よみうりランドはなぜ年間200万人集客できるのか

2019年3月24日



こんにちは、ricebag(@ricebag2)です。

よみうりランドが実はスゴいってご存知でしたか?

としまえんや東武動物公園が年間入場者数100~120万人ほどに留まる中(2019年現在)、よみうりランドは200万人弱の集客力があるのです。

しかも、2005年前後は長らく60万人ほどに低迷していたところからの大復活

ここでは、なぜよみうりランドは復活したのか、他の遊園地が生き残るために使える知見はないのか、といったことを考察していきたいと思います。

 

 

1. よみうりランド復活の秘密

よみうりランドの入園者数推移。低迷期から、2009年を境に一気に上昇基調となります。

まずは、どこでも語られている分析から入って、徐々に深い分析をしていきたいと思います。

よみうりランド復活の理由は、上のグラフを見ていただければ一目瞭然かと思います。

 

まず、2010年のジュエルミネーション開始。これは首都圏最大級のイルミネーションイベントです。

いつの間にか子供の遊び場として定着してしまい、大人が行くと恥ずかしいとか、寂れた感じがするとか、そんなイメージを持たれてしまっていた遊園地。

そこに広大な敷地を活かした大規模イルミネーションを導入することで、デートスポットとして、またゆったりと過ごすお出かけスポットとして新たな価値を追加したのです。

これによって、それまで遊園地を訪れることがなかった人がよみうりランドを訪れ、更にはその時に乗り物を体験することで遊園地の楽しさを知って(思い出して)くれることで、再訪率も高まります

ジュエルミネーション開始後に来園者数が毎年伸び続けたことは、リピーターの存在を示唆していると考えられます。

 

更に2016年3月にはグッジョバがオープン。

UFOのラフティングライド。やかんからお湯をかけられるシーンは、様々なメディアで紹介されました。

こちらは様々な仕事をテーマにしたエリアで、屋内型施設がメイン。

車を組み立てて、できた車に乗り込んで走らせてみたり、カップ焼きそばづくりを体験(見学)したり(別料金)といったことができる施設。

テーマが素晴らしいのはもちろんですが、巻き上げありのラフティングライドや、本格スピンコースターなど、アトラクション単体の魅力を見てもピカイチ

様々なメディアで取り上げられた話題性、エリア自体の魅力、更には天候不順に強くなったこともあり、入園者数は更に増加を続けます。

 

ここで注意しなければならないのは、アトラクションを単体で導入しても、集客にはつながらないという点です。

例えば下の売上を見てみてください。

よみうりランドの売上。株式会社よみうりランドの有価証券報告書から作成しました。

2005年に2アトラクション、2009年に2アトラクション、2012年に2アトラクションを新設していますが、少なくとも2005年は売上に貢献していないことがわかります。

2009年に売上・入場者数ともに伸びているのですが、これはどちらかというと商圏が重なる「多摩テック」閉園、創立60周年記念イベントと、ジュエルミネーションの前身「よるランド」実施によるもの。

2012年は上昇基調の中でのアトラクション導入なので、これらのデータだけではなんとも言い難いです。

というわけで、基本的にはアトラクション単体導入による効果はほぼありません。

むしろ、通常は遊園地を訪れない人に向けたイベント(イルミネーションやHIGH&LOWなど)や、メディアで多く取り上げられるような話題性のあるアトラクション・エリア設置が集客には重要となります。

 

イベント力という意味では、よみうりランドは強いです。よみうりランドの親に当たる読売グループが所有するプロ野球球団「読売巨人軍」の本拠地、東京ドーム横にある遊園地「後楽園ゆうえんち(現・東京ドームシティアトラクションズ」は「後楽園ゆうえんちで僕と握手!」というフレーズで有名。ヒーローショーに強いんです。

そんな縁もあってか関係ないのか、よみうりランドでも、現在に至るまで各種ヒーローショーや女児向けアニメショーなどが展開されてきました。

近年ではコラボイベントも増加。こうした地道なイベント企画も、よみうりランドの集客力につながっています。

 

ここまでは、どこでも語られている話。よみうりランドがV字回復を遂げたという結果を見れば、容易に推察できる内容です。

では、そもそもV字回復に至る土壌がどのように形成されたのか。他の遊園地に応用できるところはないのか、といったことを考察していきたいと思います。

 

