ド・ドドンパにアップダウンが少ないのはなぜか ー 富士急ハイランド「ド・ドドンパ」レビュー
こんにちは、富士急ハイランドには空いている日に行くので、FUJIYAMAや高飛車は何度も乗車するのですが、ド・ドドンパは2回以上乗ることがないricebag(@ricebag2)です。
ド・ドドンパは加速一発勝負で、あとはおまけみたいなもの。長い割に単調なコースレイアウトなので、1回乗ると満足してしまいますよね。
なぜド・ドドンパのコースレイアウトはこんなにも単調なのか、乗車レビューもあわせながらご紹介していきます。
爽快感: ★★★★☆
振動の少なさ: ★★★☆☆
スリル: ★★★☆☆
コースレイアウト: ★★☆☆☆
楽しさ: ★★★☆☆
総合得点: 75点
1. 世界一の加速のために、様々な犠牲を払っている
ド・ドドンパといえば、やはり圧縮空気によるロケットスタートが魅力です。
様々な加速方式の歴史と特徴については、以下の記事にまとめていますので、そちらをご覧いただくこととしまして。。。
比較的新しい急加速コースターは、いわゆる「リニアモーター方式」を採用しています。これは低速域から高速域までリニアに(リニアモーターのリニアは、ここで言う「加速がリニア」とは無関係です)、同じような加速度でグーッと加速していくのが特徴的。
一方で、圧縮空気を用いるド・ドドンパは、低速域でアホみたいに(褒め言葉です)ドカンと加速して、高速域は緩やかに伸びていきます。この低速域の爆発的加速は、ド・ドドンパでしか味わうことができない、大きな特徴です。
その加速度も圧倒的。停止状態から180 km/hまで1.56 秒で加速します。もちろん世界一(2020年4月現在)。
おそらく、この加速度は破られようがないでしょう。それほどに圧倒的な加速です。
ちなみに、油圧方式の代表格、フェラーリ・ワールド・アブダビの「Formula Rossa」は240 km/hまで4.9 秒、リニアモーター方式でド・ドドンパと同じ180 km/hまで加速する、フェラーリ・ランド(スペイン)のRed Forceは5.0 秒かかります。
これらと比較すると、ド・ドドンパの加速がいかにおかしいか、おわかり頂けるかと思います。
さて、この加速力へのこだわりこそが、ドドンパのコースレイアウトが単調になってしまった要因です。というのも、圧縮空気方式のコースターにも、実はちょっと複雑なコースレイアウトを有するコースターもあるのです。
ドドンパはS&S(現在は三精輸送機に買収されて、S&S Sanseiになっています)社製。同じS&S製の圧縮空気方式は、2010年代に中国の遊園地チェーン「Happy Valley」に3機導入されています。これらはいずれも同型で、最大高低差60 mのアップダウンを5回ほど繰り返しながら、複雑なターンをしています。
他にも、特殊ループタイプや既存コースターの改造版など、様々なタイプが存在します。
しかしながら、いずれも早くて160 km/hまで2秒程度。やはり他の加速方式と比べると加速度が大きいのですが、ド・ドドンパのぶっ飛び具合と比べると控えめです。
複雑なコースレイアウトを有する圧縮空気方式のコースターと、ドドンパには乗車人数やライド形状など様々な違いがありますが、複雑コースレイアウトタイプは、ドドンパと同じ8人乗りでも160 km/hまで2秒止まり。
160 km/hまで2秒と、180 km/hまで1.6秒の差を生じる原因は、レールを見るとわかります。複雑コースレイアウトタイプは、断面が円形のレール。これに対して、ドドンパは平べったいレールを使っています。
レールの形状が違うのは、ライドの車輪が違うから。円形レールは、金属車輪の周りに直接ウレタンゴムを巻きつけた、通常タイプのもの。一方、ドドンパは空気を入れたゴムタイヤ。自動車タイヤの小型版みたいなイメージです。
車輪の設計には、思想の違いが明確に現れます。
例えば、急加速や急減速、急カーブが基本的には存在しない鉄道の場合、エネルギーロスをできる限り減らし、摩耗も防ぎたいことから、摩擦係数の小さい鉄の車輪が用いられます。
一方、緊急回避のために急減速や急ハンドルを行うことのある自動車の場合は、エネルギーロスよりもグリップを重視して、摩擦係数の大きいゴムタイヤを使います。
一般のローラーコースターに用いられるウレタン巻きの車輪は、ゴムタイヤと金属車輪の中間のようなイメージ。激しい動きをするローラーコースターに金属車輪を用いてしまうと、走行中に車輪がレールの動きに追いつかずに、車輪がレールの上を転がるのではなくが滑る形になってしまい、走行抵抗が増加する恐れがあります。一方でゴムタイヤにすると、滑ることはありませんがそもそもの走行抵抗が大きくなってしまいます。
