日本初で世界初!? 立ち乗りループコースター「MOMOnGA」at よみうりランド

2019年5月26日



こんにちは、ricebag(@ricebag2)です。

よみうりランドにあるループコースター「MOMOnGA」。一見するとごくごくシンプルなループコースターですが、なんと日本初の垂直ループ、世界初の立ち乗りという歴史的に見て貴重なコースター。

乗って楽しいというよりも、見て楽しい座り乗りと立ち乗りを1つのレールでつなぎ替えるギミックなど、いろいろと貴重なものが満載。

そんなMOMOnGAの貴重なポイントと乗車レポートを一挙にご紹介していきます。

 

MOMOnGAの評価

 

爽快感:      ★★☆☆☆

振動の少なさ:   ★★★☆☆

スリル:      ★★☆☆☆

コースレイアウト: ★★☆☆☆

楽しさ:      ★★★☆☆

総合得点:     45点

 

1. 垂直ループの歴史と立ち乗りの誕生

1.1 ループの誕生

ローラーコースターで天地逆さまになるエレメントといえば、その代表格が垂直ループだと思われがちですが、その歴史を振り返ると意外なことがわかってきます。

世界初の現代型ローラーコースターは、1884年コニーアイランドに設置されたスイッチバックレールウェイ。

当時は各アトラクションに運営者がいて、それぞれの売上のうち、コニーアイランドに収める上納金以外は運営者の懐に入ってくるシステム。当然、人気のローラーコースターは次々に作られることになります。

 

世界初のローラーコースターからわずか11年後、1895年には世界初の天地が逆さまになるコースター「Flip Flap Railway」が登場。

このときのループは、完全な円形。ループは下にいるときは速度が速く、ループの上側では速度が遅くなるので、完全な円形だと下にいるときに強いGがかかってしまいます。

これが原因で首を痛める乗客が多発した、とのこと。実際にはおそらく複合要因だったと思われます。

例えば、当時の木造コースターですから、木造独特の揺れだけでなく、レール継ぎ技術の未発達に伴う激しい揺れがあったと思われます。これは現存する最古のローラーコースター、同じコニーアイランドの1927年製「CYCLONE」ですら激しい揺れを伴うようですから、その30年以上前のものなら言わずもがなです。

更に、レールを上下に挟み込むような車輪構造にはなっていなかったこともポイントの1つ。ループでは遠心力だけで車体を支える構造だったため、おそらくループのサイズに対してかなり過剰な速度で突入していたと思われます。

速度に対して極端にRの小さなループに突入し、かつ振動が激しい。そりゃ首を痛めます。

 

「Flip Flap Railway」は1902年に取り壊されてしまうのですが、その前年、1901年に「Loop the Loop」というコースターがコニーアイランドに登場します。

実はその前年の1900年頃からループコースターが複数作られているようなのですが、残念ながら今回調べた範囲では情報が出てきませんでした。ちょっと今度、洋書を買いまくっていろいろ調べてみます。

コニーアイランド版のLoop the Loopは、ループ下部でカーブが緩く、頂上でキツい形状のループを採用することで、乗客へのダメージを軽減しています。

実際には、ループ形状だけでなく、多数のトラスで補強されたスチール製の骨格、多数の支柱を採用することで振動や衝撃を軽減していたことも大きかったのではないかと思います。車両とレールとの固定はこのときもやはりなくて、遠心力のみで落下を防いでいたそうです。

ただし、当初は複数車両連結しての営業を目論んでいたものの、コニーアイランドの安全性委員会からストップがかかり、4人乗り1両編成での営業となってしまいました。しかも1乗車あたり5分かかってしまうとのこと。加えて、人々はフリップフラップレールウェイの影響もあってか、乗るよりも見ることを好んだということで、運賃収入は伸び悩んでしまいます。

「見物料」をとってなんとか生きながらえていたのですが、それでももたずに1910年には営業を終了してしまいます。

 

その後、調べて見つかった範囲では1948年、オーストリアのWiener Praterに建設された、ラストは水に突入して停止するタイプのローラーコースターが1つ。Loop the Loopシリーズから40年近くが経過しています。

 

