うつ伏せの恐怖【アクロバット】 ー ナガシマスパーランドのローラーコースター

2018年7月21日



こんにちは、ricebag(@ricebag2)です。

この記事では、三重県桑名市にある遊園地「ナガシマスパーランド」の人気ローラーコースター「アクロバット」のレポート兼レビューをお届けしていきます。

日本初導入(厳密には違うのですが、そこは後ほど詳しく)の「うつ伏せ」で飛ぶように疾走するコースター。アクロバットの次の年に導入されたUSJの「フライング・ダイナソー」は同じメーカーの兄弟機です。

うつ伏せならではの恐怖を味わえる、スリリングなコースターですよ。

 

アクロバットの評価

 

爽快感:      ★★★★☆

振動の少なさ:   ★★★★☆

スリル:      ★★★★☆

コースレイアウト: ★★★★☆

楽しさ:      ★★★★★

総合得点:     88点

 

 

1. うつ伏せコースターの歴史とアクロバットの概要

アクロバットを遠くから。遠くから見ると、何の変哲もないインバーテッドコースターに見えますね。

1.1 うつ伏せ型コースターの黎明期と事故 ー 日本でうつ伏せ型はタブーだった!?

さてさて、アクロバットはうつ伏せで乗るタイプのコースター。これを語るには、世界と日本のうつ伏せコースターの歴史を語っておかねばなりますまい。

「鳥のように空を飛ぶ」というのは人間の長年の夢でした。飛行機という形で一応実現を見たものの、未だに生身でその爽快感を味わう方法というのはなかなかありません。

もちろんハンググライダーなどの方法もあるにはあるのですが、これをさらにお手軽に、遊園地で大衆が乗れる規模にまで落とし込んだのが「うつ伏せ型コースター」。

 

世界初のうつぶせコースター(英語ではflying coasterと言います。カッコいいですね)は、おそらくイギリスのマンチェスター、Granada Studioというところに設置されたSkytrakというもの。

1997年に導入されて、1998年に正式稼働したのですが、1998年にGranada Studioが閉鎖されてしまったという残念なコースターでした。

これは立った状態でライドに乗り込み、背中からハーネスで抑え込んだあとでライドが前に傾き、腹ばい状態になるというもの。

 

その他にも、2000年頃までは筒型のライドに乗り込む手作り感満載のものなど、なかなかカオスなうつ伏せコースターがいくつか開発されます。

 

こうした黎明期、日本にもうつ伏せ型コースターが導入されました。目新しいものに飛びつきがちな日本の遊園地といえば、そう「富士急ハイランド」です。

導入されたのは「フライングコースター・バードメン」というもの。

2000年7月のオープンでした。記録が見つからないのですが、おそらくZamperla社製か、あるいは日本の豊永産業(Zaperlaの輸入代理店でもあります)が開発したものだと思われます。

やはり前向きに立った状態でライドに乗り込み、背中からハーネスで押し付けられた上で、前に傾いて走行するタイプ。

コースレイアウト的には大きなドロップもなく、ただ爽快感を演出しているだけのものでした。

ですが、2001年5月に車両が急停止、背骨骨折に至る事故を起こしてしまいます。うつ伏せで乗っている状態って、急ブレーキをかけてしまうとその衝撃をすべて背骨で受け止めてしまいますので、かなり危険なんです。

その後はライドをぶら下がり式の、座って乗るタイプに変更し、「リサとガスパールのそらたびにっき」として営業されていました。

そんなわけで、日本におけるうつ伏せ型コースターの導入は長年タブーとなり、時間が止まってしまいました

 

1.2 うつ伏せ型コースターの本格普及機と2大メーカー

その間にも、世界のうつ伏せ型コースターはどんどんど進化していきます。

2000年頃から、Vekomaという会社が大型うつ伏せコースターを開発、世界展開を開始。

Vekomaというのは、日本では那須ハイランドパークのF2、鈴鹿サーキットのブラックアウト、グリーンランドのニオーなどで知られるインバーテッドコースターや子供向けコースターを得意とするメーカー。

アメリカのCalifornia’s Great Americaに2000年に設置されたステルスを皮切りに、2001年までに3機が製造されました。うち2機は移設されていますが、3機ともに現在も稼働中。

このタイプの特徴は、まず後ろ向きコースターのようにプラットホームに止まっているライドに、通常通り座って乗り込み、安全ハーネスを降ろします。その後、座席が後ろ向きに90°倒れて仰向けの状態になります。

