「ド・ドドンパ」乗車時の事故はなぜ起きたのか
2021年8月下旬、富士急ハイランドのローラーコースター「ド・ドドンパ」乗車時に、頚椎骨折を始めとする怪我を負った乗客がいる、というニュースが駆け巡りました。
果たしてこの事故は、なぜ起きたのか。そして誰が悪いのか。情報が錯綜していますので、8/24時点の情報をもとに、ある程度客観的に導き出せる結論をまとめようと思います。
結論から申し上げますと、まず、現時点での情報では原因の断定はできない。ただし、「骨折」という事態から、多くは急加速時に発生した可能性が高く、その場合には頭をヘッドレストに付けていなかったことが原因。一番悪いのは、頭がヘッドレストに付いていることを確認してから発射ボタンを押す運用にしていなかった富士急ハイランド。次に悪いのは、そういう運用をするように指示していなかった(とすれば)、かつハーネスに余裕をもたせてしまったメーカー(S&S)。最後に、アナウンスがあったにもかかわらず指示を聞いていなかった乗客です。ただ、遊園地で激しい乗り物に乗っているというワクワク感を持っている乗客に、指示をきちんと聞いてそのとおりに行動しろ、というのは酷な話です。乗客が指示を聞かないもの、という前提で動けなかった遊園地側の責が大きいのではないかと思います。
どういうコースターかご存じない方は、まずは紹介記事をご覧ください。
0. 現時点の情報
・ド・ドドンパに乗車した複数の人に、「頚椎骨折」等の症状が出ている(ただし、ド・ドドンパ乗車との直接的な因果関係、急加速との関係まではわかっていない)
・一部インタビューで、急加速時に頭が揺れたとする証言があるものの、それと頚椎骨折との関係性、記憶の確かさまではわかっていない(例えば、急加速時に頭が揺れたが、その後の垂直ループでより大きな負荷がかかって頚椎を損傷した等)
・ド・ドドンパに改修する以前のドドンパでは、今のところ明確なケガの情報は上がっていない
1. ド・ドドンパで怪我をする可能性のある場所
さて、現在のところ、「急加速が原因」ということが盛んに言われていますが、ド・ドドンパで怪我をする可能性があるのは、必ずしも急加速エレメントだけではありません。多分急加速が悪いのですが、一応、客観的な視点を失わないためにも、他の要因を考えてみましょう。
通常、ローラーコースターでむち打ち(頚椎捻挫)の症状が出た場合に真っ先に疑うのは、垂直ループ最下点です。下向きに強烈なGが、勢いよくかかりますので、頭が勢いよく下を向いてしまって、頚椎にダメージを負う場合があるのです。
ドドンパも、ド・ドドンパに変更された際に垂直ループが追加されました。しかも、垂直ループが追加されたのは、もともとはループの代わりにあった垂直タワーの最上部でかかるマイナスGを調整するために、急加速時のパワーを落とさなければならなかったのが、垂直ループならその必要がなくなるから、という理由。風向きや乗車人数、気温等によらず、常時フルパワーで射出していたとしたら、乗車するタイミング次第でループ最下部での速度が変わり、かかる荷重も大きく変わることになります。
したがって、ドドンパではケガが発生していなかったのに、ド・ドドンパに変えてケガが出るようになったのであれば、まず真っ先に疑うべきは垂直ループです。
加えて、ループの手前、トンネル出口付近にややつなぎの荒い箇所がありますので、ここで頭の位置をズラされたあと、思いっきり下向きのGが勢いよくかかれば、頚椎捻挫くらいまでは理解できます。
ただ、さすがに頚椎骨折となると疑問が出てきます。
2. ケガの重さは「力の勢い」で決まる
よく、ケガするかどうかを○○Gかかったから、というように加速度(≒頭部にかかる力)で表現することがありますが、これは半分正しくて半分間違っています。確かに、頭にどれだけの力がかかったか、というのは大切です。頭を平手ではたかれるのと、パイプ椅子で殴られるのとでは、首の動き方も違ってきます。
