ディズニーはなぜ、面白いアトラクションを作れなくなったのか

2019年2月20日



こんにちは、ricebag(@ricebag2)です。

最近ディズニーが新規投入するアトラクションって、どうも面白くない。特にユニバーサル・スタジオと比べてしまうと魅力にかける。そう感じませんか?

シーのソアリン新設、ランドの美女と野獣エリア、さらにはシーのアナ雪エリアが控えていますが、いまいちピンとこない。それはあなたが子供ではなくなった、ということではありません。

実は、歴史を紐解いてみると、ディズニー・パークのアトラクションが魅力にかけるのは今に始まったことではないのです。

今も昔も方向性に大きな差はないのに、なぜかつてはあんなにディズニーのアトラクションが楽しかったのか。なぜ今では惹かれなくなってしまったのか。この記事では、その謎に迫っていきます。

個人的には、ディズニーにもかつての開発力を取り戻して、また楽しいアトラクションを作って欲しい! ディズニーのアトラクションで感動したいし、ユニバーサルとともに業界を盛り上げてほしい! という願望が詰まった記事です。

この記事では、ディズニーのアトラクションはユニバーサルのアトラクションよりも面白くない、ということを前提に議論しています。いやいやそんなことはない、と思われる方は、この記事を読んでもご理解いただけ無いかもしれません。そんな場合は、以下の記事もあわせてご覧ください。

 

 

1. ディズニーのアトラクションは50年以上進化していない

アニマトロニクスの初期作品、「魅惑のチキルーム」(ウォルト・ディズニー・ワールド版)

カリフォルニア・アナハイムのディズニーランドがオープンしたのは、1955年のこと。

その当時はまだ映像系や汽車、ジャングルクルーズ、ショーなどが主体で、「ディズニーらしいアトラクション」というのはあまりありませんでした。当時は乗り物に乗ることを楽しむアトラクションと、映像というものの可能性に挑戦するアトラクション中心だったのです。

良くも悪くも「ディズニーらしさ」が形作られたのは、1963年導入の「魅惑のチキルーム(The enchanted tiki room)」から。ここで導入された「オーディオアニマトロニクス」というシステムが全てのカギになっています。ちなみに、オリジナル版のチキルームはウォルト・ディズニー・ワールドのマジックキングダムにのみ現存します。

 

オーディオアニマトロニクスはウォルト・ディズニー版のからくり人形的なもので、コンピュータ制御で人形がまるで生きているかのようにリアルな動作を行うシステムです。

オーディオ・アニマトロニクスの原型となった「ダンシングマン」。ウォルト・ディズニー・ワールドのハリウッドスタジオに展示されています。

架空の存在をまるで生きているかのように動かす、アニメーションなるものの第一人者であるウォルトは、オーディオアニマトロニクスにもアニメーションとしての1つの可能性を感じていたのです。

その後、「イッツアスモールワールド」の成功、さらには「カリブの海賊」「ホーンテッド・マンション」などが続き、「ディズニーのテーマパークと言えばオーディオアニマトロニクス」という図式が出来上がります。

オーディオ・アニマトロニクスを動かすオルゴールのような円盤。これを使って人形の動きをプログラムしていたんですね。

 

当時はリンカーン大統領のリアルな人形を、まるで生きているかのように細かくかつ複雑に動かすなど、まさに最先端を行く技術でした。

現在でも、遊園地界隈でこれだけリアルに人形を動かすことができる施設はディズニーをおいて他にないでしょう。

 

しかしながら、ディズニー・パークの呪縛はここからスタートしていきます。

どうしても、オーディオアニマトロニクスを使って架空の世界を現実に落とし込む、というこだわりから抜け出せなくなってしまったのです。

例えば、フロリダのウォルト・ディズニー・ワールドで新ファンタジーランド目玉アトラクションとして作られた「七人のこびとのマイントレイン」では、特徴となるのはごく短時間で通過するアニマトロニクスエリアだけで、ほかはほとんどシンプルなコースター。

七人のこびとのマイントレインの、アニマトロニクスシーン。こんな感じで手ブレするほどのスピードで通過しちゃいます。

あるいは2009年、東京ディズニーランドに導入された「モンスターズ・インク"ライド&ゴーシーク"」もアニマトロニクス主体のシンプルなライドです。

 

確かにアニマトロニクスはリアルになっていますし、ライドの動きやシステムももちろん進化しているのですが、本質的な部分は50年以上進歩していないのです。

むしろ、ホーンテッド・マンションのような凝った仕掛けや驚きのあるギミックが無くなり、リアルなアニマトロニクスを倉庫の中にポンと置いたようなアトラクションが増えているのは、ある意味退化と言えるかもしれません。