そのまま後ろ向きに進み始め、チェーンで引っ張り上げる最初の坂を登り、頂上で180°ひねりが入り、ようやくうつ伏せになる、というもの。

意外と仰向け状態で走行するパートも多く、仰向けなんだかうつ伏せなんだかようわからんコースターです。

仰向け状態だとレールも見えず、頭から後ろ向きに叩き落とされるような感覚になるので、かなり怖いはず。

 

その他に、うつ伏せ型コースターに力を入れているメーカーがあります。それがスイスのBoliger & Mabilard、通称B&M社。

日本では、USJのハリウッドドリームザライドや、姫路セントラルパークのディアブロ、志摩スペイン村パルケエスパーニャのピレネー、エキスポランド(閉園)のオロチなどで有名なメーカーです。

海外では、最高速度でスチールドラゴン2000に並び、高さでスチールドラゴンを上回ったFury325などでも知られている超有名一流メーカー。時代の先端を行く滑らかな乗り心地と、激しいループエレメントやオリジナリティあふれるギミックが魅力のメーカーです。

そんなB&Mが開発したのは、ぶら下がり式コースターのようなライドの座席に普通に座り、出発前に座席が90°傾いてうつ伏せになるタイプのコースター。こちらは出発時からずーっとうつ伏せなんです。

2002年頃から各地で導入が始まりますが、この当時は比較的小型で高さも20~30 m程度の機種。アメリカの大手遊園地チェーンSix Flags系列などが積極的に導入を進めていきました。

その後、2006年Six Fags Magic MountainのTatsuを皮切りに40~50 m級の導入も始まります。

 

1.3 アクロバットの概要

園内側から見たアクロバット。コースは手前側と奥側の2つのパートに分かれています。

さて、ナガシマスパーランドが導入できるアイデアに溢れたコースターで、かつ開発費を押さえられるもの。それでいて富士急ハイランドは絶対に導入できない、圧倒的なアイデンティティを示すことができるコースターを導入しようと思ったら、必然的にうつ伏せ型コースターを導入することになります。

実際にナガシマがそんな事を考えたのかどうかは知りませんが、海外では安全性も実証されていて、システムも成熟期に入っていましたので、ある意味導入は必然だったのかもしれません。

 

ナガシマスパーランドが2015年に導入したアクロバットは、2009年にシーワールド・オーランドが導入したマンタと全くの同型。

なんと途中にある噴水の演出まで揃えていますので、本当に全く同じものを輸入してきたことになります。

オーランド版はマンタをテーマにしていますが、こちらはアクロバットのバットにコウモリの意味をかけていますので、ライドの装飾がコウモリ風になっているのと、レールの色くらいしか違いがありません。

B&Mのうつぶせタイプの中ではやや大型で、高さ43 m, 最高速度90 km/h, 全長1,021 mというスペック。ライドは横4人乗り×8両編成です。

うつ伏せタイプは乗り降りに時間がかかり、ライドの長さの割に一度に乗車できる人数も少ないためハケが悪いことが課題の1つでした。このため、このタイプはプラットホームを2つ用意。さらに、オーランドのテーマパークらしく途中にブロックブレーキを備えているため、最大4車両体制で運行できるすぐれものです。ナガシマは繁忙期でもここまでしないですけどね。

日本では、東京ディズニーランドのビッグサンダー・マウンテンがこんなシステムを採用して、ものすごいスピードで乗客を回転させていますよね。

 

こんなすごいコースターなのですが、ナガシマの目論見は外れて、残念ながらアクロバットが長期に渡って話題をかっさらうことはありませんでした。

というのも積極投資を続けるUSJが翌年、2016年に同じくB&Mのフライングコースターのシステムを採用した「ザ・フライング・ダイナソー」をオープンさせてしまったのです。

しかも完全な後出しジャンケンで、スペックは高さ・速度ともに上積み。さらにさらに、エレメント的にもより激しいループ等を追加しています。

本来、巨大テーマパークはものすごく安全よりの思考をしますので、日本で事故のあったフライングタイプを導入するとは考えもしないでしょうから、ナガシマは驚いたことでしょう。見事に話題は全部あっちが持っていっちゃいました。

 

 

2. アクロバットの乗車レポートと楽しみ方

巻き上げられていく車両とアクロバットの入り口。この入口からもさらに少し歩きます。

アクロバットはかつて駐車場だった場所に造られていますので、園内でもやや奥まった場所にあります。

入場後、一旦嵐方面へと向かい、そこからスチールドラゴンの下をくぐって左へ向かうと見えてきます。

乗り場はコースの中央にありますので、これまたやや遠いのですが、頑張って歩きましょう。

 

乗り場に到着して人数を告げると、まずは乗車列の指定を受けます。その列とおなじ番号のロッカーに手荷物、ポケットの中のもの、帽子、メガネ等はずせるものはすべて外して預けます。もちろん鍵付き。

その後、金属探知機による検査を受けて、いよいよプラットホームへ!