しかしながら、同じ力であっても、力がどれだけの勢いでかかったかによって、ケガの度合いは違ってきます。例えば、頭だけで逆立ちした状態で、ゆっくりと首を曲げたらどうなるでしょう。大抵の方はもちろん筋を違えますが、骨を折るところまでは行かないのではないでしょうか(当然ですが、実際にやってみることは絶対におやめください)。
一方で、あなたが椅子で居眠りしているときに、突然あなたの頭の上に、あなたと同じ体重の人が乗ったらどうなるでしょう。頚椎骨折じゃすまないダメージを負いそうですよね。
この違いは、力の大きさが同じでも、ケガの度合いが異なる可能性があることを示しています。前者では、首に負荷がかかることを意識できていますし、ゆっくりと体制を変えることでどれだけ首に力を入れればよいかがわかっています。首の筋肉を使って、力に抗うことができているのです。ですから、頚椎にかかる負荷は頭にかかった力よりも小さいのです。
一方の後者では、首に力を入れる前に負荷がかかってしまっていますので、すべての負荷を頚椎で受け止めてしまっています。
つまり、負荷がかかり始めてから最大負荷に至るまでに、人が首の筋肉に力を入れて備えることができるかどうか、が重要なのです。
高校物理と数学を学ばれた方なら、加速度の時間微分が重要だ、と思っていただければよいかと思います。
3. ケガをしやすいのは急加速時
こうした視点でもう一度ド・ドドンパの動きを考えてみると、やはり問題は急加速にあるように思えてきます。急加速では初っ端にいきなり最大荷重の3.5 G程度がかかります。一方の垂直ループはクロソイド曲線になっていますから、徐々に負荷を増していきます。
圧縮空気を使った発射ですから、動き始めから最大荷重までに0.1秒もかからないと思われます。例えば、音を聞いてから体を動かすまでにかかる反応時間は、一般に0.25秒程度と言われていますから、これを切ってくると、首の筋肉に力を入れることができない可能性のある、危険水準に入ってきます。ド・ドドンパの急加速では、間違いなくその危険水準にあります。(ちなみに、垂直ループの入り口でGがかかり始めてから最大Gになるまでは、0.2~0.3秒くらいだと思われますので、垂直ループが原因という可能性も完全に排除されたわけではありません。)
しかしながら、ここでもう1つ疑問が湧き上がります。
通常、いくらヘッドレストから頭を持ち上げていたとしても、急加速時に頭はヘッドレストに打ち付けられて止まります。背中より後ろに頭が持っていかれることは無いのです。そうなると、頚椎で荷重を支えている状況ではありませんから、タンコブはできたとしても、頚椎を骨折するとは考えにくいところがあります。
その答えはおそらく、ハーネスにあるのではないかと思います。
このハーネスが、必ずしも身体をシートに押し付ける形で拘束できていないのです。ハーネスはラバー製で、お腹から肩にかけてを拘束する形になっていますが、これが柔らかいのか遊びがあるのか記憶がありませんが、少なくとも一部の乗客は身体をシートから離せる形になってしまっているのです。
このため、背中を背もたれから離して、かつ手でハーネスにしがみついて腕周りの筋肉を使ってハーネスに身体を押し付けている状態ですと、急加速時に頭だけが後ろに倒れ込む可能性があるのです。こうなると、頚椎に大きな負荷がかかりますので、当然ケガの恐れが出てきます。
4. ドドンパでは起こらない事故だった
上述の通り、乗客が肩周りのハーネスにしがみついて身体を起こさない限り、頚椎に損傷を負うことはありません。単に頭と背中をシートやヘッドレストにぶつけて痛い思いをするだけです。
実はこれ、改良前のドドンパでは起こり得ないケガなんです。というのも、旧ドドンパはハーネスが足回りだけ。太ももに乗っけたハーネスに付いた手すりを握る形でした。現在のFUJIYAMAに近い形をイメージしていただければ良いかと思います(スネ周りも押さえられて、もう少し厳重でしたが)。
