像されます。

ちなみにこのメーカー、後に似た構造のフライング・コースターを製造したZamperla社の、フライングコースターに似たシステムでうつ伏せ乗車するタイプの回転ライドをひらかたパークに納入しています。これもまた皮肉といいますか、不思議な縁といいますか。。。

このように、メーカーにとっては事故や重大トラブルは経営問題へと発展しかねない、大きな問題です。そもそも人命がかかっているので当たり前といえば当たり前なのですが、設計不良による事故は絶対に避けねばなりません。

今回の事故から学ぶべきことは、ローラーコースターという同じような乗り物であっても、ライド形状等が変われば気にすべき点が大きく変わってしまうことがある、という点です。流用や見様見真似で作ってしまうのではなく、様々な荷重、振動に対してウィークポイントを探し出して、対策を打つ必要があります。特に大きな荷重を細い軸で支えるなんて、もってのほかです。

細い軸で大きな荷重を吊っていることに目が向かなかった原因は、経験がないにもかかわらず吊り下げ式とうつ伏せ乗車という2つの要素を組み合わせてしまったことにあると思います。特別なケアが必要な方式に、複雑なライドを組み合わせてしまったために、注意すべきところに十分な注意が向かなかったのです。

他社では、例えばVekoma社は通常のシットダウン型コースターのライドを逆走させて、かつ座席が後ろに90°倒れる機構を採用しました。これなら、座席周りと、乗客にかかる負荷の計算に集中すれば、その他は既存システムの転用で済みます。しかもVekomaは吊り下げ式の経験もあります。ひっくり返って走行する分の負荷は知り尽くしているのです。B&M社も吊り下げ型の経験があったので、吊り下げ型の座席を、お尻を引っ張り上げるような形で前傾させられるシステムを採用しました。これもまた、座席周り以外は既存システムの転用で済みます。Zamperla社は新規開発のシステムですが、車軸周りの荷重は後輪に集中するよう設計して、そちらは台車に固定。前輪周りは車軸を台車に通しつつ、球体関節(あるいは2つの回転軸の組み合わせ)のようなもので固定することで、車輪が上下左右に自在に動けるようにしました。このような工夫で車輪の動きと耐荷重性能を両立していましたが、ライド形状の悪さやコースレイアウトの問題もあって評判が悪く、10年ほどで製造を終了してしまいました。

このように、各社自前のシステムを1点だけ変更して製作するか、あるいは完全な新規制作なら絶対の安全を担保できるよう、安全策を張り巡らせて設計しているのです。1点を変更しただけなら、その変更点周りに着目して、負荷の計算等を行えば良いのです。が、2点以上を変更して、それらの変更点が複雑に絡み合ってしまうと、どこに注意をすれば良いのかわからなくなってしまいます。その結果、ウィークポイントが埋もれて見過ごされてしまうのです。

これは何も、1点ずつ変更してそれを販売してから次に進まなければならない、と言っているのではありません。1度、1点だけ変更したコースターを設計してみれば良いのです。そうすれば注意点が見えてきますので、それをもとにもう1点変更して、、、と段階を追えば良いのです。納期と戦う小さな企業には難しいことかもしれませんが、厳密な設計までいかなくても、1度考えて見るだけでもだいぶ違うはずです。何より、事故を起こしてしまうよりはマシです。将来的には、その中間体から別の派生形を作って新たな販売につなげることができるかもしれませんし、中間体自体を売ることができるかもしれません。手持ちのコマを増やしておくことは、損だけではないはずです。

今回は負荷の見積もりを誤ったことが根幹にありますが、そもそも、細い軸はできるだけ作らない、そこに負荷をかけないような設計をすべきです。例えばボギー軸に負荷をかけないための回避方法としては、

・乗客が乗らない「0号車」を先頭に付けて、擬似的に2両編成にする。0号車は左右一対の車輪のみを設置。乗客車両は後輪のみとして、その下に車両の重心を持ってくることで、太いボギー軸でつなげることができるようにする。0号車と乗客車両間を連結器でつなぐことで姿勢を保つ。(トレイラー方式)

・後輪の下に座席を作り、同様に太いボギー軸を作る。前輪には細いボギー軸を作るが、座席から離して配置することで、負荷がかからないようにする。(Zamperla方式)

・各車輪ユニットが独立して回転できるようにすることで、負荷を分散する。(アッカーマン方式)

・形状の工夫でボギー軸や、その他の吊り支柱が太くなるように設計する。

などが考えられます。ただし、アッカーマン方式を採用すると、カーブで2本のレールの間隔を少し狭めなければならないので、レールの加工がちょっとややこしくなります(設計は、現代ならCADがあるのでともかく…)。どの方式を採用するにしても、4つ目の工夫だけはしておくべきです。

