超大型ミニコースター!? 富士急ハイランド「高飛車」が1両編成になっている理由

2020年5月18日

高飛車の121°落下

こんにちは、大型ミニコースターという一言で矛盾するローラーコースターが大好きなricebag(@ricebag2)です。

日本には「大型ミニコースター」に該当するコースターは多くないのですが、その筆頭にして代表例が富士急ハイランドの「高飛車」。

なぜギネス記録を有する高飛車に対して(私が勝手に)ミニコースター呼ばわりしているのか、そしてなぜ高飛車はあれだけ大きなコースターなのに1両編成で運行されているのか。

そのあたりの謎を、乗車レビューを交えつつ解き明かしていきます。

 

高飛車の評価

 

爽快感:      ★★★★★

振動の少なさ:   ★★★★☆

スリル:      ★★★★☆

コースレイアウト: ★★★★☆

楽しさ:      ★★★★★

総合得点:     90点

 

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1. ミニコースターの特徴とは

高飛車の特徴を解き明かしていくために、まずはミニコースターというのはどんなものなのかを考えてみましょう。

ここでいうミニコースターとは、1両編成のライドを用いているコースターです。

例えば「ワイルドマウス」と呼ばれるタイプのコースターが有名ですよね。

ナガシマスパーランド「ダブルワイルドマウス」入り口
ナガシマスパーランドのミニコースター「ダブルワイルドマウス」。移動遊園地の雰囲気をまとった、典型的なミニコースターです。

富士急ハイランドにも、マッドマウスというコースターがありました。

富士急ハイランド「マッド・マウス」
マッド・マウス。いわゆる普通のミニコースターですが、ちょっと規模が大きめ。

これらは一見よく似たレイアウトをしているように見えます。

巻き上げがあって、カント(カーブでレールを傾けること)のない体を外に放り出されるような180度ターンが連続して、終盤に小さなドロップがある。子供向けのようでいて、乗ってみると大人も楽しいコースターです。

ですが、実はメーカーや個体ごとにコースレイアウトが大きく違っています。富士急版も、世界で唯一富士急にしか存在しなかったコースレイアウト。

こんなことになった歴史を振り返ってみると実は面白くて、最初のワイルドマウス型は1950年前後に作られていると思われるのですが、その後1958年から1959年にかけて、世界中に50機以上のワイルドマウス型が設置されています。猛烈な大ヒットを記録したコースレイアウトなんです。さらにその後も地道に改良が繰り返されて…と語り始めると長くなってしまうので、このあたりは別途マッドマウスの記事で書いていくことにしましょう。

 

このようなカントがなくて、R(回転半径)の小さい180度カーブは、大型コースターでは作れません。

これはホイールベース(前輪と後輪の間の距離)と連結部の問題です。

ホイールベースについては車と同様で、前輪と後輪の間隔が長いと、急なカーブを曲がることができません。極端な状況を考えてみましょう。前後輪の間隔よりもカーブのほうが短いと、前輪はカーブを曲がり終わっているのに後輪はまだ曲がり始めていない、なんて状況になります。そうなると、車軸ごと回転できるようにしておかない限り、脱線してしまいます。

連結部については、車両の間隔が狭いと急なカーブを通過する際に、前の車両と後ろの車両が接触してしまうために急なカーブを曲がれないのです。

この問題は、カーブだけではなく急なひねり(きりもみ回転のような動き)や、落下・上昇時の急な角度変化についても同様です。

というわけで、ミニコースター特有の動きを再現できるための要件の1つは、ショートホイールベースであることなのです。

 

もう1つ、1両編成であることも、ミニコースター特有の動きをもたらします。

例えばドロップでの動きを考えてみましょう。複数車両の大型コースターがドロップに差し掛かると、先頭車両がドロップに入った段階で少しずつ加速し始め、最後尾がドロップに入ってようやくフル加速になります。