この場合、身体を前に倒してしがみつくアテがありません。肩周りにハーネスが無いのです。ですから、身体を起こしていたとしても、加速時に支えることができず、身体ごとシートに打ち付けられます。頚椎にダメージはほとんどないのです。
ド・ドドンパでは、垂直ループ導入に対応するため、肩周りに厳重なハーネスを付けてしまいました。それに乗客がしがみついて身体を起こしたため、頭だけが急加速で持っていかれて、頚椎を損傷したと考えるのが妥当でしょう。
5. 悪いのは誰か
以上の考察が正しいと仮定した場合の、責任の所在を考えてみましょう。
ここで乗客を責めるのは簡単ですが、それはあまりにも酷だと思います。発射前に頭をヘッドレストにつけるよう案内はありますが、みんなで楽しみたい遊園地です。盛り上がっていて聞いていなかったのかもしれません。あるいは、あまりの恐怖に、目の前にあるハーネスにしがみついていて、頭を後ろにつけようにもつけられなかったのかもしれません。
ただ、急加速するコースターであることは周知の事実ですから、急加速時に頭を後ろにつけていないとどうなるかは、少し考えればわかることです。そこに想像力を働かせて、遊園地側からの指示に従わなかった、ということで「ちょっとだけ」悪いと思います。
続いて、メーカーの責任はどうでしょうか。
まず、加速の設定についてです。これは、ドドンパ時代に事故が無かった(現時点では頚椎骨折に至ったという報告はない)ことを考えれば、加速自体が悪いということではないでしょう。
むしろ、しがみつけるようなハーネスにしてしまったことが問題です。身体を持ち上げた状態で乗車すれば、頭が後ろに持っていかれて頚椎に多少なりともダメージが入ることは予知できそうです。したがって、ラバーハーネスできちんと身体をシートに押さえつけた状態で拘束できるようにしておくべきだったと思います。そもそも、ループ最下部での頚椎損傷を防ぐためにも、また、ループ頂上で停止してしまった場合の安全性の面からも、身体を持ち上げられてしまう設計はよくありません。
最後に、遊園地の責任はどうでしょう。
身体をシートに付け、頭をヘッドレストにつけるようアナウンスはしていました。しかしながら、それは形式的なものであって、きちんと守られるよう徹底した運用はなされていなかったように思います。
例えば、プラットフォームを出る段階で身体を持ち上げてしまっている人には注意をする。発射時も担当者がチェックをしながら発射ボタンを押しているわけですから、きちんと監視カメラ等で確認をして、身体を持ち上げている人がいたら発射を中断して注意する。そうした運用ができていなかったところには、かなり大きな責任があると思います。
エクストリームなライドには、そこそこの危険がつきまといます。ケガをさせないために、危険な箇所は徹底的に守らせるような行動が必要でしょう。ポケットの中身に対しては、かなりうるさく言われますが、それ以外の部分はかなりいい加減です。スタッフに対して、安全第一の本質を教育できていなかった。運用を決める時に、安全に運用するとはどういうことなのか、危険予知や末端までの徹底方法を理解している人がいなかった。これは完全に、企業の安全管理の問題です。
しかも、おそらく急な加減速が原因であるということがわかっていながら、富士急ハイランドはド・ドドンパを停止させるのみで、同じく急加速エレメントのある「高飛車」や、ブレーキのきつい「リサとガスパールのそらたびにっき」を停止させて安全を確認するような措置を取りませんでした。少なくともド・ドドンパを止める段階で、高飛車だけは原因調査が済むまで止めるべきだったのではないかと思います。上に述べたようにハーネスとの複合要因だった場合は、その調査をしなければなりませんし、ド・ドドンパと同じく垂直ループに近いエレメントを多数有するコースターですので。
