横串式教育法のすすめ ~ 脱体系的教育で生徒の学習意欲アップ
こんにちは、ricebag(@ricebag2)です。
この記事では、当サイトが提唱する「横串式教育法」とは何か、どんな効果があるのかをご紹介していきます。
従来の教科書に則った体系的教育を脱し、「ストーリー」を軸に分野横断的なカリキュラムを構築することで、学問体系の横のつながりを明確化。それによって生徒の学習意欲を喚起していく手法です。
体系的教育の限界 ー 目的を明確化できない
授業では、生徒に対して常に、今何をしようとしているのかという「目的」を示すべきです。
目的が明確でない授業は、生徒に五里霧中で話を聞くという苦行を強いることになり、学習意欲を低下させます。
当サイト内でも記事にしておりますが、このことは広く一般にも知られています。
例えば米国の大学における物理教育を論じている 「科学をどう教えるか」 という本にも書かれていますし、教育に限らなければプレゼンテーションの技術を語る際には、聴衆に話を聞いてもらうための方法として必ず論じられます。
何らかの意図を持って目的を隠す場合を除けば、目的の明確化は必須の手法なのです。
しかしながら、現在の学校教育のカリキュラムを踏襲していると、この「目的を明確化する」という点に無理を生じます。
ただひたすら体系に沿ってカリキュラムが展開されているため、なぜ、なんのためにその単元を学習するのかという、最終的な目的が見えにくいのです。
何か例が欲しいところなのですが、やはり理科が最も説明しやすいので、理科を例にとって考えていくことにしましょう。
例えば、中学以上の物理分野では「音」に関する内容がありますが、これに一体何の目的があって学ばなければならないのか、説明できますでしょうか。
大人の目線からみれば、これはあくまで一般教養でしかありません。
- 音に関係する困難に出会ったときに、問題に対処できるようにする
- 自然現象、特に波に関係する現象を一通り、体系的に説明する科目の一環
といった理由で行われるものです。前者はどういうことかと言いますと、例えば、何かの機械から異音が発生したとき、あるいは声の出し方を考えるときなどに、音が縦波であることを知っていれば対処しやすくなるという程度のものです。
ですが、これはあくまで「音」というものを理解した人から見た目線であって、これを初学者に伝えるのは無理があります。「音」が何たるかを知らなければ、上記の事柄が学習のモチベーションにならない。モチベーションがなければ「音」の学習ができない、という負のスパイラルに陥ってしまうのです。
学習目的は単元内で完結しない
ではどうすれば、学習意欲を高めるような目的を設定できるのか。
よくよく考えてみると、上記例であげた機械の異音にしろ、人の声にしろ、「音」という単一の単元で完結するものではありません。
科目外の「機械の構造」であったり、あるいは中学では学習しない声帯の構造であったりと密接に関わる目的です。
それでは、「音」という単元はどんな内容と関係しているのかということを、一度考えておきましょう。
まずは、音を検知するセンサーがなければ、認識することすらできません。人体に存在するセンサーが「耳」。あるいはマイクロフォンを取り上げても良いでしょう。いずれにせよ、「音を検知する」という内容を絡める必要がありそうです。
もう1つ、音の発生源も必要です。一番シンプルなのは「スピーカー」でしょう。あるいは「楽器」を使ってもよいのですが、こちらは少し話が複雑になります。
こうして考えてみますと、「音」というのは発生源からセンサーまでを一体として取り扱ってはじめて意味を持つものだ、ということが見えてきます。
こうした観点から目的を設定してみますと、例えば
- 「良いスピーカー」とは何かを考える
- 音の「記録」と「再現」の歴史
といったストーリーを軸に展開することが考えられます。
これらがどういうことなのか、もう少し詳しくみてみましょう。
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例1: 「良いスピーカー」とは何か
世の中には、数百円のスピーカーもあれば、数千万円するようなスピーカーもあります。一体これらには、どのような違いがあるのでしょうか。
スピーカーは振動板を振動させることで音が出ていますので、その振動板の素材を変えたり、振動板を動かすための導線や磁石の素材や形状などを変えたり、あるいは箱(エンクロージャー)の素材や形状を工夫したりして音を変化させています。
どうしてこのような工夫によって音が変わるのかを考えていきましょう。
といった前置きによって「目的設定」をしてやります。ここでの目的は、スピーカーがどのようにして良い音を出しているのか考える、ということです。
このテーマは、生徒自身が工夫方法を考えやすい、ディスカッションしやすい内容になっていますので、アクティブ・ラーニングを取り入れたい場合にも扱いやすいテーマです。
このように目的設定をしたうえで、まずはスピーカーの振動板⇒耳までの経路を説明してしまいます。
具体的には、
振動板の振動⇒空気の疎密波形成⇒鼓膜で疎密波感知⇒耳内の構造で増幅・検知
といった順序での説明になるはずです。ここでまずは、耳と音を結びつけ、音が縦波であることを強調しつつ縦波というものがどういうものなのかを理解してもらいます。耳の構造というのは単体で学習してもなかなか頭に入らない単元ですが、こうして音に結びつけることで、ストーリーの流れの中で理解することができます。
続いて、振動板をいかに動かすかということを説明します。
振動板の振動は電気と磁石によって駆動されていることを説明し、(それまでに未習であれば)電子と電流の関係、フレミング左手の法則に触れます。
ここで電流の波形を力学的な振動に変換できることを学び、波形の話題から音の高さ、大きさ、音色に触れておきます。