 

2. なぜよみうりランドは没落していたのか

観覧車から見たバンデット。よみうりランドの広大な自然を感じることができます。

よみうりランドの復活劇を語るには、まずは没落の原因を語らねばなりますまい。

よみうりランドの入園者数は、2005年前後に60万人ほどにまで落ち込みます。

この時代はまだ、今と比べれば旧態依然とした遊園地にも人が訪れていた時代。大抵の遊園地で、「底」を打ったタイミング(遊園地によって違いますが、2010年頃~現在付近が底です)と比べて2割増しくらいの集客ができていました。今100万人規模の遊園地なら、120万人ほど集客できていた時代だということ。

その時代に、よみうりランドクラスの大規模遊園地で年間60万人というのは、まさに「一人負け」の状態でした

 

新規投資ができていなかったという意味では、どこの遊園地も同じ状況でしたので、決してよみうりランドの内容が劣っていたわけではありません。

むしろ「バンデット」など、かつて目玉だったアトラクションもありましたので、アトラクション自体の魅力は他の遊園地に勝っていたように思います。

それでも凋落してしまったのは、旧態依然とした遊園地自体の集客力が全体的に落ちてしまっていたことが一つの要因。

その中でも、とりわけよみうりランドが苦しかったのは、立地に問題があるからでしょう。

 

誤解しないでいただきたいのは、よみうりランドの商圏人口は決して少なくない、むしろ多いということです。

下の図を御覧ください。

よみうりランドの立地。場所的には、小田急、京王、南部、横浜、田園都市、中央等の大動脈からアクセスしやすく、周辺人口がものすごく多い地域。

小田急線と京王相模原線に挟まれた場所にあり、さらには南武線と横浜線という南北をつなぐ電車が通っているおかげで、田園都市線や中央線などの平行路線からもアクセスが容易。

周辺には調布・多摩・武蔵野・町田といった人口の多い地域があるだけでなく、南武線・横浜線のおかげで川崎・横浜方面からもアクセス可能。更には厚木・八王子まで視野に入るすさまじい立地なのです。

しかも、多摩テック・横浜ドリームランド閉園後はライバルと言えるライバルはほとんどなし。横浜・八景島シーパラダイスと東京サマーランドは商圏が重なりますが、それぞれ水族館とプールがメインで、ある意味棲み分けができています。

これらを全て含めれば、商圏人口は1,000万人級。日本でも有数の値です。

 

それだけ商圏人口が多いのに立地が悪いというのはどういうことかと言えば、それはもちろん駅からのアクセスが悪いのです。

小田急の読売ランド前駅からはバス。京王よみうりランド駅からはゴンドラまたはバス。

駅から直接アクセスできない上に、バスやゴンドラでは料金を取られます。例えば横浜からよみうりランドに向かおうと思うと、距離的にはよみうりランドのほうがやや近いのですが、少し遠い東京ディズニーリゾートに向かったほうが交通費は安いしドア・トゥ・ドアに要する時間も短くなってしまうのです。

というわけで、アクセスの悪さゆえに、内容面は悪くないのに集客できなかった、という状態が長らく続いていたのです。

 

アクセスが悪くはありますが、周辺人口は多い。よみうりランドが他のレジャー施設と比べて圧倒的なオリジナリティを確立できれば、集客数をアップしやすい立地なのです。

これがよみうりランド復活の1つの理由でしょう。

こういった意味で、よみうりランド復活の軌跡をそのまま適用しても、他の遊園地で同等の集客を得ることは難しいでしょう。他の遊園地が同じ戦略を取っていないことからも、よみうりランドの特異性が伺えます。

 

 

3. 投資余力のあるバックボーンが最大の強み

よみうりランドは、東京ドームシティアトラクションズと同じ読売グループに属してはいますが、会社は異なります。

その名も株式会社よみうりランド。一見、よみうりランドがメインの会社に見えますが、稼ぎ頭は別にあります。

それが公営ギャンブル場の運営。川崎競馬、船橋競馬場、オートレース船橋等の施設を運営しています。

傘下にはゴルフ場もあって、2006年段階での遊園地部門の売上は、全体売上の1/6以下という状況でした。

 