事故が起きてもなお、「今まで大丈夫だったから安全だろう」という意識が根付いているように感じられて、かなり心配です。その意識のままだと、また別のところで思いもよらぬ事故を起こしてしまいます。
ちなみに、運用についてのメーカーの責任はそれほど重くないと思います。
アトラクションでアナウンスがなされているところからも、おそらくメーカーからは背もたれに背中を付けて、ヘッドレストに頭を付けて乗車するよう指示があったと思われます。
これが市販の家電であれば、誤用の可能性まで含めて安全を担保する必要がありますが、運用するのはプロの遊園地です。「不安全な状態にあれば動かさない」ことを想定するのは、メーカーの落ち度ではないと思います。特に、発射前に乗車姿勢を確認できるコースターであって、発射ボタンを押すまで乗客が正しい姿勢でいれば、その後にケガをすることは困難ですので。
なお、事故が垂直ループに由来するものであれば、責任の所在は大きく変わってきます。
遊園地側の問題点は、最初のケガが発覚したあと、すぐに運営を停止しなかったことくらい。
原因を作ったのは、設計か、もしくは施工です。もともと垂直タワーがあって、直線区間があまり取れない箇所に、無理に垂直ループを作ったために無茶な設計になったか、あるいはレールの曲げやレール接続の精度が甘かったか。前者は、もちろん富士急からの要望があったと思いますが、それでも設計として危ないのであれば、それをそのまま製品として上げてはいけません。
これらとハーネスとの複合要因の可能性もありますが、いずれにせよハーネスもド・ドドンパへの改装にあたってライドごと作り直しているわけですから、やはりメーカー・施工社の責任は大きくなってくると思います。
6. 乗客ができること
ただ、乗客としてもやはり自衛をするに越したことはありません。すべての遊園地がきちんと運用できるとは到底思えませんので。
富士急だから高いレベルの安全管理が求められますが、場末の遊園地にそのレベルを求めるのは酷です。
我々自身も、きちんと対策をしておく必要があります。
基本的には、ライド周りや待ち列に書いてある注意事項、アナウンスされている事項を守るだけです。これらはメーカーが指定した、計算上はこれやっておけばケガをしないよ、という内容です。
正しい姿勢で乗車できていれば、ケガに至ることはまずありません(不具合や事故、突発的な急ブレーキの場合を除いて)。
急加速するコースターでは、きちんと背もたれに頭と背中を付ける。椅子には深く腰掛ける。安全バーは止まるまで下げる。こうしたことを守るだけで、安全に乗車することができます。ヘッドレストに頭をつけるのは、急ブレーキ対策でもありますから、ヘッドレストのあるコースターでは必ず守るようにしましょう。
ちなみに、安全バーや手すりに掴まるときは、身体をシートに押さえつけるように力を入れましょう。ついついバーを逆手で握って、身体をバーの方に引き寄せるような力をかけてしまいがちですが、順手で握って、腕を突っ張るように(だけど肘は伸ばしきらずに)力をかけるのが正しい乗り方です。こうすることで、急ブレーキ時に頭をどこかにぶつける可能性も下がります。
そしてメーカーには、できるだけ遵守事項が少なく済むような設計と、わかりやすい説明をお願いしたいところです。
ディスカッション
コメント一覧
こんばんは。
近藤ユウヤと申します。いつも興味深く拝見させてもらっております。
さて、今回コメントさせていただいたのは、ド・ドドンパに乗ったときの体験についてです。
もしかしたら、ricebagさんなら原因を推察してくださるのではないかと、失礼を承知で続けさせてください。
昨年7月の末に、友人2名と富士急ハイランドへ行きました(毎年、ジェットコースター遠足と称して訪問しています)。
そのときに、まあ一回は乗っておくか(失礼!)とド・ドドンパに乗車したのですが、ちょっとその時に(少なくとも個人的には)恐ろしい体験をしたのです。