 

前述の通りぶら下がり型コースターのようなライドに乗り込み、U字型のハーネスを降ろしてきます。

すると、足にまでハーネスがあって、ガッシリ固定されてしまうのはこのタイプ特有。ややSMチックです(笑)

出発の準備が整うと、「このコースターは、うつ伏せで~す」のアナウンスと共に、頭の上を支点にして足が後ろに持ち上げられるような形で、うつ伏せ状態になります。

この状態になったら、前を見てはいけません。椅子に座った状態でうつ伏せになると、どんな格好になるかわかりますよね?

そう、前には四つん這い状態のおっさん(とは限りませんが)がいるのです。なかなか恥ずかしい格好のまま出発!

 

出発したら、まずはお隣のプラットホームからのレールと合流し、チェーンでの巻き上げです。

まっすぐ一気に高さ43 mまで上昇。

すぐさま右方向に旋回しながらファーストドロップです。

巻き上げが終わったら、溜めることなくいきなりドロップです。ドロップは右旋回。

B&MにしろVekomaにしろ、インバーテッド(ぶら下がり型)コースターでは一般的な旋回しながらのファーストドロップがここでも採用されています。

なぜインバーテッドやフライングタイプが必ずこういうドロップを採用するのかは、個人的には長年の謎です。

インバーテッドは山の凸部分を通過するときに回転半径が小さくなるので、ふわっと浮き上がるようなエアタイム(浮遊感)を感じにくいという特徴があります。なので、ドロップでのエアタイムを一切諦めて土地の節約を最優先しているのか、シュワルツコフカーブ的なGコントロールを目指しているのか。

いずれにせよ、この右に旋回しながらのファーストドロップは、まさに鳥になったような感覚でとっても気持ち良い!

 

ファーストドロップ後はゆっくりとした坂を登り、突然ダイブ。

真っ逆さまに落下したかと思えばそのまま仰向けに。ループをひっくり返したかのようなエレメントを通過します。

ここが怖い

頭から落下してそのままひっくり返り、仰向けの状態で強烈なGを受けることになります。仰向けのお腹に上からくるGというのは慣れませんし、頭からの落下も怖いのです

そのままループの残りを通過して再びうつ伏せに戻っていきます。

B&M社お得意のプレッツェルループと呼ばれるエレメントです。

プレッツェルループ。左下からゆっくりした坂を登り、いきなりダイブ。仰向けになったかと思いきや、再びグルっと回ってうつ伏せに。このコースター一番のスリルポイントです。

 

このあとはただひたすらに気持ちの良い飛行が続きます。

まずは左に旋回し、そのままの勢いでインラインループ。レール自体はほぼ真っすぐでねじれているだけ、といったようなエレメント。鳥が飛びながらきりもみ回転するようなイメージですね。

ループと言いつつ左旋回状態から仰向けを経由して右旋回状態に移るだけですので、実質180°ちょっとのループ。

その後、右旋回へと移っていきます。

うつ伏せ状態かつ高速で旋回しながら飛んでいくのは、本当に気持ち良い!

 

プレッツェルループを超えたら、左旋回しながら写真奥側へ。そこで半回転のインラインループを通過し、右旋回。プレッツェルループの中を通ったらコークスクリューに入っていきます。

 

続いてコークスクリューを1つ超えます。回転方向は先程とおなじ反時計回り。

コークスクリューはインラインループと違い、コース自体も上下左右に動きながらのひねり回転です。ワインの栓抜きのようなコース形状のこと。

シュッと回転するインラインループと違い、少しだけふわりと放り出されるような感覚があります

 

そのままプラットホームの上を超え、ブロックブレーキを通過して次のゾーンへ。

ブロックブレーキを設置することで、ここを前のライドが通過してしまえば、次のライドを発車させたあとに前のライドに何かあっても、次のライドはここで止めておくことで追突を防止できます。

ライドの回転率を上げるための仕組みなのですが、このブロックブレーキがやたら長い!