1.2 現代型ループコースターの登場

その次に歴史上ループコースターが登場するのは1975年になってから。またも30年近い空白があります。1975年に登場したのは、ようやく現代型のループコースター。ディズニーランドのお手本になったとも言われるナッツ・ベリー・ファームに設置された、アメリカArrow社製Corkscrew。

日本にも1977年以降、谷津遊園を皮切りにとしまえんやナガシマスパーランドなどにも計5機導入された名機です。

ただし、コークスクリューは垂直ループエレメントを持っていません。「きりもみ回転」とも呼ばれる、ねじるような回転エレメントにすることで、回転の外側に向かうGを逃がすような作りにしているのです。

コークスクリュー。名前の通り、コルクをひねるような螺旋状のループが2つあります。

Arrow社はアメリカにおけるループコースターの歴史を踏まえてのことなのか、あえて垂直ループを避ける判断をしたのです。

 

これに対し、翌1976年にはドイツのシュワルツコフ社設計、スイスのインタミン社施工により、ナッツ・ベリー・ファームからもほど近いところにある遊園地マジック・マウンテン(現シックス・フラッグス系)にRevolutionがオープン。

こちらは真っ向から垂直ループに挑んだコースター。

最高時速88.5 km/h, 全長は1,000 mオーバーという当時世界最大規模のコースターに、直径27.4 mの大型ループが配置されています。

このコースター、ループは極めて円に近い形状をしています。このため、Gもやたらと大きくて、ループ突入時に最大4.9 G。

ループが正円に近いのはシュワルツコフ設計の特徴で、1979年から日本にも導入される「シャトルループ」(横浜ドリームランド、としまえんなどに設置、ナガシマスパーランドのみ現存)はなんと6 Gという凄まじさ。

斜めからですみません。ナガシマ版シャトルループです。ループは8時付近から4時付近まで、ほぼ完全な円形。それより下は少しマイルドなRになっていますが、それでも往路突入時に最大6Gがかかります。

 

先述のArrow社は、その後に垂直ループも手がけるのですが、そちらはものすごーく楕円形でした。ちなみにそのループ形状が日本で見られたのは、後楽園ゆうえんちの「ブーメラン」、エキスポランドの「スペースサラマンダー」くらいで、いずれも現存しません。

Arrow社はおそらく、アメリカの会社ですからコニーアイランドのFlip Flap Railwayの惨事や悪評を知っていて、ローカル感情にも配慮しつつ安全性や乗り心地に配慮した結果、楕円形になったのでしょう。

一方、シュワルツコフはドイツの会社ですから、Flip Flap Railwayの悪夢はあまり実感を伴っていなかったのかもしれません。しかも、コースターの神様と呼ばれるシュワルツコフ氏は、「どんな場所で誰がレールを敷設しても、乗り心地よく作れる特許」を多数生み出しています。

ここでようやく、「Flip Flap Railwayは振動も問題だったんじゃないか」という伏線がいきてきます。そう、シュワルツコフ氏はループが正円に近くても、衝撃がなければ大丈夫だと考え、それを実践してみせたのではないかと思うのです。実際、一瞬なら6 Gかかっても人間は何ともありませんしね。

あとは見栄えの問題も大きいと思います。シュワルツコフ氏はコースターの見た目にもこだわっていた方ですから、できるだけ見た目にも美しいコースターにするためにループを正円に近くした、ということも考えられるかもしれません。

そんな氏の傑作量産機、「ルーピングスター」は今でもナガシマスパーランドで乗ることができます。特に真中付近の車両に乗ってみると、1982年製とは思えない乗り味に驚かれるはずです。これとArrow社のコークスクリュー、さらにはシャトルループまで揃っていますので、この記事を読まれた方でまだナガシマに行かれていない方は、ぜひ一度足を運んでみてループの歴史に思いを馳せてみてください。あの遊園地はホント博物館級です。

変な写真ばかりですみません。ルーピングスターを裏側(乗り場側)から見た写真です。ループの上側だけ見ると、ホントに正円にしか見えません。美しい。

 

 