いつも通りハーネスを装着し(記事でご指摘の通り、どうしても遊びがあったように記憶しておりますが)、しっかりとチェックもしてもらい、いざ発車へ。
ジェットコースターとしての魅力はあまり感じないものの、やはりあのスタートを待つ瞬間はドキドキするものです。そして、笑っちゃうぐらい凄まじい加速であることは承知していますから、頭をヘッドレストにしっかりと付け、背中も背もたれへ付けておりました。
いざ発車(発射?)し、やはりの加速に改めて感動した‥次の瞬間。
凄まじい振動が襲ってきたのです。
まだ最初の直線であるにも関わらず、身体が左右前後に揺さぶられ続け、頭を左右後ろに連続で打ち続けられる状態。首も痛い。どうにかしようにも、どうしようもありません。
完全にパニック状態になり、身体をあちこちに引き寄せようとしたり踏ん張ったり逆に力を抜いたりと試みるも無駄。気が遠くなりそうになり、本当にまずいんじゃないか、と思うと心底恐ろしくなりました。
結局、そのままブレーキがかかるまで終始頭をヘッドレストに打ち続けました。
降車後に友人に顛末を訴えたのですが、二人とも特に異常はなかったそうです(前後は忘れてしまいましたが、友人2人と私1人に別れた状態で同じライドに乗っていました)。
歳じゃないか(31歳です)、等と茶化され、せっかく楽しみに来たのに事を荒立てても、とも思ったので特に申し出たりはしませんでした。
2、3日頭と首が痛かったものの回復し、何事もなく過ごしております。
しかし、この記事を読ませていただいたことで疑問が再び湧き上がり、どうしてもコメントせずにはいられなくなってしまいました。
(富士急ハイランドさんに今からどうこう言うつもりは全くありません。その場で言わない私が悪いですし)
もし宜しければ知恵を拝借したいのですが、
①頭と首をひたすら打ち続けるような事態はどのように起こり得るのか(あれだけの苦痛があるならば同乗した人にも何かあるのでは?と思うのです。ということは、例えば私のシート(椅子)だけ固定が甘い、等は考えられますでしょうか?ハーネスの固定に問題はないと思うのですが‥)
②また、やはり体力の衰えなども関係してくるのでしょうか(そう考えてしまうと、私よりも体力のなさそうな小さな子供やお年寄りが多数怪我をしてしまう?気がします)
長々と申し訳ありません。
よろしかったらで結構ですので、ご返信頂けたら幸いです。
今後も面白い記事を楽しみにしております♪
近藤様
コメントありがとうございます。
なるほど、そう伺いますと、振動が原因の可能性もありそうですね。
ド・ドドンパは、横2名で1両×4両+先頭車両で、5両編成です。それぞれは、3軸に回転できる連結部で接続されていますので、少なくとも車両が横や前後、ねじれ方向に傾くような揺れはほとんど伝搬しません。ですから、ご友人と異なる車両に乗車されていますと、揺れの状況が大きく異る可能性があります。
加えて、ド・ドドンパは車両がちょっと特殊な構造をしていまして、車両ごとに連結部だけではなく、ダンパーも介して接続されています。
この画像の、車両間に見える白いバーがダンパーです。これによって、上下左右いずれの振動も、車両間を伝達する際に減衰するようになっています。しかも、特定の車両で発生した振動も、他の車輌が同じ位相で揺れてさえいなければ、減衰してくれるようになっています。ですので、特定の車両だけ揺れが周囲の車両と異なる可能性はありますが、その車両だけ極端に大きく揺れるという状況は考えにくいです。