遊園地以外に利益を出せる部門があるというのは非常に強いですし、遊園地以外の部門が公営ギャンブルやゴルフ場というのもメリットです。

と言いますのも、日本の遊園地は大半が鉄道会社系。東京ディズニーリゾートですら例外ではありません(TDRは自力で収益を上げられますし、大株主の京成電鉄にとっては非連結対象なので、他の遊園地と鉄道会社ほどの関係性はありませんが)。

鉄道会社は安定した収益源を持っていますから、親会社としては安定感がありますが、その投資余力を遊園地に振り向けてくれるかというと疑問が残ります。

利益率が低く、時代遅れとも取られかねない存在の遊園地に積極投資してくれる鉄道会社はなかなかないのです。それよりも不動産関係(街づくり)や駅ビル投資に振り向けたほうが、リターンが大きい。

 

一方で、投資余力のもとが公営ギャンブルにあると、その余力はほかに向かいがちです。

そもそも公営ギャンブル場自体が、定期的に建て替えるわけにもいきませんから、投資対象として限度があります。加えて、社会貢献という名目もほしい。

そんな会社の中に遊園地部門があれば、遊園地にもしっかり投資をしてくれますよね。

更に、公営ギャンブルは先細りになるであろうことが見えていて(ここ数年は復活気味ですが、それ以前はジリ貧でした)、会社として成り行かなくなる可能性も考えれば、遊園地を単独で利益の出る存在にしたいという思いもあったのではないかと思います。

 

こうした背景もあって、よみうりランドは積極投資に踏み切ることができたのだと思います。

というわけで、投資の原資という意味でも、やはり他の遊園地には真似できない部分があります

4. 数値に基づく戦略を取っている

ジュエルミネーションが戦略的に始められたものだったのかはわかりませんが(おそらく前年の「よるランド」が思ったよりも好評だったために始められたものと思われます)、その後の戦略はきちんと数字で、あるいは統計・確率的に導かれた戦略を選定しているものと思われます。

コンサルが入ったのか、あるいは社内にそういう人材がいるのかは定かではありませんが、戦略の立て方が、以前とは完全に別物なのです。

 

どういうことなのか、まずは以前の例からご紹介しておきましょう。

最もわかりやすいのが2004年開業のスーパー銭湯「丘の湯」です。

こちらは1997年オープン、多摩テックの「クア・ガーデン」、2002年オープン小山ゆうえんちの「思川」、2003年オープンとしまえんの「庭の湯」よりも後発。しかも、多摩テックと小山ゆうえんち、としまえんはいずれも天然温泉なのに対し、丘の湯は温泉ではないスーパー銭湯。

よその劣化コピーという、明らかに「弱い」戦略を取ってしまったのです。

いくら老朽施設の代替とはいえ、これはヒドい。現在では、よみうりランドのその他の施設とは異なる客層へのアピールポイントになっていますので、結果オーライではありますが。。。

ちなみに、2019年以降の計画では、よみうりランド周辺に新たに天然温泉施設を作る計画のようです。温浴施設を残そうと思ったら、そりゃそうなりますよね。

 

その一方で、ジュエルミネーション以降は「狙って当てる」戦略が増えています。

当サイトの「遊園地はなぜ潰れるのか」シリーズでも何度かご紹介していますが、50万人、100万人級の遊園地を200万人級に育てるためには、リピーターの獲得よりも、それまで遊園地に興味を示さなかった層へと訴求していくことが大切です。

そのためには、現在の遊園地の魅力は損なうこと無く、その一方で新たな層が求めるものを設置しなくてはなりません。

 

例えば2012年の「キドキド」設置。キドキドというのは、幼児向け玩具販売で有名なボーネルンドが展開する遊び場。

ボーネルンドの玩具で遊べるだけでなく、もう少し大型の体を使った遊具でも遊ぶことができます。

これを設置することで、従来の遊園地の遊具では十分に楽しむことができなかった乳幼児期の子供が楽しむこともできますし、例えば年齢差のある兄弟なら下の子がキドキドで、上の子は遊園地で遊ぶことで、どちらかを犠牲にすることなくみんなが楽しむことができます。

「遊園地はまだ早い」と考えていた顧客層を、キドキドによって取り込むことができるのです。更には、小さな子供に遊園地を横目で眺めてもらうことで、「大きくなったらアレに乗りたい」という意識を刷り込ませる効果も期待できますし、保護者にも遊園地の魅力を知ってもらうことができます。