また、ボギー軸が折れたことと、ブレーキに衝突して停止したことは、また別の問題です。前のボギー軸が折れても、今回は走行不能にはなりませんでしたし、ライドも後ろのボギー軸で支えられていて、落下していません。ブレーキに衝突しなければ、乗客の怪我には至らなかったのです。

ブレーキに衝突したのは、ブレーキフィンとその基部が回転、あるいは傾いたためでしょう。参考文献の図面がおかしい(図面をそのまま読み取ると、ライドが宙に浮いている)ので、正確な構造はわからないのですが、おそらく車軸から直接ボギー軸でライドの支柱を吊っていて、その支柱にブレーキフィン基部が接続されていたのでしょう。このためボギー軸の破断で前輪は離れてしまい、後輪と後輪軸からのボギー軸だけで車両を吊る形になってしまったため、ライドが前向きに傾いて、ブレーキフィン基部またはライド支柱がブレーキに衝突したものと思われます。(この衝撃でライドが落下しなかったのは、不幸中の幸いです)

人命を預かる装置ですから、何らかの故障が発生しても安全に停止できるようにしておくべきです。ライドは2本のボギー軸で支えられていますから、片方が折れてもすぐにライドが落下することはありません。ボギー軸が適切に設計されていれば、これはフェイルセーフになります。一方、ブレーキフィンは片方のボギー軸が折れただけで事故に至ってしまう状態です。これは、ライドを設計した際に、通常のローラーコースターのライドをそのままひっくり返したような形で設計したために、発生した問題です。通常、ローラーコースターはボギー軸の上にライドが乗っかっています。これであれば、ボギー軸が破断してもライドはボギー軸の上に居続けます。しかも、通常は車軸とライドとの間がワイヤーなどで繋がれていて、ボギー軸が破断しても車軸とライドがズレないように設計されています。このため、ブレーキフィンもそれほどブレることはなくて、大きな事故には至らないようになっているのです。

バードメンではこうした従来のライドをそのままひっくり返してしまったため、ボギー軸からライドがぶら下がる形になってしまいました。これでは、いくら車軸とライドがワイヤーで繋がっていたとしても、ボギー軸が破断すればライドは下向きに傾いてしまって、ブレーキフィンも位置ずれを起こしてしまいます。こうした「キモ」になる部分はきちんと設計を改めて、ボギー軸の上に車台が乗っかって、そこからライドを吊るすような形にしなければなりませんでした。実際、現在のそらたびにっきではそのような形に変更されています。

そらたびにっきのライド部。車軸の上にボギー軸を介して車台となる棒材が乗っかって、そこからライドを吊るしていることがわかります。

また、フェイルセーフの観点からは、壊れるときには安全に壊れるべきです。この件は整備不良ではありませんが、万が一、整備不良があった場合にも、「壊れ方」を想定しておく必要があります。最近の洗濯機などに「標準使用年数」といった表記があるのと同じ考え方です。安全なところから壊れて、故障を係員へと知らせてくれるように、壊れる順番まで考えて設計をするのです。様々な壊れ方を想定することで、思いも寄らない故障モードを発見するきっかけにもなります。

もう1点、こうした人命に関わる遊具を製作している以上、材料に関する知識は持っておくべきだと思います。熱処理すべき材料を熱処理せずに使用していたことも、場合によっては事故に繋がりかねなかった問題です。

おそらく、材料を仕入れる際の指定が間違っていたか、あるいは材料の仕様書を読み間違えたか、どこかの工場にライドの製作を依頼したなら、その依頼時の指定が間違っていたのでしょう。ともかく、設計図上や指示書上で、あるいは材料の色を見て、そのミスに気付ける人材が必要です。

金属材料に詳しい人なら、疲労の怖さを知っています。負荷の見積もりが甘いことにも気付ける可能性があるのです。

小規模の遊具メーカーが材料の専門家を雇うことは難しいかもしれませんが、設計ができる機械系でも材料に詳しい人材は存在します。何かしらの対策を打っておくべきだと感じます。

1.5 事故から学ぶ ー 遊園地側

では、遊園地の運営サイドから見たときにはどうでしょうか。

この事故は製作側の設計不良ですから、遊園地側の責任は重くありません。にもかかわらず、「事故を起こした」という印象が客足に影響してしまいます。場合によってはそれがきっかけで閉園なんていう事態にも至りかねません。

メーカーの責であるにも関わらず、遊園地が潰されてしまう事態はなんとしても避けなければなりません。もちろん、安全に遊園地を楽しんでもらうという観点からも当然のことです。

今回の件について遊園地側の最大の問題は、やはり経験のないメーカーに複雑な機構を作らせてしまったことにあるでしょう。日本初、世界唯一にこだわりすぎて、結果的にメーカーに対して過大な要求をすることになってしまった。