オーディオ・アニマトロニクスと呼べるものは設置されていなくとも、1955年の「白雪姫と七人のこびと」のほうが、特殊効果や迫りくるような人形配置などで、むしろダイナミックな乗車体験ができます。

現代のディズニーでは、アニマトロニクスを設置することが目的になってしまって、「乗車体験としての楽しさ」がないがしろにされているようにすら感じます。

 

その一方で、「ジョーズ」などのアニマトロニクスではない人形からなるアトラクションや、「バックドラフト」のような特殊効果体験アトラクションなどを複合したような、トラムタイプのアトラクションからスタートしたユニバーサル・スタジオは、時代とともに進化を続けていきます。

バック・トゥ・ザ・フューチャーのようなダイナミックな映像タイプのアトラクション、ジュラッシックパーク・ザ・ライドのようなリアルな造形の人形を使ったアトラクション、スパイダーマン・ザ・ライドではシミュレーションライド+ライド+3D映像+特殊効果、ハリポタではさらにロボットアーム動作+アニマトロニクスまで追加されています。

とにかく「体験したときの楽しさ」にこだわり、映画っぽさといったことは柔軟に捨て去る強みがあります。

 

 

2. ストーリーがない

これまたストーリーが存在しない、「ソアリン」。

ストーリーがないということもまた、ディズニーのこだわりです

例えば上にも出てきた、アナハイムのディズニーランドがオープンした当初から存在する「白雪姫と七人の小人」も難解なストーリーで有名なアトラクション。

実はこれ、白雪姫目線でストーリー上の出来事を体験していく、という内容なんです。これだけ書くとコンセプトとしてまともなように思えますが、実はそうでもありません。

 

物語にはある程度俯瞰的な視点が与えられるからこそ、楽しいもの。

白雪姫は怖く恐ろしいストーリーながらも、七人のこびとの仕事シーンや王子の存在など、俯瞰視点だから見えてくる救いがあります。

それを白雪姫視点で見ると、ただひたすらに怖いお話になってしまうのです。

しかも視点に関する説明もなく、テンポよく場面が進んでいってしまうため、何が起きているのかわからないまま怖い場面をパラパラと見せられるようなアトラクションになってしまっているのです。

 

もちろん、「白雪姫と七人のこびと」はライドの動きが工夫されていて、恐ろしい場面が迫りくるように体感できたり、アナログなシステムにしては驚くほど良くできた特殊効果だったり、「体感する」という意味では非常に良くできたアトラクションです。

しかしながら、ストーリーが良くわからないのです。

 

もともとディズニーの世界では「イマジネーション」という言葉が使われるように、体験者が想像力を駆使してそれぞれのストーリーを構築していく、その余地を残す、という理念があります。

各エリアやそれぞれの造形物には「バックグラウンドストーリー」と呼ばれる物語があるのですが、それはあくまでそれぞれのゲストが想像するものなので、公式には明確なストーリーは提示されません。

アトラクションも同様で、ストーリーには解釈の余地があるのです。

 

その理念を否定するわけではありませんが、アトラクションを体験したあとの感覚で言えば、どうしても「もやっ」としたものが残ってしまいます。

「スゴい! 感動した! 」となる前に、「あれってどういうことなんだろう??」と考えてしまうわけです。

 

あくまで乗り物としての出来や、アトラクションとしての楽しさを追求するのなら、余計な解釈の余地を残さないスッキリしたストーリーのほうが良いのです。

そういう意味では、エンターテイメント性を追求しているユニバーサル・スタジオのアトラクションのほうが、ストーリーがスッキリしていて楽しいですよね。

ディズニーでも、日本オリジナルアトラクションの「海底2万マイル」(ストーリーリニューアル後)や今はなき「ストームライダー」、同じく廃止されてしまいましたが松下幸之助の指示も反映されていた「ミート・ザ・ワールド」などはストーリーが比較的ハッキリしています。

これらにどこまで日本の独自性が反映されているのかはわかりませんが、少なくともリニューアル後の海底2万マイルとミート・ザ・ワールドはオリエンタルランド側、あるいはスポンサーの意向が反映されたもの。どちらかというと米国ディズニーイマジニアリング(アトラクション開発会社)の思想によって、大半のアトラクションではストーリー性が失われてしまっているのです。

 

 

3. 人材が流出した

ここまで長々と、ディズニーの思想と、それに悪い意味で固執してしまったディズニーイマジニアリングによってもたらされた問題点を指摘しましたが、これらは思想の転換によって対策できるものです。