1.3 日本のループコースターとモモンガ

さて、話を日本のループコースターへと向けていきましょう。

1977年に、日本初の天地真っ逆さまコースター「コークスクリュー」が谷津遊園に上陸。

その翌々年、1979年よみうりランドに登場したのが、日本初の垂直ループコースター、その名も「ループコースター」だったのです(1999年にMOMOnGAに改名)。

製造はトーゴ。後にバンデットやFUJIYAMAを手がける会社です。

同じ1979年には、シュワルツコフのシャトルループを模しつつも急発進エレメントを取り除き巻き上げ方式へと変更した、明昌の「ループ・ザ・ループ(1号機はザ・ループコースター)」、1980年には極めてよく似た形状の泉陽「アトミックコースター」がデビュー。

そんなタイミングで周回式のループコースターを真っ先にオープンさせたトーゴはやはり独創的です。

 

日本初の垂直ループコースターは、思いっきりシュワルツコフリスペクト。

ファーストドロップはシュワルツコフの代名詞、シュワルツコフカーブという曲線を描いて落ちていきます。

ループの中をレールが通るようなレイアウトも、前述のRevolutionリスペクト。

ループ形状こそかなり楕円形ですが、レールの固定は枕木型ではなく箱型。

更にはループの箱型枕木と柱との間にくさびを打ち込んだような形状や、建設時に使うと思われる丸穴、固定用アタッチメントとボルトの配置などなど、もはやシュワルツコフの技術が入っているんじゃないかと思うレベル。

最大荷重は2.9Gと、シャトルループと比べれば控えめです。ループの高低差も12 mなので、小さめ。

 

1.4 世界初の立ち乗り車両を追加

これだけでも十分歴史に残るコースターではあるのですが、MOMOnGAには更にスゴいポイントがあります。

それが、世界初の立ち乗りライドを導入したこと(RCDBには小田急御殿場ファミリーランド「ダンガイ」の翌日オープンとありますが、小田急75年史によるとダンガイは1989年オープンなので明らかに間違っています)。

立ち乗りライドが導入されたのは、ループコースターオープンから3年後、1982年のこと。

これはなんと、ぶら下がり型の足ぶらぶらタイプ(インバーテッド)登場の10年も前。現代型の足がブラブラしないぶら下がり型(サスペンデッド)の翌年です。フロアレスやウィング型、うつ伏せ型なども当然ありません。

まだシート形状や乗車姿勢という概念自体がなくて、コースターといえば椅子に座るのが当たり前の時代だったのです。

そんな状況下で突如誕生した立ち乗りコースター。当時人々の度肝を抜いたことは、疑いようがありません。

 

コースレイアウトがあまりにもシンプルだったために、垂直ループだけではインパクトがなくなってしまっていた「ループコースター」。そこにインパクトをもたらす秘策が立ち乗りだったわけです。

立って乗ることで、通常よりも重心が高くなりますから、レールの傾きが変わる際の体の動きは大きくなります。

落下時には体を投げ出して落ちていくような感覚を味わえますし、Gがかかる場面では筋力を使って受け止めることで、通常よりもGを強く感じることができます。

結果的に足ブラブラインバーテッドやフロアレス、うつ伏せ乗車型などに取って代わられていくことになりますので、スリルとしては大幅に増幅されたわけではないのですが、それでもやはり乗り方を変えることでスリルが変わることを示したのは、大変に偉大なことです

実際、1985年にはトーゴが輸出を開始、1986年にはインタミン社が、1992年にはB&M社が立ち乗りに参戦することになります。2大メーカーが参戦するほどのインパクトをもたらした、ということなのです。

おそらく1979年にはシュワルツコフのシャトルループが横浜ドリームランドを皮切りに導入され始め、そちらに話題をさらわれてしまったことに対する対策として登場したのではないかと思われますが、それにしてはインパクトが凄まじいです。

 

MOMOnGAがスゴいのは、立ち乗りと座り乗りを同じコースで走行させ、しかも座り乗り2回連続、立ち乗り2回連続といった運行が可能なシステムになっているところです。