国産にこだわらず、吊り下げ式に経験のあるArrow DynamicsやIntamin, Vekoma, B&Mに依頼するか、この規模であればCariproやSetpointでも、あるいはせめて構造計算だけでもIng-Büroに依頼すれば違った結果になったでしょう。あるいは懸垂式モノレールの経験がある三菱重工を頼るという手もありますが、遊具の経験がないということもあって、これはより難易度が高そうです。

おそらく日本企業として国内企業を優先したい気持ち(産業育成の面でも、アフターサポートの面でも、ライドシステムに融通が利くという面でも)と、価格的メリットに負けてしまったことが要因ではないでしょうか。

富士急はこの経験からか、これ以降は世界初のライドシステムは採用していません。ドドンパはKings DominionのHyperSonic XLCがベースですし、ええじゃないかはSix Flags Magic MountainのX2、高飛車はGerstlauer社のEurofighterという汎用機をベースにしています。こうしてみると、それまでオリジナル路線を走っていた富士急が、ライドシステムのベースがあるものを使うようになる転換点がバードメンだったとも言えるようです。

また、リスクヘッジとして遊園地側も設計図をチェックし、計算に誤りがないか確認できたほうが良いのかもしれません。

将来的にメーカーが倒産した場合は、遊園地側がなんとかしてメンテナンスを継続していかなければなりません。そのことも考えれば、図面を第3者へ提供しないこと、類似のアトラクションを独自に作らないこと、場合によってはメーカーが倒産しない限り他社にメンテナンスを依頼しないことなどの契約を結んだ上で、せめてライド部分だけでも図面を提示してもらうべきでしょう。その上で、構造計算をできる人材、できれば材料に詳しい人材も囲っておいて、その人達にチェックをしてもらう。あるいは外部機関に図面チェックを依頼する(その場合は契約に工夫が必要ですが)。万が一の場合に遊園地が被る害を考えれば、それくらいのリスクマネジメントはしておくべきだと思います。損害賠償等では取り戻せない被害がありますから。

個人的には、様々なアトラクションのメンテナンスをしなければならない、あるいは委託しなければならないことを考えれば、大規模な遊園地は設計ができる人を少なくとも一人は雇っておけると良いと思います。そういう意味では、大規模にチェーン展開をしているSix Flagsなんかは強いですよね。日本の場合は、親会社が大きな鉄道会社であることが多いので、構造計算チェックを親会社に委託するというのもありかもしれません。親会社の名前を冠した遊園地が事故を起こせば、親会社のイメージにも傷が付きかねませんからね。ただ、観光、特に遊園地業で稼いでいる富士急の場合は……そもそも委託先が無いのかもしれません。

最近は有限要素法で応力分布を計算した上で、走行時の負荷をシミュレーションすれば問題ないものが出来上がるはずですが、それでもレール加工時や敷設時の精度によってはシミュレーションより負荷が大きくなる可能性もありますし、「ここまで安全係数をとっておけばOKを出せる」というラインはしっかり持っておくべきだと思います。また、全国の遊園地ではメンテの施工不良による事故も多いですから(例えばナガシマスパーランドのスチールドラゴンでは、本来ワッシャーを入れてはいけないところにメンテナンス会社がワッシャーを入れてしまったため、車輪が脱落しました)、やはり施工のダブルチェックもできて、アトラクションの安全に目を配れる人材が必要です。

遊園地がアトラクションを運営する上で注意しなければならないのは、アトラクションに乗車した際に感じた違和感は、お客さんから遊園地には上がってこないということです。

例えば自動車であれば、同じ人が同じ車に乗り続けるわけですから、ちょっとした異音や違和感があれば、車はディーラーに持ち込まれて点検を受けます。しかしながら、遊園地のアトラクションにそんなに頻繁に乗る人は多くありません。しかも、オペレーションをしているのは大抵アルバイトですから、例え違和感を感じても「アルバイトに伝えたところで」と思って伝えない人もいると推察されます。

こうした事情から、遊園地側はトラブルを未然に防ぐためには、その兆候に自ら気づくしかありません。最近はどこの遊園地もやっていることだと思いますが、通常の点検以外にも、毎日できる限り同じ人が乗車してみて試運転をして、五感を研ぎ澄ませて普段と違うところがないか体感してみないといけません。

車には所有者がいて、飛行機には同じ機種に乗り続けるパイロットがいて、電車にも運転士がいて、レーシングカーには専属のドライバーがいます。大きな負荷がかかり続ける乗り物の中で、遊園地のアトラクションというのは、違和感を検出しにくい特殊な境遇にあるということは、理解しておかなければなりません。そのうえで、我々乗客も違和感を感じることがあれば、オペレータに伝えてみて、それが会社側に伝わらなさそうならお問合せフォームからメールを出すなり、何らかの方法で会社に異常を伝えるべきです。他の乗客の命がかかっている危険性もありますから。