もう一点気になるのは、ヘッドレストに頭を打ち付けられたということで、確実に前後方向の振動が発生していることです。前後の揺れ方としては、前後方向の回転と加減速があります。このいずれも、連結部を介して前後に伝搬しますので、大なり小なり前後でも同じような揺れが発生します。特に前後に傾くような回転方向の揺れは、仮にあったとすればテコの原理で前の車両ほど大きく揺れるようになります(これが理由で、大きな回転方向の揺れは発生しにくいです)。3名の方が1名と2名に分かれて乗車される場合、1名の方が先頭に乗車されるとは考えにくいので、それより前に誰かが乗車しているはずで、その方は近藤様より大きな振動を感じていることになってしまいます。特にこのコースターの場合、回転軸がほぼ車軸上にありますので、前後方向に傾きを発生することはほぼ不可能です。また、車両全体の加減速方向の揺れは、ほぼ100%前後に伝搬します。ですので、こちらも他の方は同程度の振動を感じているはずです。
前後の揺れとしては唯一、右側が前に出て左が後ろに下がって、続いて右側が後ろに下がって左側が前に出て、という揺れ方のみ前後の伝搬が弱いです。ただ、こちらも前述の通り、連結部以外にダンパーで前後の車両が接続されていますので、通常のローラーコースターよりも伝搬しやすくなっています。かつ、そのダンパーによって振動が減衰されます。ですので、極端に大きな振動が継続するとは考えにくいです。ただ、あえてダンパーを入れているのがちょっと気になるところで、設計あるいはテスト段階でそういった振動が大きく出てしまって、それを抑制するために入っているような気がします。ですので、そういった振動はおそらく存在していて、あとは程度問題だと思います。
一車両のみ継続的に大きな振動をするためには、タイヤが少し歪んでいるとか、車軸がほんの少し曲がっているとか、そういうレベルの異常が起きている必要がありそうです。乗車する位置が偏ることによる車重の偏りがあったとしても、もともと5両編成で4トンという重さですし、タイヤもゴムタイヤですからそれほど影響があるとは考えられません。ですので、車両に問題を求めるなら、何らかの異常があったことになりそうです。
車両ではなく身体的なことが原因となると、私は全くの専門外となってしまいますので、要因を絞りきれていないかもしれません。
ド・ドドンパは、通常でも下記の動画のように一定の振動があります。この動画では、カメラの振動を抑制する何らかの機構が使われていると思いますが、それでこの程度の振動です。
https://www.youtube.com/watch?v=XXGKrIE5tq4
ただ、通常のローラーコースターに対して極端に大きい振動ではありません。
こうした状況で、近藤様だけ前後の揺れを含む様々な揺れを感じられたということは、気づかないうちに前方向に体を動かすような力が入っていたのではないかと思います。ド・ドドンパは、最初に急加速をする際は強烈に後ろに押し付けられますが、加速が終わった段階でその力が突然抜けます。ですので、無意識のうちに急加速に逆らうような力が入っていますと、このタイミングで前向きに体が浮いてしまいます。ついでに、その直後に「ゼロGフォール」がありますので、ここで重力も抜けて体がこわばるおそれがあります。
頭が浮いた状態で力が入っていますと、やはり振動によって頭を打ち付けるような動きであったり、左右に振られるような動きになる可能性は高いです。あのハーネスは、ある程度肩周りを浮かせることができますので、その状態で体が硬直するほど力を入れていると、振動をモロに受けて(場合によっては大きく増幅して)、頭を打ち付けるような動きになってしまいそうです。ハーネスの形状的には、座高が低く、かつ細身の方(特に肩周りや胸板が薄い方)ほどそうなる可能性が高そうです。あるいは、お腹周りが大きく、かつ肩周りが小さかったり、太ももや骨盤周りがかなり大きかったりしますと、そもそもハーネスで十分に押さえつけられない可能性もあります。また、首が長い場合も振動を増幅する要因となり得ます。
ですが、力を入れられたり抜いたりされたとのことで、それでも頭が浮いてしまう理由はよくわからないです。速度が高くて風圧がすごいので、無意識にそれに対抗するように力が入ってしまうのか、あるいは力を抜いたつもりでも、最初の加速度に対抗する力を抜ききれていなかったのか。