走行抵抗が大きいと、すぐに減速してしまうのでコースが短くなったり、アップダウンの回数が減ったりセカンドドロップ以降の高さが低くなったり、といった問題を生じてしまいます。
そんなわけで、ローラーコースターを作るのに適度な摩擦をもたらしてくれるのが、ウレタン巻きの車輪なのです。ちなみに、通常のローラーコースターのレール断面が円形なのは、おそらく車輪との接触面積を減らすため。ウレタンが平たいレール全面にくっついてしまうと、抵抗が大きくなりすぎるのだと思われます。
これでもうほとんど答えを書いてしまいましたが、念の為にド・ドドンパのお話もしておきます。
ドドンパがゴムタイヤを採用したのは、もちろん圧縮空気による爆発的な加速に耐えるためです。爆発的な加速によって車輪が滑ってしまわないようにするためには、ゴムタイヤを使わざるを得なかったのです。
逆に言うと、ゴムタイヤを使わなければドドンパ級の加速度には耐えられません。S&Sがゴムタイヤの採用をやめて、ウレタン巻き車輪を使うようになった現在となっては、ドドンパ以上の加速度のコースターは、何らかの技術革新が無い限り現れようがないのです。
その一方で、ゴムタイヤと、接地面積の大きい平らなレールを採用したことで、転がり抵抗が大きいために走行中に著しく減速してしまいます。したがって、大きなアップダウンを繰り返したり複雑にカーブをしたり、といった距離が長くなる動きはできないのです。さらに、前半は速すぎるために、急な動きをすると乗客に負荷がかかりすぎてしまいますので、ゆったりとしたドロップ(ゼロGフォール)や大きなカーブしか作ることができなかったのです。ゴムタイヤに負荷をかけすぎると、接地面積が増えて走行抵抗が増す、というのも関係しているかもしれません。
いずれにせよ、ドドンパは加速度とスピードにすべてをかけて、それ以外のコースター要素をすべて犠牲にした、通常のローラーコースターとは一線を画す存在であることがわかります。
少しだけ蛇足を付け加えますと、加速度や最高速度を重視した急加速系のコースターは、巨大なタワーを登って降りるだけ、といったシンプルなレール構成のものが多いです。
一方で、例えば高飛車のような、加速度が低いタイプの急加速系コースターは、加速後に複雑なコースが配されています。
この違いも車輪の違いにあるのではないかと思っています。つまり、金属車輪の周りに巻いてある高分子材料が違うのではないか、ということです。加速度重視タイプでは金属との摩擦が大きいものを採用し、低加速度タイプは摩擦が比較的小さい通常のローラーコースターと同タイプのものを採用しているのではないかと考えています(素材の確認はできませんでした。すみません。。。おそらく、車輪のメンテ周期等に違いが出ていると思うので、それだけでもわかれば良いのですが…)。
話をドドンパに戻しますと、乗車人数も加速度のために犠牲となっています。1車両に乗車できるのは、わずか8人。これは、純粋に車両重量と加速度が反比例の関係になってしまうためです。
更に、1台発射するごとに約1分の間隔が空きます。これは複雑かつ大きなハーネス装着・チェックの影響もあるかと思いますが、圧縮空気充填にも課題があります。
通常のローラーコースターは、1代発車後、次の車両が発車できるまでの最短時間は、ブロックブレーキ間を通過するのにかかる時間で決まります。ブロックブレーキというのは、コース中に設置されるブレーキゾーンで、緊急時には車両を完全停止させることができます。ブロックブレーキで区切られた各ブロックには1車両のみが存在する状況を作ることで、ブロックブレーキさえ動作すれば絶対に追突しないようにできるのです。
ド・ドドンパの場合、発射後ブロックブレーキまでにかかる時間は30秒ちょっと。圧縮空気の充填が早くて、かつハーネス装着・チェックを高速で運用できれば30秒ごとに発射できるはずなのですが、現状ではそうなっていません。圧縮空気という加速度を重視したシステムを採用したために、客ハケが犠牲になっていると考えられます。
1分に8人ですと、1時間に480人。大型テーマパークの大規模ライドであれば、最低でも1,000人/時は捌きますから、かなり客ハケが悪いコースター、ということになります。これだけ体験できる人数を絞ってでも加速度にこだわった、1点突破型のコースターなのです。
2. 速度のために、敷地を犠牲にした
ド・ドドンパのスタート地点は、かつてスケートリンクや「ムーンサルトスクランブル」があった位置にあります。
プラットホームから90度右に曲がり、FUJIYAMAの長手方向とほぼ平行に急加速。急加速ゾーンにカーブは設けられませんので、驚くほど長い直線コースになっています。この直線のために、直線上にあったアトラクションは移設または解体されています。
