抽象的な概念を、いかにわかりやすく教えるか ー 具体例の発想法



こんにちは、ricebag(@ricebag2)です。

この記事では、生徒がなかなか理解をしてくれない抽象的な概念を教える際には、具体例をあげることが重要だということ、さらにはその具体例をいかにして考えるか、発想の方法をご紹介していきます。

 

 

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抽象論は思考を鈍らせる

ここでいう抽象的なものごとというのは、例えば「方程式」のように見ただけでは現実世界との対応がわからないものや、「エネルギー」のように現実には存在しない人類が作り出した概念だけを指すのではありません。

「現実にありそうに見えて、実は状況がよくわからないもの」も抽象的なものに含んでいます。例えば力学でよく登場する「斜面と物体」しかり、英語の”This is a pen.”しかり。

学校教育では単純化した話題をよく使いますから、実はほとんどの場面で抽象的な概念を使っているのです。

 

こうした抽象的な概念を持ち出すと、人の思考は鈍ります。特にその概念に慣れていない初学者にとっては。

『科学をどう教えるか』という、大学での物理教育に関する本に良い例がありましたので、ご紹介してみます(問題の意図は同じですが、日本文化に合わせるために若干アレンジしています)。

全く同じ内容の問題を、抽象的に表現した場合と具体的に表現した場合で、どれだけ難易度に差があるのかをみてみましょう。

 

・抽象的な問題

片面にはアルファベット、反対側の面には数字が書かれた4枚のカードがあります。

現在、4枚のカードはそれぞれ「k」「2」「a」「7」という面を上にして置かれています。

これらのカードについて、「4枚のカードはすべて、片面が母音のとき裏面は奇数である」という命題が真であることを確かめるためには、最低何枚のカードを裏返せば良いでしょうか。

 

・具体的な問題

ある居酒屋では、アルバイトの店員が注文を取る際に、注文カードの片面に注文を、裏面には注文した人の(見た目の)年齢を書くようにしています。

その注文カードが厨房に届くと、店長が一度内容を確認し、アルコールを注文しているにもかかわらず未成年であることが疑われる場合には、店長がそのお客さんのもとへ身分証の提示を求めに行くことにしています。

アルバイトの店員は年齢の見定めがうまいので、店長は注文カードの裏に19以下の数字が書いてある場合のみ、身分証の確認をします。

ある時、お店には1人客が4人いました。アルバイトの店員がすべてのお客さんから注文を聞き取り、厨房へと戻ろうとした際に、カードを床面にばらまいてしまいました。

それらのカードは「16」「コーラ」「52」「生ビール」と書かれた面が上になっていました。

店長が身分証の提示を求めに行くかどうかを判断するためには、最低何枚のカードを裏返せば良いでしょうか。

 

2問目は、日本ではこのようなシチュエーションがないので、やや不思議な問題になってしまっていますが、それでもおそらくすぐに答えは出せますよね。

身分証の確認をする条件は

  • 未成年であること
  • 酒類を注文していること

の両方が満たされることですから、裏返さなければならないカードは「16」と「生ビール」の2枚になるわけです。

 

1問目は高校数学を学んだ方なら解けるはずの問題なのですが、それでもちょっと考えないと解けなかったのではないでしょうか。

命題は「片側が母音⇒裏面は奇数」です。このとき、他に成り立つ命題は対偶の「片面が偶数⇒裏面は子音」だけです。片面が子音だった場合には、裏面は奇数の場合も偶数の場合もあり得ますし、片面が偶数のときには裏面が子音の場合も母音の場合もあり得ます。

ですから、裏返さなければならないのは母音と偶数、つまり「a」と「2」の2枚なのです。

 

ちょっとわかりにくいのですが、これらの問題は全く同じことを問うています。

具体的な問題の方は、「未成年⇒ソフトドリンクを注文」という命題が真かどうかを考えている問題なのです。これを確認するために、対偶の「アルコール⇒成人」も確かめる必要がある、というわけです。

ですが、こんな数学的な操作をしなくても、上で説明したように「未成年かつアルコールを注文」が問題だと捉え、すぐに答えを導き出せてしまいます。

たとえ高校数学を教えている方であっても、数学的な思考はしなかったのではないでしょうか

 

数学的な思考を抽象的なまま、数学的に教えてしまうと、生徒は思考が鈍った状態で話を聞くことになってしまいます。

現実との結びつきも薄いので学ぶ意欲がわきませんし、抽象的なままぼんやりとした状態だと定着率も低下します。

そこで一度具体例をあげ、その具体例を抽象的な思考へと落とし込んでやる必要があるのです。

 