体力の衰えも多少は関係する可能性があります。頭がシートから浮いていても、筋肉が振動を吸収する事ができれば、多少は頭を打ち付けるような動きも軽減されます。どうしても緊張で力が入ってしまう場合には、力を入れた状態でどれだけ余力があるかが重要です。無意識の緊張でフルパワーになることはあまりありませんので、若干の余力があります。その余力がどれだけ振動を吸収できるかにかかっているように思います。小学生くらいですと、まだ身体の使い方を脳が理解していなくて、筋力を使い切れていなかったりしますし、身体の柔軟性も高いです。50代60代の方は、そもそも乗車率が低いというのもありますし、もしかしたら筋力が緊張する要因に対する感受性が低下しているのかもしれません。が、おっしゃる通り怪我をしやすい可能性はありそうですので、体格等との複合要因かもしれません。
以上を踏まえますと、身体的なところと、車両の振動との複合要因だったのではないかと思います。
これが仮に頸椎捻挫につながるレベルだとしましたら、それを防ぐ方法は以下になるのではないかと。
・ダンパーの減衰特性変更
・シャーシ周りを、左右輪が独立回転軸を持つ形から、ボギー軸へ変更して、車軸と車体の間にダンパーを入れる(ただし、カーブのレール敷き直しが必要になる可能性大)
・車体の重量を変更して振動特性をいじる(まず無いとは思いますが、共振が原因だった場合)
・肩周りが浮かないハーネスに変更、もしくは頭を押さえるハーネス開発
いずれにしましても、車両変更はほぼ必須の状況だと思いますので、停止は長期化しそうです。
大変参考になるコメント、ありがとうございました!
今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。
ricebag様
丁寧なご返信を頂きありがとうございます!
そもそもが5両編成なのですね!
「ジェットコースター」は4人乗り1両、という思い込みがありました。
また、振動の伝播の仕方等を解説頂き大変参考になりました。あまり物理の観点等からジェットコースターの事を考えたことがなく、ただただ面白いから、という理由で親しんできた身にとって、今回のことは大変勉強になりました。
確かに、予想以上の振動にびっくりして身体が硬直して事態が悪化した、というのも一因としてありそうですね(疲れていたのかもしれません)。
僕が小学生の頃に旅行で河口湖を訪れたのですが、インターの側に聳え立つFUJIYAMAの外観に一目惚れし、それを「芸術」だと認識しました(ジェットコースターなんて恐怖の対象であったはずなのに、人間はここまでヤルのか、という謎の嬉しさが‥)。
実際に乗る勇気がでたのは中学生になってからなのですが‥
そんな素晴らしい体験をさせてくれる富士急ハイランドが、ずっと皆に愛される遊園地であることを願ってやみません。
今後も興味深い記事を楽しみにしております。
どうもありがとうございました!!
近藤様
ご返信ありがとうございます。
そうですね。車体要因に加えて、人的要因が重ならないと、なかなか怪我、あるいは怪我寸前の状態には至らないかな、と思います。
ただ、忘れてはいけないのは、少なくとも乗車できる条件の方が、多少身体が硬直したり、頭を持ち上げた程度で怪我をするような設計はあってはならない、ということです。古いコースターには振動がヤバいものもありましたが、少なくとも現代的なコースターは安全に楽しめるべきです。乗客が変な動きをしても大丈夫なようにハーネスがあるわけですし、ハーネスに適合しない人を弾くために乗車制限があるわけなので。一昔前と違って、「運が悪かった」で怪我をすることは許されない時代ですから、富士急の問題なのかS&Sの問題なのかはわかりませんが、きちんと対処されることを願っています。
FUJIYAMAは本当に美しいですよね。私も中央道の支線を通るたびに、あの美しさに興奮します。実際に行くと、ええじゃないかとか高飛車とかを優先してしまうんですけどね。