常に高速で疾走感のあるフライトを楽しめるこのコースターの、唯一の中だるみポイントです。

おそらくバードメンの事故を受けて、急ブレーキをそもそもかけられないような設計にしているためにブレーキに長距離が必要になるのではないかと想像しているのですが、本当かどうかはわかりません。

 

続いて、少しドロップしたら右に大きく270°ほど旋回。ここでコースターに同期して噴水の演出が行われます。まさにフォトポイント。SNS映えってやつですね。

そのまま今までとは逆向き、時計回りのインラインループを越えて、左に旋回したらブレーキゾーン。

減速後、左に90°曲がってプラットホームに戻ってきます。

後半パート。画面奥からやってきたライドはドロップして水面スレスレを右旋回。ここで噴水の演出もあります。右に270°旋回したら時計回りのインラインループを通過し、左に90°旋回、ホップアップして終了。

 

シート位置は選べませんが、体感上楽しいのは、やはり飛んでいるような感覚に一番近い真中付近の座席。

先頭は視界がひらけて気持ち良いですし、後方はプレッツェルループで恐ろしい引きずり込まれ感を味わえますので、それぞれの座席に良さのある、良いコースターです。

 

コースレイアウト的には、最初のドロップ以外のエレメントに、ほとんど高さがないことも特徴的。

これは全体をハイスピードにまとめるためで、ほとんど速度を落とすことなく、気持ちよく飛んでいるような感覚を味わえます。

VekomaとB&Mの2大インバーテッドコースターメーカーを比べると、やはりVekomaは比較的高さのあるダイナミックなエレメントが多く、B&Mは低いエレメントで爽快感や疾走感を大事にしているんです。

見た目にはショボく見えてしまいがちですが、乗って楽しいことを最大限に重視した結果と言えるのではないでしょうか。

 

 

3. 遠方からでも乗りに行く価値あり! ナガシマに行こう!

てなわけで、人間にはありえない動きで恐怖心を感じるのは、プレッツェルループのみ。

その他はひたすら気持ちよく飛んでいるような感覚で、まさに鳥になったような感覚を味わえる、とっても爽快なコースターです!

兄弟機のザ・フライング・ダイナソーが恐怖心を煽るようなエレメントを中心に配置しているのに対し、アクロバットはフライングタイプならではの爽快感を重視しているというような違い。どちらがよりうつ伏せのメリットを生かしているかと言われれば、間違いなくアクロバットでしょう

話題を奪われてしまいましたが、それでもこのコースターの素晴らしさは色あせません。

わざわざこの機種のためだけにナガシマに行く価値がある、しかも実際にはナガシマには他にも素晴らしい機種がたくさんある。というわけで、ナガシマに乗りに行きましょう!

ちなみに、風に弱いスチールドラゴン2000と違い、こちらは高さがそれほどありませんので、少々の風なら問題ありません。雨も上がってしまえばすぐに試運転を開始しますので、比較的悪天候には強いです。

 

というわけで、ナガシマスパーランドは遠方からでもわざわざ行く価値のある遊園地。

ですが、隣接するホテルを除くと、近隣に宿泊施設は少ないんです。

ということで、やはり便利なのは新幹線等で名古屋まで向かい、名古屋の中心部に宿泊、名古屋駅からのバスでナガシマスパーランドへと向かう方法。

こうすれば、名古屋観光も組み合わせることができますしね。

個人的には、モリコロパークにある「サツキとメイの家」なんてあわせて行くのにおすすめです。

 

さて、そんな名古屋宿泊ですが、大手旅行会社のツアープランを使うと比較的安く行けたりします。

例えばHIS名古屋地区のツアーなんて安くてオススメですよ。

リンクは首都圏出発にしていますので、違う地域にお住まいの方は、ページ一番上の「地域変更」からお住いの地域をご選択ください。

 

名古屋駅からナガシマスパーランドへは、毎日、朝なら10分間隔でバスが運行されています。

駅からナガシマスパーランドのゲートまで座ったまま行けますので、とっても便利ですよ。

 

 

4. 次に読むのにオススメの記事

遠方からナガシマスパーランドに向かわれる場合は、気になるのは当日のお天気ですよね。

実は、ナガシマスパーランドは当日悪天候になってしまっても、意外と楽しめる場合があるんです。

そんなお話を以下の記事に書いていますので、遠方からの方、行ける日程がどうしても限られてしまう方は、ぜひご参考に!

 

ナガシマスパーランドにあるアトラクションのご紹介は、以下の記事で行っています。

大型コースターについては別記事へのリンクもありますので、ぜひご参照ください。

 

その他、国内外の遊園地に関する記事、ローラーコースターに関する記事は以下のページにまとめています。

こちらからご希望の遊園地やコースターをお選びいただき、個別記事をご覧ください。