加速直後の直線部にあるちょっとしたドロップ(ゼロGフォール)は、地形を生かしたエレメント。気持ちよく体がフワリと浮くのかと思いきや、加速の衝撃と大きな振動のせいで、ほとんど印象に残りません。あえてこのエレメントを意識して乗っても、「浮く」というよりは「なんか下ってるなー」という程度。がっかりエレメントです。
その後の大きなバンクターン部分は、モノレールやサイクルモノレールなどのアトラクションがあった場所。
小富士の周りを一周して、垂直タワー(現在は垂直ループ)を通過。
垂直タワーは旧ドドンパの鬼門でした。ここまでに相当な距離を走って、速度はだいぶ落ちています。その速度の落ち具合は風速・風向き・レール温度などによって変わってきます。さらに、初速は乗客の体重等によっても変わってきます。これらをすべて加味して、カタパルトの空気圧を決めなければならないのです。この予測が結構ハズレるので、速度が速すぎてタワー頂上で浮きすぎ、太ももがハーネスに押し付けられて痛かったり、逆に速度がおそすぎてタワー頂上で止まりそうなくらいにゆっくりになって浮きが弱かったり。稀にタワーを登りきれず、逆走する事態も発生していました。この速度調整が難しいのは、人間がマイナスGに耐えられないから。ええじゃないかの最下点でライドが上を向くのと同じ理由です。
ド・ドドンパへとリニューアルする際に垂直タワーを垂直ループへと変更したことで、基本的にはほぼフル加速で済むようになりました(体重や風による若干の調整は行っているようです)。オーバースピードで突っ込んでも、ループではマイナスGがかかることはないので、少し荷重が大きい程度で済むのです。更に、タワーのために速度を落とす必要がなくなったので、従来より加速度を上げられるようになりました。これによって圧倒的な加速度を実現しているのです。
ただし、タワーをループに変更した結果、大きなループではあるものの印象に残らないエレメントとなってしまいました。本当におまけ程度の存在になってしまっているのです。これもまた、加速度の犠牲となったエレメントです。
加速直線を加速時とは逆向きに並走しはじめます。このあたりまで来ると、もう速度はだいぶ落ちてしまっています。あとはちょっとホップして、ブロックブレーキで速度を落としたあと、90度左に曲がり、ゆっくりとしばらく走って右に180度ターン、ブレーキで終了。
ここに工夫を入れられず、ダレっとしてしまっているのは謎。ブロックブレーキが必要とはいえ、そこでスピードを落とす必要はなくて、そのままちょっとアップダウンさせておけば良いような気もします。それをせずに諦めてしまっているのは、見方を変えれば潔いと言えるのかもしれません。とにかく加速と速度にすべてを振り切ったアトラクションです。
このあたりのゾーンは、プラットホームと同様に、高飛車の敷地とあわせてかつてスケートリンク、ムーンサルトスクランブルがあった場所でした。
こうして大型アトラクションを3つは作れそうな場所を使い、さらにいくつものアトラクションを押しのけて、ようやく作られたのが、このド・ドドンパなのです。
そのあたりのスクラップアンドビルドの事情は、以下の記事で詳しくご紹介しています。
3. ド・ドドンパの正しい楽しみ方
そんなわけで、加速以外のほぼ全てが、加速の犠牲になっているド・ドドンパ。
ただひたすら、加速のためだけに作られているコースターですから、意識はすべて加速に集中しておくべきです。トンネルやカウントダウン、スタートまでの「溜め」も含めて、必然的に意識が加速へと集中するように作られていますから、必ずしも意図して意識を集中しておく必要はないかもしれませんが…。
その後の各種エレメントは、あくまで加速・速度を楽しんだあとのおまけ。それくらいの感覚で、スタート時の加速を楽しんだら、あとはあまりの凄まじい加速に笑ってしまいながら、余韻に浸りながらリラックスするのが良いのではないかと思います。
そうすると、思いの外大きいループでも驚きを感じられるかもしれません。
ちなみに、ローラーコースターが苦手な方にとっては、ド・ドドンパは最初の加速とループさえ我慢すれば、あとは高所もなければ大きなドロップもないコースターですので、巨大な絶叫マシンが多い富士急ハイランドの中では耐えやすい部類です。
ただ、その分、ローラーコースターの醍醐味も味わえず、ただ加速やループの恐怖に怯えるだけになってしまいますので、個人的にはFUJIYAMAか高飛車に乗っていただきたいところですが…。
ディスカッション
コメント一覧
いつも楽しく読ませて頂いています。ありがとうございます。
アフターコロナで、遊園地は再開できるのでしょうか?