この設置にあたっては、立案者は商圏内にどれだけ該当する顧客層がいるのか、そのうちどの程度を取り込むことができる見込みなのか、収益率まで含めて考えているはずです。そうでなければ、経営層は「遊園地にキドキドを設置する」という決断はできないでしょう。

 

もう一点、レストランの改良も戦略性が見られるポイントです。

こちらも以前、「遊園地はなぜ潰れるのか」シリーズでもご紹介したのですが、子供が喜んでくれて親はゆっくりできる、というのが子育て世代にとって理想のお出かけ先。

遊園地におしゃれなカフェが併設されていれば、しばらくゆったりと過ごし、いくつかアトラクションにも乗ることで大人も子供も満足できる施設となります。

例えば「Goodday」は開放的なガラス張りの面から夏季なら緑、冬季夜間ならイルミネーションが見え、室内には有機ELを使ったシャンデリアのあるおしゃれな空間。運営はNREなので、味はお察しですが、ケーキセットや炭焼コーヒーなどカフェ利用も想定したメニュー設計がなされています。

「グッジョバ!!KITCHEN」は少し狭めですが、運営はロイヤル。ロイヤルホストのコスモドリアもありますし、ドリンクバーもあり。少し大きなお子様なら、グッジョバで遊ばせている間にご両親はここでゆったりと過ごすことができます。

子供を楽しませるだけでなく、お出かけ先の決定権を持つ両親にも楽しんでもらえる遊園地を目指している様子が読み取れます

これらの企画をキチンと数字で表現していたかどうかはわかりませんが、アトラクション以外のところに投資することが許されているということは、戦略的な考え方が社内に根付いているということを表しています。

 

更に2019年以降の投資もまた、狙いすましています。

2029年までの投資計画が発表されています。例えばVR水族館は子どもたちにはもちろん、デートスポットとしても人気のある水族館に、技術好き、新しもの好きへのアピールポイントも組み合わせたもの。なんとなく内容も想像できますし、キレイで楽しそうですよね。

植物園はゆったりしたい方にとって魅力的なスポットですし、写真映えのするスポットにもなりそうです。

しかも、水族館も植物園も、以前よみうりランドにあった施設。運営が難しく参入ハードルの高い施設ですが、そのノウハウは既に持っているのです。それらをバージョンアップして、集客できる施設として再設する計画。

キャパシティが律速段階になってしまっているグッジョバを拡張する計画は、メディア等での話題喚起に加えて、街時間短縮・選択肢増による来園者満足度向上も狙えます。屋内型施設が多い点も、転向に左右されない強い遊園地を作る上でのポイント。プールにも屋内プール兼冬季スケート場を作るなど、季節や転向に左右されない施設づくりに力を入れているようです。

世界一を名乗れるコースターというのも、やはりよみうりランドに「行く目的」となる施設。富士急ハイランドまで行かなくても大型コースターがあるというのは、首都圏のスリルシーカーにとって大きな魅力となります。

 

よみうりランド側は、これらを合わせて10年後に年間430万人という、現在の2倍以上の集客を目標としています。

この数字が現実的かどうかは議論のあるところだと思いますが、シーパラや富士急など、競合施設からの取り分も合わせて、ザックリ計算で300万人は堅いと考えています(記事が長くなってしまいましたので、算出方法はまたの機会に)。

このくらいのオーダーになってくると、リピーターの獲得も重要な要素になってきますので、ファンを作るような活動ができて、それが実を結んでくれば2割増し、360万人くらいまではいけるはず。

その先は楽観論も入っているような気がしますが、360万人まで行けば収益性も上がって、次なる投資も大きく打てるようになるはず。頑張って遊園地業界を盛り上げていただきたいものです。

 

他の遊園地にとっては、よみうりランドの戦略は大いに参考になるはず。真似できる部分は真似をして、上回れる部分は上回って欲しいところ。

よみうりランドの例がモデルケースになって、遊園地業界が活性化してくれることが、遊園地マニアの願いです。

 

よみうりランド大規模プロジェクトの投資利益率を計算した記事を書きました。合わせてぜひご覧ください。

 

よみうりランドをはじめとして、遊園地関係の経営状態解析や戦略論などの記事は、以下のページから御覧ください。