2. リサとガスパールのそらたびにっき コースレイアウトと乗車レポ

そらたびにっきの巻き上げ部と、最終ブロックブレーキ。事故があったのは、おそらくこの最終ブレーキ部です。

異様に長くなってしまいましたが、ようやく乗車レポです。

事故後、バードメンは数年間閉鎖された後、通常のサスペンデッド・コースターとなって「とっとこハム太郎 ふわふわお空の大冒険」となって復活しました。その後、ハム太郎の契約終了なのか、テーマエリア廃止に伴ってリサとガスパールへとテーマ変更がなされました。現在では、リサとガスパールタウンからものすごく離れた位置にそらたびにっきがあることになって、かなり異様な状況です。

ライドの上方がほぼ見えなくなってしまったので、どういう改良をしたのかよくわからないのですが、レールはそのまま活用しているようですので、ボギー軸があることは間違いないでしょう。おそらく縦の支柱を吊るのではなく、横方向の四角い鋼材を吊ることで、ボギー軸を太く短くしたのではないかと思います。さらに、2つの四角い鋼材は左右それぞれ2本ずつのパイプ状鋼材で前後に結ばれていて、そのパイプでライドを吊るしています。安全性は流石に問題ないはずです。

ライドはプラットフォームの横幅の制約があったためか、縦二人乗りという、現代には珍しいボブスレータイプ。サスペンデッドでボブスレー乗りというと、Cariproのバットフライヤー(かつて那須ハイランドパークと浜名湖パルパルにありましたが、メーカーが倒産してメンテできなくなったためか、相次いで廃止されました)のようです。だから最初からCariproに…(以下略)

プラットフォームの関係で、1回に1両しか乗車準備できないため、極めてハケが悪いです。

発車すると、ノーバンクで右に90度ターン。この動きもそこそこ負荷がありそうです。そのままえっちらほっちら高さ23 mまで巻き上げ。

少し下って勢いをつけたら、右に大きくカーブ。カーブの前にライドを傾け始める、無理のある動きに注目してみてください。しかも、カーブでの傾きと遠心力の向きが合いません。これは、バードメンよりもライド位置が低くなったため、正しいカントの付け方が変わってしまったにもかかわらず、もともとのレールをそのまま使っているためだと思われます。カントが合わない部分を吸収するためなのか、ライドはサスペンデッドコースターのご多分に漏れず、自由にスイングできるようになっています。

続いて左に傾いた状態から、右に傾いた状態へと大きくライドが振られます。ここは負荷はそれほどでもない…と思います。そのまま右に大きくカーブ。姿勢をブンッと正立の状態に戻したら(ここでおそらく負荷がかかります)、少しドロップからのキャメルバックを超えて、もう一度上昇。スピード感とちょっとした落下感があって楽しいポイントです。ここでブロックブレーキ。

1ライドに2名しか乗車できないので、乗客を捌くためにはとにかく頻繁にライドを発車させなければなりません。このため、このコースターはやたらとブロックブレーキが多いです。そのまま走行し続けるにはコースが短すぎて、速度が出すぎる、というのもあるかもしれませんが。

ブレーキ後はレッドタワーの周りをゆっくりと270度ほど左カーブ。そのまま姿勢をやや右に傾けて、下りながら長ーい右カーブ。途中で下りから上りへと移り変わります。ここでおそらく最高速度の50 km/hが出ているのでしょう。ここでまたブロックブレーキで停止寸前まで減速。

少し勢いをつけて、大きく左カーブ。ここの傾きからの戻しも荒々しいです。

ちょっとホップして最終ブレーキ。このコースターのブレーキ全般に言えることですが、特にここのブレーキは強烈ですので、備えをしておいてください。その後は結構な速度が出たまま、右にほぼノーカントの150度ヘアピンカーブを抜けて終了。

コースレイアウトは荒削りですし、高さや速度の使い方ももったいない。ただ、その分、高速でありながらお子様でも楽しめるコースターになっていると思います。

一方で、傾いた状態からの戻しや、カーブ間のつなぎ、出発前後のほぼノーカントのカーブなど、そりゃ負荷も大きいわ、という荒々しさも感じられます。加えて、ライドを変更しなければ味わうことのできない、明らかにレールのカントとライドの傾きとが合わない不思議な乗り味も、経緯を知らなければ楽しめないもの。

ぜひ、事故も含めた歴史に思いを馳せながら楽しんでみてください。ちなみに、普通のローラーコースターとして面白いかと言われたら、答えは「否」です。意外と高速で疾走する爽快感もありますが、それを楽しみたければブロックブレーキの少ない、他のコースターに乗ります。