全長が10 mあるような大型コースターの場合、ドロップが10 m以上ないとフル加速せずにドロップを通過してしまうことになります。この「来るぞ来るぞ」という感覚を盛り上げながら加速していくのも楽しいものではありますが、ファーストドロップは大きく作る必要があって、どうしてもコースターが大型化してしまいます。また、最後尾はある程度加速してからドロップし始めるため、ドロップの最初の部分で角度を徐々に増していく領域を短くしてしまうと、空中に放り出されるような強いマイナスGが発生してしまいます。これは例えば那須ハイランドパークのビッグバーンコースター等で味わえます。

1両編成のコースターの場合はこの逆で、ライドがドロップに差し掛かると、そのままフル加速に入ります。しかも前述の通り、ホイールベースが短ければ急に角度を変化させることができますので、ドロップ侵入後すぐに垂直落下、といった作りにもできちゃいます。

そんなわけで、大型コースターはドロップに差し掛かるとグングンと速度を増していく様子が見られるのに対して、ミニコースターではポテッと落ちるような動きをします。小さなドロップで大きな加速度の変化を感じられるのは、ミニコースターならではです。

そしてもう1つ、この特徴は、「速度変化が早い」というメリットももたらします。ドロップはポテッと落ちるし、坂はヨイショっと一気に登る。加速も減速も、大型コースターではありえないほど早いので、速度にメリハリが付けやすいのです。

 

 

2. なぜ高飛車はミニコースターなのか

なぜ高飛車はミニコースターなのか、その理由は、同じような大型のミニコースターが製作されてきた歴史を紐解きながら見ていきましょう。

そもそも黎明期のローラーコースターは、連結という概念がなくて単車両のものが当然でした。あのディズニーランドでさえ、1959年の開園当初からある「マッターホルン・ボブスレー」というコースターは1両編成でした(現在は2両編成に変更されています)。厳密には、1920年代から複数両連結のコースターが多く作られるようになっていましたので、マッターホルン・ボブスレーが1両編成を選んだのはボブスレーというテーマからではあるのですが、それでも単車両コースターが当然のようにあった時代背景を感じさせます。ちなみにこのマッターホルン・ボブスレーは、今では当たり前となっている円柱型のレールを使った、世界初のコースターだと言われています。

1970年代に入ると、ループコースターの神様シュワルツコフ氏の活動が精力的になります。ボブスレータイプやワイルドマウス型(といっても横に揺さぶられるカーブはほぼないので、ワイルドマウスの定義からは外れますが…)など、単車両のコースターも多数制作。このときに、急な角度を付けた大きなドロップが作られたり、ポテッと落ちるミニコースター特有の動きが意識されるようになっていきました。

ミニコースターのポテッと落ちる動きを最大限に利用したのが、1982年以降量産されたインタミン社のフリーフォールでした。これはローラーコースターにはカウントされないライドですが、強烈なスリルからものすごいインパクトを残しました。日本では、現在はナガシマスパーランドでのみ体験することができます。

 

ミニコースターらしい動きを明文化する過程には、日本が大きな役割を買っています。

日本はどうしても平地が狭いので、遊園地も敷地が限られてしまいます。そこでフリーフォールのシステムを一部真似して(?)1985年から作られたのが、トーゴの「ウルトラツイスター」でした。垂直に巻き上げて、85度のドロップ。その後は錐揉み回転をして一旦停止、後ろに向かって再度走り出して錐揉み回転、という構成のコースターです。

ナガシマスパーランド「ウルトラツイスター」遠景
ナガシマスパーランド版のウルトラツイスターです

ほぼ垂直のドロップも単車両ならコンパクトに作れて、かつ強い落下感を生み出せることが示されました。こちらも強烈なインパクトがあったためか、アメリカにも輸出されています。日本では現在、ルスツリゾート、ナガシマスパーランド、鷲羽山ハイランド、グリーンランド等で楽しむことができます。

ただ、ウルトラツイスターの車両はホイールベースが長いため、タイヤ部分が自在に回転できるような仕組みを導入することでコンパクトな動きを実現していました。ミニコースターのメリットをフルには享受できていません。

 