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具体例から出発すべし

小学校から大学の教養課程に至るまで、大半の課程では、現実の世界を大幅に「モデル化」したものを対象に学んでいます。

このモデル化によって、生徒の頭の中で「今学んでいること」と「現実世界」との対応がつかなくなり、学習内容を抽象的なものと捉えてしまうことに問題があります

ゆっくりと時間をかけて丁寧に説明すれば、テストの点は取れるようになるかもしれません。しかしながら、モデル化されたものを抽象的なものとして捉え、そのまま式の操作法なり解き方なりを覚えてしまっているだけで、問題の聞き方が変わると解けなくなってしまう恐れがあります。

 

この問題を解決する方法は、極めてシンプルです。

どのような現実世界を、どのような近似を用いて単純化しているのか、説明してあげれば良いのです。

 

例えば、今の教科書には掲載されなくなってきていますが、英語で一番最初に習う表現として有名な”This is a pen.”

どう考えても、現実で使う場面はありそうにない表現です。

唐突に「これはペンです」という表現を覚えろと言われても、何が何やらで学習意欲もわきません。

ですが、どんな会話で出てくる表現なのかがわかると、なんとなくイメージと一緒に覚えることができそうです。

例えば学校で、粘土を使う授業で何かを作っていたとしましょう。

友人に「何それ? (What’s that?)」と聞かれたら、なんと答えるか。

「ペンだよ (This is a pen.)」。

これだと英語と日本語のニュアンスが若干違うような気もしますが、ひとまず具体的な場面を想定できるので、使い方もわかりますし覚えやすそうな気もします。

 

上に書いた論理の問題も、良い例です。

数学の論理の問題として解こうとすると、一瞬考えなければわかりませんし、理解にも時間がかかります。

一方で、未成年のアルコール飲酒防止という問題を例示して、普通に考えれば解ける問題ではあるけれども、問題を「未成年⇒ソフトドリンクを注文」という命題に直してあげることで、考えなくても数学的な操作だけで解けるんだ、というところに出発点を置いてやれば、イメージはしやすくなってくるはずです。

 

重要なのは、「抽象的な概念を説明してから具体例を出す」のではなく、「具体例から抽象的な概念へと落とし込む」こと

いきなり抽象的な話をされても、その部分はぼんやりとしか理解できないまま、具体例を習う頃にはスッポリ抜け落ちてしまいます。

具体例から、現実と結びつけながら抽象的な概念を学ぶことで、本質の理解が可能になるのです。

 

つまり、方程式の解き方をいきなり教えてはいけないのです。

まずは文章題のような問いを出し、それを解くためには方程式が必要であることを説明し、方程式の解き方を学ぶ。

演習ではまずは、文章題を方程式に落とすところからはじめていく。こうしたほうがよほど現実の操作に近いことを学んでいることになります。

 

 

どうやって具体例を思いつくか

と言われても、すべての単元について具体例を考えるなんてことはできないよ、という方もいらっしゃるかもしれません。

そんな方のために、具体例発想のヒントを書いておきたいと思います。

 

まず、その時に教えようとしている単元が現実とどう結びついているのか、しっかりと教える側も理解しているということが大前提です。

その上で、なぜ現実世界をそのまま取り扱わずに、モデル化した教え方をしているのか考えます。

何でも良いので現実世界の具体例をあげ、なぜモデル化しているのかを説明してしまえば良いのです。

 

例えば数学なら、現実世界とつながるためにはあまりにも多くのステップが必要だから。

物体の運動を理解するには2次関数が絶対に必要なわけですが、そこに至るには微分方程式という壁を乗り越えなければなりません。

あるいは理科なら、現実世界があまりにも複雑すぎるから。

坂の途中で止まっている車について考えるためには、転がり抵抗やら車自身の構造やら様々な要因が絡んできます。そこへと至るための1つのステップとして、単純な斜面と物体のモデルを考えるのです。

 

これだけならそれほど難しいことはありませんよね。

たったこれだけの説明でも、現実世界に少し触れてやることで、目標意識を明確化することができます。更には具体的なイメージを抱くことができるので、より理解が進むようになるのです。

上記論理の問題は相当頭をひねってありますので、そこまでする必要はありません。まずは少しずつ現実世界に触れていくことが重要です。

 

 

具体的な問いからスタートすることで、より深い理解を

とはいえ、理想はやはり、具体的な問いかけから授業をスタートして、抽象的な概念へとスマートに落とし込んでやることです。

こればかりはそれぞれの単元ごとに、頑張って頭をひねっていただくしかありません。

物理に関してであれば、上述の本に幾つか方法が書いてあるのですが、それ以外の科目ではかなりの努力が必要になります。

 

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