続いて音の共鳴について、エンクロージャーの素材と絡めて学びます。
こうして最後に、どうすれば良い音を出すスピーカーを作ることができるのか考える、という内容にしていくのです。
中学範囲であればドップラー効果を除いて音に関係する項目を網羅できる、良い題材です。
場合によっては分子、空気の組成、天気の話題などを絡めることもできます。
高校以上であれば、気体分子運動論、気体の状態方程式、交流回路、力学、波の干渉などについても関係させることができます。
例2: 音の「記録」と「再現」の歴史
こちらは「擬音」としての口伝、文字記録に始まり、楽譜、蓄音機やレコード、マイクとスピーカーという音の記録と再現に関する歴史と、手法進化の系譜を追いつつ、音について説明していく方法です。
もはや科目を超えて、世界史や音楽にも踏み込んでいきますので、なかなかハードルが高いという点と、小中学生の興味を惹きにくいというのが難点。
むしろ大人の興味を惹きやすいので、学び直し等の場で使うのに良い題材です。
まずは音が縦波である、波であることを紹介した上で、それをいかに記録するかという歴史をたどります。
複雑な波形をそのまま記録することが難しかったため、古くは動物の鳴き声などを擬音として表現したり、音を口伝によって伝承したりといったことが行われました。
文字が発明されると、擬音を文字として記録。
楽器が発明されると、「音の高さ」を楽譜として表すようになりました。実はこれは、現代のデジタル記録にも通じるところがあります。
しばらくすると、音の振動を記録することができるようになり、さらにそれを音として再現できる「蓄音機」が発明されます。それがレコードへと発展し、磁気記録によるカセットテープも実現します。
現代では、ある周期でのサンプリングと、フーリエ変換を用いたデジタル化によってリアルな音を小さな記憶容量で記録することができるようになっています。
こうした流れで説明していくことになりますが、こちらはどこにどのタイミングで、どのようなストーリーの流れで音に関する学習項目を混ぜ込んでいくか、という話者の高度な話術が要求される手法です。
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横串式教育法の本質は目的に向かうストーリーにある
ここまで長々と具体例について述べてきましたが、科目によって、あるいは学習単元によってストーリーの設定方法は大きく異なってきますので、具体例はこのくらいにして本質をご説明していくことにしましょう。
上記具体例だけでも、あえて「体系的学習をやめる」ことによって、学習者の興味を惹く、学習へのモチベーションを高めることができるということをご理解いただけたかと思います。
体系的学習というのは、カリキュラムの効率を求めて作られたものです。
全分野を少ない授業時間で網羅することができる、優れた方法です。
しかしながら、体系的にカリキュラムを組むことで、学習者のモチベーションが低下し、結果的に理解させるために長い時間を使ってしまっては本末転倒です。
それならば、多少カリキュラム効率が落ちてしまっても、最初から学習者のモチベーションを高められるようなカリキュラム設計をしたほうが、結果的に必要な授業時間数が少なくなる可能性もあります。
学習者のモチベーションを高めることができ、かつ話者の技術に頼らない方法として、
- 興味を惹く目的を、明確かつシンプルに示す
- 目的に向かう明確かつ破綻のないストーリーがある
というものがあげられます。
これらを満たすためには、従来の体系的カリキュラムでは不十分なのです。
そこで、ある1つの核になる単元をピックアップし、その単元の目的を明確化する。
その目的に向かうために必要な単元を並べ、1つのストーリーを通す。
こうして出来上がるストーリーを複数用意し、結果的に全学習単元を網羅できるようにする。
これが、本サイトの提唱する横串式教育法なのです。
学問体系という縦の軸にはこだわらず、ストーリーという横の軸を通していく。
分類学的なつながりではなく、話の流れの中で理解する有機的なつながりを重視する。
これによって、学習のモチベーションを上げるとともに、できるだけ本質を理解できるように構成する。
こうすることで、応用力、思考力、論理力を鍛えていきます。
体系的学習は、記憶に定着させるという意味では極めて重要ですので、学習内容を2周するだけの余裕がある場合には、2周目には体系的学習を用いると良いかもしれません。
その意味で、横串式教育法は学習塾などの学校外教育に向いた手法であると言うこともできます。
当サイトでは、横串式教育法に関する詳しい情報を随時ご紹介していきます。
横串式カリキュラムを開発するために
上記横串式教育法を実践するためには、全単元を漏れなく網羅できるようにうまくストーリーを構築していく必要があります。
そのためには、科目に関する知識だけでなくストーリー構築の仕方など、特殊な発想法が要求されます。
体系的なカリキュラムを、いきなり横串式に変更しようとすると無理を生じる場合もありますので、まずは体系的なカリキュラムの中に少しずつストーリーを混ぜ込んでいくのがおすすめです。
また、当サイトでは横串式教育法導入に向けたストーリーの考え方や、横串式カリキュラムの例などを随時ご紹介していきます。
横串式教育法に関するまとめページに記事をまとめていきますが、それだけでは不十分だという方、カリキュラムの細かい部分を決めきれないという方のために、相談制度をご用意しています。
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詳細は以下のご案内ページをご覧ください。
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