ミニコースター界(?)に革命が起きたのは、1998年。イギリスはアルトンタワー(遊園地の名前です)に建設されたOblivionというコースターです。

横8人乗り×2列の1両編成という異形のライドで、コース編成もドロップしたあとはターンして終わりという潔さ。最大のウリはもちろん、ファーストドロップでした。

ここは建築物の高さ制限がある関係で、高さは20 m程しかないのですが、トンネルを掘って落差は55 m。落下角は87.5度。落下前に一時停止することで、しっかりと恐怖を煽ってくれます。

Oblivion
画像は英語版wikipediaより

このドロップ前に一時停止して、垂直に近い坂をポテッと落っこちていく様子は衝撃的で、日本のテレビでも絶叫マシン特集で取り上げられることがありました。作られたのはFUJIYAMAの2年後ですからね。時代を考えると衝撃です。

このマシンを制作したのは、B&M社。大型で滑らかな動きのコースターを得意としていますが、変則型の乗車姿勢も得意な会社。立ち乗りや床なし、足ブラブラのぶら下がり式、うつ伏せ、レールの横に座席がある「ウィング型」など、色んなタイプがあります。日本でも志摩スペイン村パルケエスパーニャのピレネーや、USJのハリウッド・ドリーム・ザ・ライドザ・フライング・ダイナソー、ナガシマスパーランドのアクロバットなどはこのメーカーです。

様々なタイプのコースターを制作する中で、ローラーコースターの大きな魅力の1つである「ドロップ」に意識を集中させる方式として、このようなコースターを開発したものと思われます。B&M社はこのタイプに「ダイブコースター」という名前をつけています。

 

ダイブコースターの特徴は、顔から地面に向かってポテッと落っこちるファーストドロップにあります。それを実現したのが、1両編成の車両。

ですが、B&M社が得意とする落差50 m以上の大型コースターであって、しかも落下前に角度をつけてから一時停止させるのであれば、複数両編成であっても同じような動きができます。むしろ、無理に2列の1両編成とすると、ホイールベースが長くなってひねりやカーブなどの動きに制約が出てしまいます。更に1車両あたり16人乗りというのは、大型コースターとしては輸送力がやや少なめ。

そこで2005年頃から、横8人乗り(または6人乗り)1列×3両のタイプを制作するようになりました。これによってループやインメルマンなどの複雑なエレメントを多数導入するようになっています。

 

B&M社は、横4人乗りのライドを主力とする、輸送力を重視するメーカーです。これはつまり、大型コースターで多数の集客ができる大型パーク向けの商売をしているメーカーということ。ダイブコースターはドロップ直前に停止するという複雑な機構もあって、価格が高めです。

そこに割って入ろうとしたのかは定かではありませんが、ドイツのGerstlauer社が対抗するようなコースターを作り始めます。Gerstlauer社は、1998年からミニコースターで参入した、ローラーコースター界では新規参入組。ちなみに、国内ではラグナシアのアクアウィンド、東京ジョイポリスの撃音ライブコースター、よみうりランドのスピンランウェイ、東京ドームシティのバックダーンがGerstlauer社製です。この会社はミニコースターを発展させるような形で、2003年に垂直巻き上げ、ほぼ垂直落下を特徴とするユーロファイターシリーズの制作を開始します。

「ほぼ」垂直落下というところがキモで、落下角は90度を上回る97度。ただし、落下前のタメは一切ありません。垂直に巻き上げられたら、そのままポテッと97度の落下。この動きを複数両連結のライドでやってしまうと、後ろの方に乗った方は高速で放り出されるような動きをすることになりますので、強すぎるマイナスGを受けて怪我の恐れが発生してしまいます。1車両でないとできない動き。

高さは22 m, 最高速度は72 km/hとミニコースターらしいスペック。さらに115度バンクターンがあったり、垂直ループがあったり、ミニコースターらしい自由でメリハリのある動きをします。ユーロファイターというのは、私の知る限りでは戦闘機が語源だと思われますので、戦闘機の動きをイメージしているのかもしれません。

通常のローラーコースターは、2本のレールの真ん中に、円柱形やボックス型の支柱がレールと平行に走っていて、レールと支柱との間にトラスがあります。このため、立体的な3本レールのように見えるのですが、ユーロファイターシリーズは基本的に2本のレールとレールを結ぶ支柱からなる、ペラペラの平面的なレール。このペラペラのレールが好き勝手に傾きまくり、グルグル回っている様子が乗車欲を煽ります。