最大の問題は、今のディズニーイマジニアリングには、かつてのアイデアあふれる開発者たちがいないということです。

 

実は、ウォルト・ディズニー・ワールドに第4のテーマパーク「アニマル・キングダム」を建設した際に資金難等が発生し、技術者の大量離職が発生しているのです。これが1998年前後のこと。

ここでアトラクションの進化が止まってしまいます。

アトラクションの進化が止まってしまったことは、その前後のアトラクションを見れば明らか

1998年以前の傑作といえば、1995年のインディ・ジョーンズ・アドベンチャーでしょう。2001年ディズニーシーオープン時にも導入された、あのアトラクションです。揺れるライド+アニマトロニクス+様々な仕掛けでインディの冒険さながらの体験ができる大傑作。

1994年のハリウッドスタジオ版トワイライト・ゾーン・タワー・オブ・テラーもフリーフォールライドの概念を変えた名機。

ハリウッドスタジオ版「タワー・オブ・テラー」

若干ズレてはいましたが、マジックキングダムのエイリアンエンカウンターなど、特殊効果を多用した攻めのアトラクションも開発していました。

 

一方で開発時期が1998年をまたぐと、途端にアイデアが枯渇し始めます

例えばトイ・ストーリー・マニアはミレニアム以降の大ヒットアトラクション代表作ですが、CG映像+ひもを引っ張る大砲+重力演算射撃というアトラクションシステム自体は1998年オープン、ディズニー・クエストにあったカリブの海賊:バッカニアゴールドの戦いのシステムそのまま。

Disney QuestのPirates of Caribbeanライド。周囲を3Dスクリーンに囲まれた海賊船に乗り込み、大砲で次々に船を撃破していくゲーム。

同じくヒット作となった、ディズニ・カリフォルニア・アドベンチャーのラジエーター・スプリングス・レーサー(カーズのアトラクション)は1998年エプコットにオープンしたテストトラックのライドシステムを転用したもの。

その後も、そもそもアイマックスの球面シアターシステムを活用したアトラクションであるソアリンをベースとして、ライド形状だけを変更したアバター・フライト・オブ・パッセージなど、ライドシステムの転用が目立つようになり、アトラクションへのイノベーションが起きなくなります。

 

では、かつてディズニーに所属していたアイデア豊富なエンジニアたちがどこへ行ったのかと言えば、それはもちろん今ではディズニーと双璧をなすテーマパークチェーンへと進化を遂げたユニバーサル・スタジオです。

ダークライドとシミュレーションライドの要素を併せ持つインディ・ジョーンズ・アドベンチャーのある意味進化系で、ダークライド+シミュレーションライド+3D映像+特殊効果を組み合わせたアメージング・アドベンチャー・オブ・スパイダーマンは1999年に生まれた代表作。

2004年にはローラーコースターに映像システム、特殊効果などを組み合わせたリベンジ・オブ・ザ・マミーが誕生。

さらに2010年にはダークライド+アニマトロニクス+ドーム型立体映像+ロボットアームという驚異の構成で世の中をアッと言わせたハリー・ポッター・アンド・ザ・フォービドゥン・ジャーニーでアミューズメント界のリーダーの地位を不動のものとします。

実際のライド。これがロボットアームの先端にくっついていて、しかも常時横方向に動き続けています。画像は"https://en.wikipedia.org/wiki/Harry_Potter_and_the_Forbidden_Journey"より

 

 

4. これから面白いアトラクションは生まれるのか

そんなわけで、2000年台に入ってからパッとしないアトラクションが増えてしまったディズニー。

果たしてこれから先、新たな大人気アトラクションを生み出し、ユニバーサルと肩を並べて競っていくことができるのかどうか。

それはすべて、ディズニーがかつての呪縛から脱し、臨機応変な考えでアトラクション制作を行っていけるかどうかにかかっています。

 

そもそもディズニー映画にも明確なストーリーがあるわけで、アトラクションにも明確なストーリーラインがあったって良いのです。

さらに言えば、アニマトロニクスだってアニメーションの1つの形であって、それだけにこだわる必要はありません。

映像、アニマトロニクス、特殊効果、ライドの動きなどなどを組み合わせて、現代の理想的な「アニメーション」を構築してしまえば良いのです。

ホーンテッド・マンションなんてまさにそんなアトラクションだったわけですから。

 

ディズニーのアトラクションが時代に取り残されることなく、我々に驚きのある楽しさを提供し続けてくれることを願って…。

 

 

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