どういうことかと言いますと、メインのコースは1つしか無いのに、プラットフォームでは車両が2台横に並んでいるんです。

モモンガのプラットフォーム。コースは1つしか無いのに、乗り場には2つの車両が横並び。しかも、手前側の立ち乗り車両が何故かホームから離れた位置にあります。

この写真だけでは何が何やらな状況だと思いますので、もう少し角度を変えてみましょう。

立ち乗りのライドだけがコースにつながっています。

どういうことかと言いますと、座り乗りと立ち乗りが停止している部分は、レールごと左右に動くのです。

座り乗りの乗降中は立ち乗りがメインのレールにつながっています。座り乗りの乗降が終わると、レールごと左に動いて、座り乗りのレールがメインのレールへとつながるのです。出発後、座り乗りが戻ってきたら、再びレールを右側へと動かします。

これのスゴいところは、2つのプラットフォームの間にはレール3つ分の隙間があって、座り乗りの乗降中は立ち乗りが、立ち乗りの乗降中は座り乗りがメインのレールにつながっているところ。

基本的に行われることはありませんが、運用を工夫すれば座り乗りの乗降中に立ち乗りを走行させ、立ち乗りの走行中に座り乗りを走行させるなんてこともできるのです。これを、プラットフォームの延伸やコースレイアウトの変更無く実現してしまったトーゴはさすがです。

デュアルプラットフォームでこのような機構を採用しているのは、世界的にも稀。通常は設計段階からプラットフォームを2つ用意しますから、単にレールの切り替えポイント(Y字の合流ポイント)を作ってしまえば良いのです。MOMOnGAの場合は、あとからデュアルプラットフォームにしたために、プラットフォーム前後に切り替えポイントを用意するスペースがなかったためにこうなっているのでしょう。

ただし、係員はオペレーターと接客対応の2人しかいないことが多いので、プラットフォーム間をレールやライドを踏みつつ移動するという、若干危険な行動をせざるを得ないのが残念なところ。

 

 

2. MOMOnGAの乗車レポート

長くなってしまいましたが、MOMOnGAがいかにスゴくて貴重なコースターかわかっていただけたところで、乗車レポートです。

ゆっくりとループの中を通過しながら巻き上げられていくと、まずは右旋回シュワルツコフカーブがファーストドロップです。

とはいってもなんちゃってシュワルツコフカーブで、大回りする割に落差がないので、結果的に角度もつかず、ゆる~いファーストドロップになっています。斜度はなんとわずか35° ! そのわりに、高低差21 mで75 km/hも出るというから驚きです。

明昌(現・サノヤスライズ)というメーカーが、同じくシュワルツコフリスペクトで作製したと思われる、富士急ハイランド「ダブルループ」には更にゆる~いシュワルツコフカーブがありました。日本メーカーがシュワルツコフカーブを真似ると、なぜかゆるくなってしまうのでしょうか。

 

その直後に、名物垂直ループ!

ファーストドロップと垂直ループ。MOMOnGAは立地の関係で、なかなか全容を写真に収めることができません…。

 

続いて水平ループを1周して、左にターンして終了。

水平ループ。もうとにかく狭い敷地にループ一本にかけて作った、という印象のコースターです。

水平ループもある程度しっかりGはかかります。

 

一つ一つのエレメントは悪くないのですが、あまりにもエレメントが少なすぎて悲しい。

ドロップ、垂直ループ、水平ループ、ターンしか無いんです。

垂直ループだけでもインパクトを出せてしまった時代なので仕方がないのですが、少なくとも座り乗りで乗るには寂しすぎるコースターです。

「怖い」要素はほぼありませんので、そういう意味でローラーコースター初心者の方には良いライド。

 

立ち乗りにしても、それを活かすようなエレメントはほとんどありません。

ドロップの角度が浅いので、立ち乗り特有のドロップの感覚はほとんど得られません。

ただし、垂直・水平ループではしっかりGがかかりますので、その際に膝でGを受けるために「立っている感」は満喫できます。あとはライドに覆われていない「開放感」という点も特徴ではあるのですが、フロアレスなどのタイプが浸透した現在となっては、これも特筆すべきというほどでは無くなっているのかもしれません。

ちなみに、乗車時にハーネスを身長に合わせて調整するのですが、このときにサドル状の部分は少し低めに固定しておくのが立ち乗りを楽しむためのポイント。こいつが高い位置にあると、立って乗っているのにGはサドルで支えることになって、実質座り乗りとほとんど変わらなくなってしまいます。調整時には膝を軽く曲げておきましょう。

 

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