 

このシリーズはコンパクトで比較的安価(小さいものだと3億円くらい)ということもあって、かなりのヒット作となります。

その後、2007年に導入されたDollywoodのMystery Mineではスタート直後の屋内エリアでいきなりドロップしたり、ダークライド的な演出が追加。母国ドイツのBelantisに2010年に設置されたHuracanではコブラロールという大型変形ループエレメントが追加されるなど、進化を遂げていきます。

Mystery Mine
DollywoodのMystery Mine終盤のダイブロール

そして2011年、満を持してユーロファイターシリーズ最大規模のコースターが富士急ハイランドに導入されました。落下角121度で当時世界一。ドロップ前はゆっくり進むシステムを導入。更にリニアモーターによる急加速、多数の変形ループエレメントが導入されました。

高飛車はコースレイアウトだけを見ると、必ずしも1両編成である必要はありません。落下角121度がネックになる可能性はありますが、直前にブレーキで大きく減速しますので、数両程度であれば問題ないはず。むしろ、1両編成になっているのはユーロファイターシリーズをベースにして制作したためで、ベースとなった通常のユーロファイターシリーズは基本的に落下前のブレーキがなかったことと、おそらくポテッと落ちる落下感を重視してタワー頂上が尖っている(角度変化が急である)ために複数両編成のコースターにできなかったのです。通常のユーロファイターシリーズがブレーキを設置しなかったのは、おそらく費用の問題が大きいのでしょう。巻き上げを上部でゆっくりにすれば、ブレーキと同じような効果が得られてしまうのです。高飛車がユーロファイターシリーズを採用したのは、落下角で世界一を取るため。落下角90度を超えるコースターの経験があるGerstlauer社に依頼したものと思われます。

2019年には、高飛車とほぼ同型のコースターが屋内遊園地のNickelodeon Universeに導入されています。落下角で高飛車を0.5度上回り、世界一を奪取するというセコいこともやってます。

ユーロファイターシリーズのあと、Gerstlauerは2013年頃から横4人×1列×複数両の車両を特徴とするインフィニティ・コースターシリーズを制作し始めます。その1号機は、B&MのOblivionも導入していたアルトンタワーにあります。これは当時上下反転する回数が世界一でした。ミニコースターらしいポテッと落ちる動きは無くなってしまいますが、ホイールベースは短いためにヒネリを加えやすいという特徴は残りますので、とにかく上下反転させやすい車両なんです。ここには高飛車で多数の変形ループを導入した経験が生きていると思われます。

 

ちなみにほぼ垂直ドロップミニコースターの世界には、2007年にドイツZierer社が参入。2008年からはアメリカS&S社が参戦し、2011年には120度超え。アメリカ ユタ州のLagoonという遊園地は、自前設計で落下角116度のコースターを2015年に制作しています。

 

 

3. 高飛車のコースレイアウトと乗車レポート

さて、ここまで長々と語ってきましたが、高飛車が1両編成になっている理由はおわかり頂けたかと思います。

ここまでお読みいただいた方には無用かもしれませんが、一応コースレイアウトと乗車レポートを記しておきます。

 

富士急ハイランド「高飛車」裏側
高飛車の車両裏側。車輪の内側左右にリニアモーターを挟み込むようなマグネットプレートがあります。中央にあるのは、低速で使うブレーキと、レールにある車輪で車両を動かす際に使うもの。車両左後方にある銀色のパーツは、垂直巻き上げ時の逆進防止に使うラチェット機構です。左右の車輪の間に車軸はありませんので、いわゆるアッカーマン方式。カーブでは2つのレール幅を直線より縮める必要がありますが、ホイールベースが短い車両に適していて、急カーブも曲がりやすい機構です。

 

高飛車のプラットフォームは2.5階くらいの高さにあります。ここでライドに乗り込んだら、ライドはゆっくりと暗闇に進んでいきます。

左に90度曲がったところで、前のコースターが十分進むまで待機。更に90度曲がると、暗闇の中でいきなりドロップ。右に180度ターンしたかと思うと、カントがどんどんキツくなってクルッと1回転。いきなり暗闇の中できりもみ回転(ハートラインロール)しちゃうんです。