再開できても、密を避けたりディスタンスを取ったりと、入場制限数が必要そう。
おっしゃる通り日本のチケットは安いだけに、存続が危ぶまれそうだと思うのですが。
いかがでしょうか?ご意見頂けたら嬉しいです。
Sabotenさん
コメントをありがとうございます。
私は感染症の専門家ではないので、なんとも言えませんが、一部のテーマパークを除けば園内通路等は「密」には当たらないと思っています。入場制限が必要なレベルの遊園地は、経営に比較的余力のあるばかりです。
アトラクションも、長くても10分程度の乗車時間ですから、いわゆる「濃厚接触」には当たらないと思います。状況は市中での他人との接触と大差ありません。
最大の問題は、アトラクションの乗車待ち行列だと思います。前後の人が固定されていて、距離も近いので、確実に濃厚接触になってしまいます。
長い待ちが発生するアトラクションでは、整理券配布等の対応を取らざるを得ないと思います。ただ、その場合にどこで時間を潰してもらうか、というのも難しい問題です。みんなが同じ場所で待つ状況になっては意味がありませんので。
大半のアトラクションは、完全収束するまでの期間でも、乗車ごとの手すり消毒程度で対応できると思います。
ローラーコースターなど、速度が出るアトラクションで、かつ絶叫するアトラクションでは後方に飛沫が飛びますので、ハーネスにフェイスシールドを付ける等の対策が必要になってしまうかもしれません。そうすると速度感、爽快感が減ってしまいますが…。
それ以外には、フードコート等の座席を間引きして、時間をずらして食事をしていただく等の対応も必要になるでしょうか。
こういった対応は、大都市圏の遊園地やテーマパークであれば、問題なく取ることができるレベルではないかと思います。
緊急事態宣言が解除されれば、徐々に再開していくことはできるのではないでしょうか。
経営上の問題は、2点あると思います。
1点は、休業していることによるダメージ。
ただ、遊園地の場合、飲食店などと比べると休業によるダメージは浅いと思われます。というのも、大抵の遊園地は土地が賃貸ではなく購入です。アトラクションについても変にリース契約等をしていなければ、基本的には買い切りです。減価償却でバランスシート上は悪化するかもしれませんが、キャッシュが減るわけではないので、運転資金が枯渇する可能性は低そうです。あとはどれだけ正社員を雇用しているか、また、アルバイトへの収入補償等しているかどうか、といった問題も関係してはきますが、本当に潰れそうな状況であれば、一時帰休等の制度を使うなどして雇用コストは抑制すると思われます。
そうなれば、休業のコストはそれほど大きくありません。欧米では冬季休業になる遊園地も珍しくありませんしね。
もう1点は、客足が戻らないことによるダメージ。
こちらは、緊急事態宣言が解除されてみないとなんとも言えないところです。
外出自粛の反動で、遊園地に多数のお客さんがやってくる事態も考えられますし、人混みを恐れて人々がやって来ない事態も考えられます。ここは、どれだけしっかりと対策をして、顧客に安心感を与えられるかどうか、各遊園地の取り組みに依存することになりそうです。
客足が戻らない要因は、もう1つ考えることができます。それは、コロナによる不景気で財布の紐が固くなり、お金がレジャーへと向かわなくなってしまうこと。リーマンショック以上の不景気がやってくると言われていますが、実際にそんな不景気が来てしまうと、地方の遊園地は複数消えることになると思います。特に特定の産業に偏っている地域の遊園地は危険です。
というわけで、私の意見では、怖いのは普通の不景気が来ることです。ただ、不景気で潰れる遊園地の場合、コロナでなくてもいつかは不景気がやってきて潰れてしまいますので、なにか手を打って生き延びて頂けることを祈るばかりです。
当サイトとしては、今のところはコロナが収まったら遊園地に行きたいな、と読者の方に思っていただくことこそが遊園地の応援になると思っていますので、ややギアを上げつつ平常運転を続けていきます。
若干ネガティブな内容になってしまいましたが、ご回答になっていますでしょうか。
今後とも当サイトをどうぞよろしくお願い申し上げます。
管理者: ricebag