はじめて乗車した際の、この驚きはスゴいですし、180度ターンからの滑らかなハートラインロールは本当に気持ち良い! このコースターでは唯一のミニコースターらしいコンパクトな動きです。

高飛車のコースレイアウト
キューラインに掲示されている、高飛車のコースレイアウト。高さと横を同じ平面に描いている上に、かなりテキトーなので、これを見ても何が何やらです。

ハートラインロールを超えると、ホップして速度を落としつつ左に90度曲がります。

ここに1つ目のブロックブレーキ。高飛車は乗車人数の少ないコースターですから、できるだけ早く次のライドを発車させなければなりません。そのために一定の間隔でブレーキを配置しているのです。2つのブロックブレーキで区切られたエリアに存在する車両を1台に留めておけば、万が一なにかトラブルがあって停車してしまっても、次のコースターは手前のブロックブレーキで停車させれば、追突を防げるのです。つまり、ここを通過したら次のライドを発車させてもOKということ。実際にはブロックブレーキの時間間隔は一定にはなっていなくて、この最初のエリアは短いので、次のライドはもう少し間隔をあけて発車しているはずですけどね。

その後、小さくドロップして勢いをつけたら、そのままLSM(リニアモーターの一種)で急加速していきます。勢いをつけての急加速は驚きがあって楽しいですし、加速度もそれほどキツくない、気持ち良い加速です。

 

トンネルを抜けて屋外に出たら、いきなりコークスクリュー。ヒネリながら1回転する変形ループエレメントです。コークスクリューとは言いつつも、かなり高さがあるのでしっかりと速度変化しますし、最初はまっすぐ坂を登っていくので、「横の動きが大きい垂直ループ」くらいのイメージです。少しフワリとした感覚もあって、楽しいエレメント。ただ、コークスクリュー的な動きと垂直ループ的な動きの接続が荒くて、少しぶん回されます。

続いてブーメランターンしようと思ったら、登り下りともに90度以上角度をつけちゃった上に、少しひねったので上下反転しちゃった、というようなバナナロールという特徴的なエレメントを通過します。これはレールの行方を追うだけでは動きがわからない、一風変わった動きです。ややぶん回されるような激しさも感じられます。

続いて低めの、ごく普通のコークスクリューを通過します。これはスピード感があって、勢いよく突っ走りながらひっくり返る感じで爽快。その後、左にターンしながらホップして、右にターンしながら坂を下ります。キャメルバックの前後で大きくひねるような動きで、ホイールベースが短くないと実現できないであろうエレメントです。浮きはそれほど強くないのですが、気持ちよく荒々しさを感じさせてくれる、よくできた動きです。

その後、少しホップしてブレーキ。これが2つ目のブロックブレーキです。

 

なぜか屋内で180度ゆっくり曲がったあと、垂直巻き上げに入ります。

30秒ほどで高さ43 mへ。巻き上げ自体は早いのですが、頂上付近でゆっくりになるニクい演出。

そのままジリジリと45度位の角度でゆっくり121度のドロップへと迫っていきます。ここは前列に座ることができると、圧倒的な迫力を楽しむことができます。まさにレールが途切れているかのようなところへ、ものすごく前のめりの状態で、いつブレーキが切れて走り出すかもわからない状態で迫っていくのです。素晴らしい。ローラーコースターらしい高さの恐怖を存分に味わえます。

富士急ハイランド「高飛車」頂上部
頂上部。レールの内側にある2本のフィンが、ブレーキとして使用しているリニアモーターです。車両裏側にはこれに沿うように2本のマグネットプレートがあります。

そこからのドロップは、まぁこんなもんか、といった感じ。思ったほど121度の凄みは感じません。ループの後半部分と同じようなものですから、当然といえば当然なんですけどね。強すぎるマイナスGを防ぐためだと思うのですが、ドロップへは90度くらいまでゆっくり進むので、ハーネスに押し付けられるような感じもあまりありません。思ったより優しいドロップです。やはり、ドロップ事態を楽しむというよりは、ドロップ前のズリズリ降りていくところを楽しむコースターです。

高飛車の121°落下
高飛車の121°落下部分。変な写真ですみません。

落下したあとはなだらかな坂を登りながら、右に180度ひねって反転。そのままループの後半部分を通過する、ダイブループというエレメント。上の方で登場したMystery Mineの写真にあるエレメントの大型版です。これは頂上でしっかり速度が落ちていると、ひっくり返り感とドロップ感を存分に味わえて楽しいのですが、高飛車の場合は結構速度を保ったまま通過してしまいます。ちょっともったいないのですが、その分あれよあれよと言う間に複雑なループエレメントを通過してしまう、わけの分からなさを楽しむことができます。常に速度を落とさない動きは、ミニコースターらしくはありませんが勢いがあって爽快です。

続いてバンクターンの頂上でヒネリをきかせすぎて上下反転するような、トップハットというエレメントを通過。ちょっと押し付けられるような、やや激しめの動きです。

さらに今度は、ダイブループを逆に進むような、ループの前半を超えたあとにひねって上下反転するインメルマンというエレメント。もうここまで来ると、まだひっくり返るんかい! と言いたくなるほど振り回されてます。

富士急ハイランド「高飛車」ひねり部
ひねっている部分。実は、厳密には車両は1両編成ではなくて、前列と後列の間はひねることができる軸でつながっています。ひねりに対応するためには、車輪が上下に動けるような機構を作るか、このように2列の間にひねり軸を設ける必要があります。車軸が上下に動けるような機構を作ると、その高さ変動分だけ車高を高くする必要があります。車高が高くなると、乗車時の速度感が損なわれることに加えて、車軸に無駄なモーメントがかかって故障や事故の可能性が高まってしまいます。しかも、左右の車輪間に車軸を設ける必要が出てきてしまいますので、車両を前後に貫くようなリニアモーター用マグネットプレートを設けられなくなります。リニア加速やドロップ時の減速を実現するためには、前列と後列の間にひねり軸を設けざるを得ないのです。

そのまま下っていったあと、ほんの少しホップして最後のブロックブレーキ。あとはゆっくりとプラットフォームへ戻っていきます。

そんなわけで、プラットフォーム外にいるライドは4機、プラットフォームには乗車と降車で1機ずつ、計6機のライドが同時に動くコースターとなっています。

フル回転すれば3分弱で6機が回ります。1機あたり8人で、6機だと48人。1時間に20回転すると、1時間あたり960人という客ハケ。大型遊園地に設置するにはちょっとイマイチですが、この狭い敷地にこれだけのエレメントを詰め込んで、これだけの客ハケを実現できれば御の字なのかもしれません。

 

個人的には、トップハットの代わりに高さのあるバンクターンにして、頂上で速度を落としながら90度横に傾いたり、インメルマンの手前にキャメルバックがあったり、ダイブループ手前でしっかり速度を落としていたりすると、ミニコースターらしい味わいもあってより楽しめただろうな、と思います。

ただ、そうしてしまうと後半部に時間がかかり過ぎてしまう。ただでさえ、121度落下の際にブレーキに時間を食っています。客ハケを考えると、このエリアに時間をかけすぎるわけにもいかないので、敷地の半分くらいのエリアに収めて、かつ高速で駆け抜ける必要があったのでしょう。

考えれば考えるほど、よくできたレイアウトですし、この敷地によくこれだけ詰め込んだものだと感心するほどです。実際、ほぼ同じレイアウトのコースターを後日屋内に作れちゃったくらいですしね。ミニコースターらしい速度変化さえ求めなければ、高速でウネウネ元気に回転する爽快感あり、驚きのある急加速や動きあり、高さの恐怖をとことん味わえるドロップ前の煽りあり、ととっても楽しいコースターです。

見た目ほど怖くはなくて、やや揺れはありますが爽快感の強いコースターですので、あまり恐れずに是非。ただ、目が回りやすい方、揺れで酔ったり頭が痛くなったりしやすい方は要注意。